台湾:故郷を愛する人々を襲う30年の『悪夢』

昨年日本で起きた 福島での原発事故 の後、 台湾ではますます多くの人々が、原発によって引き起こされる様々な問題に気付き始めた。最も深刻な問題の一つは、タオ族 が代々住み続けてきた 蘭嶼(台湾本島の南東沖にある周囲40kmの孤島)に置かれている放射性廃棄物だ。

2011年12月30日、タオ族の人々が台北の総統府前に集まり、蘭嶼に放射性廃棄物貯蔵設備を置いていることに 抗議した。 [zh] だが、総統は彼らの抗議に何の反応も示さなかった。

2012年2月20日、今度は蘭島の貯蔵設備の前で500人ものタオ族の人々が 抗議活動を行った。 [zh] 放射性同位体が建物の外で観測されたことで人々の懸念が強まり、また、施主台湾電力が「放射性廃棄物を別の場所に保管するという約束を果たせていない事に憤ってのことであった。

Wired Taiwan の Jessie Tai は、なぜ台湾電力が2002年末までに放射性廃棄物を蘭島の外へ移すという約束を果たせなかったのか、 その理由をこう述べた 。[zh]

因為核廢料處理最終場址的選定程序過於漫長,以及把核廢料運往國外處理的計畫失敗。

長期的に放射性廃棄物を保管できる場所を他に見つけるのにはとても時間がかかるのです。また、海外に引き取ってもらうという当初の計画も失敗に終わりました。

Taiwan New Talkの記者は、タオ族の 要求 をリストアップした。[zh]

首先,已經完成核廢桶檢整的貯存場應立即遷出蘭嶼;其次,蘭嶼將不續租土地給台電放置核廢料,已造成污染之土地必須進行除污與活化;第3,政府部門與台電應對核廢料貯存在蘭嶼的錯誤政策進行檢討,並重新與達悟族人談判後續賠償事宜,以彌補多年來達悟民族因核廢料所損失的健康。

第一に、大量の放射性廃棄物をただちに蘭嶼の外へ移すこと。第二に、蘭嶼は台湾電力社に放射性廃棄物を貯蔵するための土地を貸し出すのをやめ、汚染された土地を除染し元に戻すこと。そして第三に、政府と台湾電力は蘭嶼に放射性廃棄物を置くという誤った政策を反省し、放射性廃棄物によって起きたあらゆる健康被害への賠償についてタオ族と対話すること。

タオ族のなかには、政党に加わり 立法院を通じて [zh] 政府に働きかけている人々もいる。以下はJessie Taiによる報告である。

在農曆年前的大選中,提倡環保的綠黨為了強調其反核立場,將長期推動反核運動的達悟族單親媽媽希婻瑪飛洑列為該黨不分區立委名單第一人,綠黨雖然後來並未達到政黨票5%的國會門檻,但在蘭嶼卻創紀錄地拿下35.7%的政黨票,突顯出蘭嶼人長久以來的不滿,以及對自身家園環境的隱憂。

今年の1月の立法委員選挙で、環境問題に対する意識が高い緑の党は、反核の立場を強調するために、タオ族原住民でありシングルマザーである希婻‧瑪飛洑を立法府の代表に立候補させた。結局、同党への入票は議席を得るために必要な票数の5%にも及ばなかったが、蘭嶼では35.7%の票を獲得した。この新記録は長きにわたるタオ族の怒りと自国への憂いを示している。

以下は台湾先住民テレビにより制作された、蘭嶼の放射性廃棄物問題の経緯を描いたドキュメンタリーである。

ここにビデオの脚本を一部翻訳したものを掲載する。

0分18秒:1982年、放射性廃棄物を乗せた船が蘭嶼の港に着く。島に住むタオ族にとって、この日が30年にも及ぶ長い悪夢の始まりの日となった。

4分24秒:1988年2月20日、タオ族が放射性廃棄物貯蔵施設の存在に抗議した。この24年後の雨の日、同施設前に蘭嶼の住人が怒りのもとに集う。彼らはスローガンを声高に叫んだ。「蘭嶼を愛しています、放射性廃棄物なんていらない」タオ族の放射性廃棄物に対する抗議活動はこの時から始まった。

4分53秒:1995年6月1日、タオ族は新たに6つの放射線廃棄物貯蔵庫を建てるという台湾電力の計画に憤った。放射性廃棄物への抗議活動が蘭嶼と台北で同時に起きた。

5分19秒:(前台北市長・陳水扁のカメラの前での発言)「蘭嶼における放射線廃棄物に対する我々の政策は明確です。全ての放射性廃棄物を2002年末より前に島の外へ移します。タオ族の方々に美しい島をお返しします。」

5分40秒:蘭嶼の郷長はこう投げかけた。「この放射性廃棄物は蘭嶼にいる人々が生んだものなのでしょうか? 誰が生んだのですか?」群衆は答えた。「台湾人だ」郷長はまた問うた。「私たちは原発でつくられた電気を使っていますか?」群衆はこう言った。「使ってない」郷長は言った。「自分がほしくないものを他人に押し付けるべきではない。放射性廃棄物は陳水扁が自分で食ってでも処理するべきなんだ」

6分44秒:1996年、貯蔵設備が満杯になった。9万7千バレル以上もの放射性廃棄物が詰め込まれていたのだ。それにも関わらず、台湾電力はさらに放射性廃棄物を島に輸送してこようと計画していた。大勢のタオ族が集まり港を包囲した。結局、放射性廃棄物を乗せた船はこの小さな島の海で道を塞がれ、台湾に戻っていった。それ以降、蘭嶼に放射性廃棄物は持ち込まれていない。

7分36秒:速報が入る。放射性同位体であるコバルト60とセシウム137が島の貯蔵施設の外で観測された。原子力評議会は基準値をはるかに下回る数値だと言ったが、研究者たちはそれらの物質が貯蔵施設から漏れたことを明らかにした。

8分28秒:この写真は、ここ30年間で放射性廃棄物を埋設するトレンチ(壕)で何が起こったのかを物語っています。まさしく悲惨な光景です。この写真を見ると、一人の母親として、私たちの健康がひどく脅かされることを感じ、悲鳴をあげてしまいます。30年間経ってもずっと、この1年間だって、私たちタオ族はみんな悲痛な声をあげています。救いを求めているのです。

9分09秒:あなた方が我々の家の前に捨てた物が、我々の命を奪いタオ族を滅亡させる。あなた方は「賠償を増額します」とばかり言うが、じゃあ、あなた方が今言ったことを馬英九氏にそっくりそのまま言えるのか? 我々が望むのはただ一つ、蘭嶼から放射性廃棄物がなくなることだ。

校正 Ayumi Nakajima

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