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イギリス: アイディアは追放できない

カテゴリー: 市民メディア

世界的な金融危機と占拠せよ運動 [1]#Occupy Movement [1])が結託して生まれたアイディア銀行 [2]は、英国の首都において多くの人々の関心を集めてきた。フリージャーナリストのライアン・ギャラガー [3]氏はこのプロジェクトについて次のように説明している。

ロンドンの栄えた金融街の外れに4階建てのオフィスビルがある。所有者は世界でも最大規模を誇る企業のうちの1つだ。このビルに思いもつかなかったような新たな用途が見出された。先月2011年11月18日、反企業欲精神のもと活動する「占拠せよ運動」の活動家たちは、サンストリート5-29にあるスイスの金融サービス大手UBSが所有するそのオフィスビルを「取り戻した」。そこは現在「現金ではなく創造性の取引を提供する場」として芸術系のワークショップをはじめ、あらゆる事を題材に議論をするディスカッショングループなどでにぎわっている。扱うテーマは不法居住者の権利から経済通商政策まで様々だ。

You can't evict an idea [3]

撮影:ライアン・ギャラガー

 

活動家たちにとってその建物を選んだのにはとても重要な意味があった。世界的な金融危機によりUBSはヨーロッパの金融業の中でも最も大きく損害がかさみ、2008年にはスイス政府から600億ドルの救済措置を受けたのだ。@HeardinLondon [4]は「人々が占拠せよ運動をどう思おうと、7年間もの間使われていなかったビルを綺麗にし、無料のアート空間や教育センター、コミュニティーセンターとして生まれ変わらせるアイディア自体は非難できるものではない」と述べている。

 

 

 

何だって?皆さんは驚いている事だろう。UBSってアメリカで巨額の脱税論争に関わったっていうあのUBSかい?悪質トレーダーがおよそ20億ドルも不正取引するのをまんまと見逃したっていうのと同じUBS?担保ローン者から67%もの金利を巻き上げたUBS銀行じゃないだろうな?ビン・ラディンが選んだ銀行だっていう噂もあるし、フセインの銀行だったとも言われている、そのUBSじゃないだろうな?驚いた事に、まさにそのUBSなのである。

虐げられている人々のためのプロジェクトの拠点を銀行内に構えることは、政府の横暴な方針に対する最高のアンチテーゼだ。

これで経済的正義を主張する運動家たちが占拠するフィンズベリー広場や聖ポール大聖堂に次き、ロンドンでは3か所目の占拠となった。有志により運営されているニュース番組であるynuktv [5]はYouTubeに動画を投稿し、金銭を介さないアイディアの交換は我々が抱える経済や社会、環境といった問題解決への助けになる、とその構想を述べた。

広がるアイディア

そこは現在、様々なボランティアに支えられ、無料のワークショップや講義を行うための場として広く開かれている。占拠者たちに対する立ち退き要求は始まっており [6]裁判所への上訴が1月23日または24日頃にある [7]と見られている。その間にもプロジェクトは占有以来3か月目をむかえ、2012年12月まで [8]、無料の大学講義 [9]生態系農業のワークショップ [10]画廊 [11]ヨガ教室 [12]などライブ配信される [13]ものも含め、数多くのイベントが予定されている。

参加者や来訪者は自分たちのブログを通してそれらについて報告している。イラストレーターのイザベル・ウィリアムスは感想と共に絵を使って訪れた人々の様子を伝えている [14]。一方ビジュアルアーティストのラファエル・フランコは自身が参加したDr.Bike(自転車のお医者さん)のワークショップについて次のように報告している [15]

私はパオラとトニーという2人に素敵な女性に出会った。彼女たちは自転車と人々のために何年も活動してきている。私にはカカという最愛の自転車があるが、必要な修理は特になかった。そこで、その場にとどまり師匠たちに教わりながら、活動の記録をする事にした。

彼らと過ごした2時間はとても素晴らしいものだった。私はそこでブレーキの調整方法や、ケーブルや上下のネジ、バランスなどの基本的なギアの整備方法といったとても役立つ情報を学んだ。

ジャーナリストのピーター・ワッツは驚いた [16]そうだ。

私は内部の様子など全く知らず、あたたかい歓迎を受けるのだろうと考えていたのだがその組織の深さに驚いた。団結心のみならずその中間管理能力は組織を事業の域にまで高めていた。これは驚くべき規模で組織化された占拠活動である。そこはどこもかしこも情報やアドバイスが書き込まれたフローチャートやワークシート、ホワイトボードと、メッセージを広めニュースを共有しようと奔走する人で埋め尽くされていた。私はこれまで数多くの新聞社で働いてきたが、ここのように優れたコミュニケーションができていない所を多く見てきた。ここはとても活気に満ち一体感がありどれもが本当に印象的だった。

クリスティーナは自身が開いたメディテーション教室 [17]について次のように報告している。

到着した瞬間から、私たちは特別な場所で特別な人々の中にいるのだと感じました。そこでは皆がそれぞれ勇気を持ち、ものすごい努力をしていました。穏やかでありながらも社会や経済の根本的な改革を目指し奮闘していました。私たちはそこで、公正な社会を求め新しい世の中にするために内外に潜む難題に懸命に取り組む彼らの姿を目の当たりにしたのです。

賃貸料£5 

[4]

「銀行口座報告書」@heardinlondonより。掲載許可取得済み。

アイディア銀行のメンバー達は、コミュニティーグループや財政支出の削減により居場所を失った公共サービスに携わる人々に今後もそのビルを提供し続けるため、その建物の賃貸料として [18]UBS銀行に5ポンドを支払うと申し出た [18]。税務署に提出された最新の再評価申請書によると、これはこの巨大な投資銀行がロンドンの中心に位置する一等地にある商業用の不動産の課税評価額として主張してきた全額であった。1階あたり10万ポンドだったものがたったの1ポンドに、全部あわせても5ポンドにまで落ちたのだ。

我々ロンドンを占拠せよ運動はUBS銀行に対し友好的かつ熱意ある提案をさせていただきます。大きな共同体を構築するのにあなた方の助けが必要なのです。

アイディア銀行は国家の援助を受けず、ボランティアや技術を持ち寄る事でこの放置された建物を修繕しました。ここは夏の社会不安によって最悪の被害を受けた地区のうちの1つでもありましたが、アイディア銀行がこの場所を公に占拠するようになって以来、コミュニティーセンターとして使用され、政府の支出削減の影響を受けた地域の団体が重要な業務を続けていくための場となっていました。

UBSはこれまで多くの良いとは言えない行いで非難されてきました。そこで、過去を一掃するためにもロンドンを占拠せよ運動とアイディア銀行は共に、正式に貴社の協力をお願い申し上げるのです。ハクニーは世界で最も富める企業からほんの目と鼻の先に位置しています。そのハクニーを代表し、コミュニティーの運営者がこの場所を今後も管理し続けられるようにしたいのです。

UBSから前向きな返答が得られるかは今のところ不明である。その間に、ピーター・ワッツは万が一の場合に備えてできるだけ早く訪問をするように人々に提案している [16]

一般の人々の楽しみと不満のはけ口がコーポラティズムの圧力に押しつぶされてしまわないうちに早めに訪れる事をおすすめします。

Art in UBS Building ''Bank of Ideas'' [19]
FlickrユーザーElco_,の写真。Creative Commonslicense (CC BY-NC-ND 2.0)のもと掲載。