東南アジア:セックスとウェブサイト検閲

インターネット・コンテンツの規制は、今日では民主化運動に対する対抗手段と考えられているが、東南アジアの政府当局は淫らな性行動の蔓延から若者を救おうという使命感を前面に押し出すことで、それを正当化しているようだ。

 インドネシアが「マルチメディア・コンテンツ検閲チーム」を使って「悪い」コンテンツを含むウェブサイトをフィルタリングする計画は一般市民の反対に遭って、先週金曜日に見送られた。しかし、歌手の性行為ビデオのネット流出スキャンダルが、世界最大のイスラム教人口を持つインドネシア国民を、年齢を問わず揺るがすなか、今日になってまた復活しつつある。反ポルノ法制定から2年が経ち、政府は若者のモラルを守ろうという保守層の声にこたえて、今度はインターネット・ブラックリストを施行しようとしているのだ。

 同じような有名人のセックス・スキャンダルに昨年見舞われたフィリピンでは、盗撮防止法の制定に道が開かれた。性行為テープを瞬時に流布するインターネットも批判の対象となり、国会議員をサイバー犯罪法制定に向かって走らせている。

 カンボジアでは政府が国内のすべてのサービス・プロバイダを管理する国営インターネット・エクスチェンジを構築する提案をしており、その目的はポルノ、盗撮などサイバー犯罪に対するインターネット・セキュリティを強化することにある。最近、僧院で入浴中の裸の女性の違法な撮影映像が携帯サイトやインターネット上にアップロードされた。規制案は最終的なものではないが、政府はその事件に無策であったことから、今回の措置を重大な決意で押し進めるものと見られている。

 東南アジアの各国の政府当局はウェブサイトを検閲するために、常にセックス・スキャンダルを口実にしているわけではない。インターネット・コンテンツの検閲および監視のために、国家安全保障を大義名分にするのはよくあることだ。たとえば、タイは世界で初めて、「危険な」コンテンツを含む10万のウェブサイトを閉鎖させた。タイ政府が不敬法違反のかどで、ブロガー、ライター、ウェブサイト管理者に罰則を科したのである。また、ベトナムは一部のウェブサイト、特に同国で物議を醸しているボーキサイト採掘に反対を表明したものにサイバー攻撃を仕掛けたとして、グーグルおよびマカフィーから非難されている。

 しかし、政治主導のインターネット規制はユーザー側から強い反発を受け、世界各国、特にメディア企業や人権団体から非難を巻き起こすことが多い。当局は耳障りな批判を無視することもできるが、そうすると国家の信頼性を失う。民主主義を標榜する国としては、長期間にわたってオンライン・メディアを検閲するわけにはいかないのだ。しかし、ポルノや不道徳行為の規制を名目にしたウェブサイト規制なら、抗議があったとしても、せいぜい囁きレベルで済む。これが、「有害」コンテンツをブロックする最大の安全策なのだ。ミャンマーのインターネット規制は実権を掌握する軍事政権の厳格な政策のひとつと考えられているが、ショートパンツ姿の女性の写真掲載を理由にした週刊誌二誌の発禁処分に対する民主化グループの抗議は通常よりも穏やかなものであった。

 オンライン・メディアの世界で性行為および性的な映像を排除しようとする強引な動きは、東南アジア諸国で保守化が台頭する兆候かもしれない。モラル・カード戦略は、たとえ地域の文化の多様性を軽視することがあっても、国内に好ましい態度、感情、行動を醸成するために使われている。インドネシアが制定した反ポルノ法に対してバリ州知事は、裸像やエロチックなダンスが古くから愛されてきた地元の伝統に反すると抗議した。カンボジアがポルノや性的な映像を流したウェブサイトを閉鎖したときには、胸をあらわにした古代のアプサラ・ダンサーとクメール・ルージュの兵士を描いた芸術的なイラストを載せたreahu.netまでその対象とされた。

 映像や行為をポルノ的、わいせつ、不道徳、みだらとする定義が曖昧なことも問題だ。フィリピンでは、政府の公式見解による「品位、道徳的、適切」に反するものを出版、アップロードすることがサイバー犯罪法違法とみなされる可能性に、活動家たちが懸念を示している。

 政府当局は従来型メディアの検閲に関しては、すでにツールもテクニックも手にしていた。今度はオンライン・メディアで限界点を試しているのだ。インドネシアのインターネット・ブラックリストの試みは、東南アジア諸国に与える影響を考えると、監視していく必要がある。同国はインターネット・ユーザーが4千万人に達し、「アジアのツイッター首都」と目されている。インドネシアがウェブ・コンテンツのフィルタリングに成功すると、これに追随する国が出てくると思われる。

 ウェブサイト検閲は情報へのアクセスを遮断するだけでなく、インターネット・ユーザーがオンラインで連帯する力を弱めることになる。本当に若者を守りたいのであれば、若者とその親、彼らの属するコミュニティにきちんとした教育と関連情報を与えて、ネットサーフィンの可能性とそこに潜む危険性を教えることがベストである。

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