- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

ブラジル:LGBTをめぐる議論

カテゴリー: ラテンアメリカ, ブラジル, 人権, 同性愛者の権利 (LGBT), 市民メディア, 法律

このところの法律面での進歩、また、同性愛嫌悪を刑事罰の対象とする法案がブラジル上院に提出されたことを受け、LGBT [1](Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性転換者)の頭文字)に対する暴力、偏見や異性愛主義の表明に焦点が当てられるようになった。ブラジルのオンラインコミュニティ等を舞台に、性的指向に関する権利について様々な議論が交わされている。

最高潮に達する同性愛嫌悪犯罪

ブラジルでは、異性愛以外の性的習慣は偏見や暴力の対象になりやすい。LGBT Youth Association [2]によれば、同性愛嫌悪とは「同性愛者に対する恐れとその結果としての侮蔑」であり、同性愛者の拒絶につながるものだ。

ブラジルで殺人被害に遭ったLGBTに対する追悼。リオ・デ・ジャネイロ。2010年11月10日 写真/FlickrユーザーAndré Gomes de Melo (SEASDH) (CC BY-NC-SA 2.0) [3]

ブラジルで殺人被害に遭ったLGBTに対する追悼。リオ・デ・ジャネイロ。2010年11月10日 写真/FlickrユーザーAndré Gomes de Melo (SEASDH) (CC BY-NC-SA 2.0)

2011年始め、サンパウロのパウリスタ通りで同性愛者に対する暴行が複数 [4]報じられた。男性同性愛者のグループが、その性的指向や、手をつないで歩いていたという理由だけで襲われ [5]、蛍光灯で殴られた。

連邦政府やLGBTの権利を擁護する非政府組織が発表するデータによると、同性愛嫌悪による犯罪は年々恐ろしい勢いで増えている。過去5年間での、彼ら性的少数者に対する嫌悪を動機とする殺人件数の増加率は113% [6]だ。

ジャーナリストRenato Rovai [7]はブラジルLGBT協会の発表を引用し、2009には同性愛嫌悪を動機とする殺人が198件報告されたと伝えた。

また2010年には男性同性愛者、女性同性愛者、服装倒錯者合わせて少なくとも260人が同様の動機による暴行の結果、死亡している。LGBTの権利を擁護する団体として最大級の規模を誇るBahia Gay Group (GGB)は、この件数の多さに対して非難の声を上げた [8]

Dentre os mortos, 140 gays (54%), 110 travestis (42%) e 10 lésbicas (4%). O Brasil confirma sua posição de campeão mundial de assassinatos de homossexuais: nos Estados Unidos, com 100 milhões a mais de habitantes que nosso país, foram registrados 14 assassinatos de travestis em 2010, enquanto no Brasil, foram 110 homicídios.O risco de um homossexual ser assassinado no Brasil é 785% maior que nos Estados Unidos.

死亡した者のうち、140人(54%)が男性同性愛者、110人(42%)が服装倒錯者、10人(4%)が女性同性愛者だった。ブラジルは、同性愛者殺人件数では世界チャンピオンだ。ブラジルよりも人口が1億人多いアメリカでさえ、2010年に殺害された服装倒錯者は14人だと報告されている。その点ブラジルでは110人だ。同性愛者がブラジルで殺害される危険性はアメリカと比べて785%高いことになる。

しかし、同性愛嫌悪を動機とする暴力件数は、実際にはもっと多そうだ [9]。虐待の被害者は多くの場合事件を口外せず、警察に駆け込みもしないためだ。

「法律でしか止められない偏見もある」

"Some prejudices only end by law" - Act in repudiation of the homophobic crimes in Sao Paulo's Gay Parade, 2009. Photo by Marcel Maia in Flickr, Creative Commons 2.0 [10]

「法律でしか止められない偏見もある」同性愛嫌悪による犯罪の撲滅を訴える運動。サンパウロ

ブラジルのLGBTグループが訴える主な権利の中には、近年、目を見張る前進を見せてきたものもある。

最近では全国保険協会が、同性愛者のパートナーを扶養家族とし、死亡保険年金の受け取りなどの社会保障を受けられる権利を認めた [11]

