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南アフリカ:2010 FIFA ワールドカップに32チームと4万人の売春婦が参戦?

カテゴリー: サハラ以南アフリカ, 南アフリカ, スポーツ, メディア/ジャーナリズム, 女性/ジェンダー

2010 FIFA ワールドカップを観戦するつもりなら、どうやら世界中から南アフリカに集まるであろう4万人もの売春婦に会うのを覚悟しなければいけないようだ。もし噂を信じるのならば、だが。

[1]

南アフリカのケープタウンのストリートアート。Flickr の candinski より(2005)。

ヒンドスタン・タイムズ紙はウェブサイトの記事 [2]で以下のように報じている。

まさかと思うだろうが、調査によると、来月行われるワールドカップでサッカーファン相手に商売をしてひと儲けをしようと、少なくとも 4万人の売春婦が南アフリカにやってくるとのことだ。

Nehand Radio で、Savious Kwinika はワールドカップの開催が迫るにつれて南アフリカへと移動するジンバブエのセックスワーカーについて書いている。 [3]

2010 年のワールドカップの開催が迫るにつれて、ジンバブエのセックスワーカーは 自分たちの国を捨てて新しい活動の場を南アフリカに求めている。この流れに対して、人権活動家や教会団体は、人身売買を妨げ売春を阻止する措置を求めているが、50万人も外国からワールドカップのファンが来るため、経済的な成功に引き寄せられ、すでに貧しい労働者たちは南アフリカにやってきている。

同記事にはマジックナンバーが現れている。 [3]

ワールドカップと風俗業は以前から縁が深かった。2006年のワールドカップは、売春宿や売春が合法であるドイツで開催され、推定4万人のセックスワーカーが国外から流入した。このため、人権団体から多大な批判を浴びることとなった。南アフリカの薬品中央局は、4万人のセックスワーカーが2010ワールドカップのためヨハネスブルグにやってくるだろうと推定しているが、数字の根拠は示していない。

似たような話が(10億のコンドームという新たなマジックナンバーも登場!)「南アフリカワールドカップ:10億のコンドームと4万人のセックスワーカー」 [4]でも展開されている。

性産業にとってサッカーのワールドカップはキャンディショップにとっての休暇シーズンのようなものだ。そろいもそろってお祭り気分の興奮した人たちがどっとやってくるのだ。ちょっとした道楽に金を払う余裕はある。

南アフリカの中央薬事局は、4万人のセックスワーカーがワールドカップに備え、遠くロシア・コンゴ・ナイジェリアからもやってくるだろうと予測している。40万人の観光客はほとんどが男性であり、サッカー観戦後にさまざまな好みを満たすのだ。

ブロガーでありフリーのメディア・コンサルタントでもある Brett Davidson [5]は、フィクションと事実を区別している。4万人の売春婦という人数はでっち上げであり [6]であるという。

どうにも不思議で気に障るのだが、4万人の「売春婦」がワールドカップに備えて南アフリカに売られる予定であるという噂が絶えない。

この人数は幾度も繰り返されている。(たとえば、南アフリカのメロドラマのスターが数人出演した売春婦移動反対のビデオでは、10万人まで膨らんでいた。)事実の裏づけのない、完全な捏造で、正当性を実証するための証拠は得られていないにもかかわらずにだ。

Brett はドイツで開催された前回のワールドカップでも、事前にでっち上げの人数が飛び交っていたと話す。

まったく同じ噂がドイツのワールドカップの前にもあった。しかし、後に欧州連合理事会による調査(ドキュメント5006/1/07 と 5008/7)により、合計で 5 件しか例がないことがわかった。たった 5 件だ。

このでっち上げの人数は数年ごとに2倍に増えているとのことだ。 [6]

オンライン出版の Spiked は2007年2月のころからこの現象に言及していた。今週、Spiked は馬鹿げた噂が広まっていることにまた注目している。興味深いことに、筆者の Brendan O’Neill は数年ごとに架空の人数が2倍に増えていることに注目している。オーストラリアのオリンピックには 1万人の性奴隷、2004年のアテネでは2万人、2006年のドイツでは4万人、そして南アフリカだ(今度は8万人?)。