今年2月、国会議員Jean Wyllys氏 [12](自身が同性愛者であることを表明した最初のブラジル国会議員)は就任演説で、同性のパートナーと結婚する権利を保証する法改正案を提出すると述べた [13]。同性結婚が認められている国で結婚していたとしても、現在のブラジルでは同性結婚は法律上、存在しない。

2006年の国会議案のうち、同性愛嫌悪を刑罰の対象としたのは法第122号(法案122号)だ。ウェブサイトNão Homofobiaによると [14]、法案122号で提議されたのは、1989年1月5日に施行された法第7.716号を修正し、ジェンダー(社会的、文化的な性別)、性別(生物学上の性別)、性的指向や男女の平等に対する偏見や差別を犯罪であると定義するものだ。

Isto quer dizer que todo cidadão ou cidadã que sofrer discriminação por causa de sua orientação sexual e identidade de gênero poderá prestar queixa formal na delegacia.

つまり、自身の性的指向や性別の認識による差別に苦しんでいるすべての人々が、警察署に行って正式に訴えを起こすことができるということだ。

法案122号の審議過程を巡って、ブロガーFelipe Shikamaが次のようにコメント [9]している。

Aprovado por unanimidade pela Câmara Federal em setembro de 2006, o PLC que está no Senado desde fevereiro de 2007, com nº122, determina “sanções às práticas discriminatórias em razão da orientação sexual das pessoas”. No entanto, o projeto foi retirado para “reexame”, diante das pressões promovidas por representações dos segmentos mais conservadores.

2006年9月、下院が全会一致で可決した法案122は2007年2月に上院に送られた。法案には「人々の性的指向に基づく差別的行為に対する罰則」と記載されている。しかしこの提議は、より保守的な層に属する議員の圧力により、「再審議」という名目で一旦は削除されたのだ。

「LGBTに焦点が当てられるようになり、また、法的整備が進むにつれ、今年の初めから同性愛嫌悪による事件に光が当てられるようになってきた」と言うのはRede Nacional de Negras e Negros LGBTのコーディネーターを務めるNilton Luzだ。Luzは2011年初めのパウリスタ通りでの襲撃事件はただの偶然ではないと考えている。Luzの説明はこうだ [15]

O crescimento da pauta LGBT na agenda pública brasileira teve o efeito colateral de organizar a oposição reacionária aos direitos dessa parcela da sociedade. Tornou-se a principal bandeira da bancada evangélica, obrigou um retrocesso na campanha de 2010 e tem tomado o espaço midiático que tiveram as cotas raciais na década passada.

ブラジル国内でLGBT問題への注目が高まっているが、同時にLGBTの権利に反対する、反動主義者を組織する動きにもつながっている。反動主義は福音主義議員の最重要政策になり、2010年の選挙運動ではLGBT運動を後退させ、過去10年間は人種関連の記事が掲載されていた場所を奪う形で反動主義者の記事が載るようになった。
Image from the blog of the project Eu Sou Gay (I Am Gay) [16]

Eu Sou Gay(私はゲイ)プロジェクトのブログからの画像

一方では、ある宗教団体 [17]極右勢力 [18]が、ブラジルは「ゲイの独裁者」を生みつつあると主張して広く同性愛に関係した立法の推進、特に法案122に反対している。

また一方では、同性愛嫌悪による暴力が増加するのと同時に、即座にそれら暴力に対する反対運動が繰り広げられた。#EuSouGay [16](私はゲイ)キャンペーンは、ある女性が自身の同性パートナーの家族に殺害された事件 [19]がサンパウロで発生したことを受けて立ち上げられた。市民社会はLGBTの人々が、金輪際恐怖と隣り合わせで生きなくてもよくなるよう、人々を動員し、法案122の承認を強く求めている。

グローバルボイスでは引き続き、LGBTの現実に光を当てた事柄やブラジルにおける性的指向に関する権利について議論していきます。LGBTに対する偏見やLGBTの受け入れ、また、オンライン上でLGBTがどのように描かれ、また表現されているのか、ネットユーザーの見方をレポートします。