それにしてもこういう数字はどこから出てくるのだろう? [6]

さて、こういう数字はどこから出てくるのだろう?中央薬事局の副議長である David Bayer が発言したとされていることに目を向けてみよう。Independent Online の報道によると、Bayer はこの数字に何の根拠も挙げておらず、不確かな二次情報をそのまま口にしているだけだと示唆している。彼は中央薬事局がダーバン市当局に大量の人身売買が発生する可能性を警告されたと述べている。「ダーバン市当局にそういう噂を聞いたと誰かが報告したそうだ。」と彼は言った。つまり、この数字は中央薬事局があげたものではなく、ダーバン市当局が出したのでもないわけだ。誰かが噂を聞き、その噂が伝わっただけだ。だが、いったん Bayever が 4万人という数字を口にすると、その後の報告は中央薬事局がソースであると取り違えて引用しはじめるのだ。

さらに興味深いことに、噂では東ヨーロッパから女性が輸入されるのではと言われているのだ。どんなジャーナリストであれ読者であれ、頭が半分でもあればこんな噂がノンセンスだとわかるはずだ。ヒルブロウの街娼の相場を考えれば、東ヨーロッパからこっそりやってきた数千もの女性に払わなければならないのだから、業者が利益を出せるわけもないとわかるだろう。

彼の結論 [6]はこうだ。

公共政策が真っ赤な嘘に捻じ曲げられないように、メッセージを明確に効果的に伝えるということは、正確で厳密なリサーチにアクセスできる人間にとって大きな負担である。

セックスワークの件に関しては、人身売買に関する根拠のないヒステリーが本当の問題から注意を奪っている。本当の問題とは、南アフリカや近隣の国のセックスワーカーに人権と健康、安全を約束する必要性の尊重と保証である。

Chandré Gould は The Africa.Org の記事「人身売買とワールドカップ:脅威は大きいのか?」 [7]で同じ問題について考えている。

2006年のドイツのワールドカップの前にも、イベントの間は人身売買の量が跳ね上がり、ファンの風俗への欲求で加速するのではないかと心配された。同様の懸念が2004年のアテネのオリンピックの前にもあった。南アフリカの件で経験したように、2006年当時にはドイツについても、売春婦が4万人増加し、そのうちの大部分は人身売買だとメディアは報道した。

2006年のイベントのすぐ後で国際移住機関による調査が行われ、ワールドカップの開催中に人身売買の増加はなく、4万人のセックスワーカーという数字は根拠がなく非現実的だとわかった。(2006年7月の)レポートは[売春のための]人身売買と大きなイベントの関連を示すような信頼できるデータはないと結論づけている。さらに、国際移住機関にもドイツ警察にも性的搾取のための人身売買がオリンピック開催中にあったという記録はない。実際に、2004年のギリシャにおける人身売買の被害者は4人おり、国際移住機関が支援したが、どれもスポーツイベントの開催中ではなかった。

人身売買や売春の増加が過去のスポーツイベントで増加しなかったのには理由がある。

国際移住機関のレポートは幾月にもわたるドイツのワールドカップ中も人身売買に増加が見られなかった理由をいくつか挙げている。国際移住機関が意見を求めたNGOや治安の専門家は、まず一つ目の理由として、イベントの間に意識向上のためのキャンペーンや、法律強化などの施策を実施することで、人権売買を阻止できた可能性があると述べている。二つ目の理由として、性的サービスの需要は予測より低かったことが挙げられる。ワールドカップに参加するファンは家族ぐるみで来ているので、男性が性的サービスを買う機会は減るうえに、大半のファンは限られた予算内で旅行しており、買春のために払う余分の金などないからだ。また、ワールドカップの期間は短いので、国境を越えて被害者を運び、拘束するためのコストを考えると、まず人身売買業者は投資した金額分の見返りを得られないだろうとも話している。

数十億個のコンドームは?ブロガーはまだその件については議論していない。