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ミャンマー西部で発生した暴動に対する見解

カテゴリー: 東アジア, ミャンマー (ビルマ), 人権, 人道支援, 市民メディア, 戦争・紛争, 抗議, 政治, 歴史, 法律, 移住と移民, 行政, 難民

最近、ミャンマーに関する2つの出来事が注目を集めている。ノーベル平和賞受賞者であるアウンサンスーチー氏のヨーロッパへの歴史的な訪問と、ミャンマー西部のラカイン州で発生した暴動 [1]である。

ラカイン州で行われた過去2週間の暴行 [2]、殺人、建物の放火について、特定の集団を非難することは困難である。しかし、この州で多数を占めるラカイン族の一般市民と、政府に民族としての承認を求めるロヒンギャ族が被害者 [3]であることは明らかである。

政府の報告によると、暴動が始まって以来、合計2528軒の家屋が全焼している。この内1192軒はラカイン族のものであり、1336軒はロヒンギャ族のものである。政府はまた、戦闘により29名が死亡した [4]とも述べている。その内13名はラカイン族であり、16名はロヒンギャ族である。

対立する民族間の衝突により多数の難民が発生している [5]。これまでのところ、37の難民キャンプで31884名の被害者が生活している

ロヒンギャ族は、主要なメディアや学識者から「アジアにおいて最も迫害されている少数民族」と表現されることが多い。しかし、ミャンマーでは意見 [6]が分かれている。実際、ミャンマー政府はロヒンギャ族を自国の民族として認めていない。

オルタナティブな雑誌であるイラワディ誌の編集者Aung Zaw [7]は、ロヒンギャ族に対する世論について述べている。

大多数のビルマ族は、ロヒンギャ族を隣国バングラデシュからの不法移民と見なしており、宗教対立というよりはむしろ主権の問題として捉えているようだ。

確かに、多くの国民、特にラカイン族は、「ベンガル族」と呼ぶことによって人種や宗教を中傷しているにもかかわらず、この問題が宗教対立として描かれることに憤りを感じている。

…現在のところ世論は、ロヒンギャ族に対して厳しい態度で臨む方向に傾いている。

ロヒンギャ族の多くはイスラム教徒であるため、ミャンマー国外の多くの人々は今回の暴動が宗教的迫害にあたるのかどうか疑問視している。しかし、数日前にミャンマーの多くの宗教団体が、今回の暴動は宗教的問題 [8]にはあたらないと宣言した。

1.ラカイン州で発生した暴動は、宗教的な対立の結果発生したのではなく、既定の法律に違反したことが原因である。

2.ミャンマーのすべての宗教団体は、調和と友好の中で長い間互いに共存し、この良き伝統は現在も続いている。

4.暴動がミャンマーの他州へ拡大しないように最善を尽くすことを誓う。

May Thingyan Hein [9]は、ラカイン州の暴動について様々な意見が対立していることを述べている。

インターネットには様々な意見が乱立し不穏な状態である。暴動に対する国民の関心をそらすための政府の謀略であるという意見もあれば、政府がベンガル族を撲滅するためにラカイン族と協力しているという意見もある。遂には、ロヒンギャ族が政府やドー・アウンサンスーチー氏を混乱させ、ラカイン州における自治権の要求を計画しているという意見も存在する。

Kyaw Zwa Moe [10]は、ソーシャルメディアが憎悪発言や人種差別を煽っていると非難した。

なぜ意見が紛糾しているのか。

メディアやソーシャルメディア [11]ではよくあることだが、特定のインターネット利用者達が、最初に発生した暴行の画像を自らのフェイスブックアカウントに無神経に投稿したのである。この画像が急速に拡散することによって他の利用者も煽動され、感情的な反応を共有することになった。

幸運にも、ネット上には和解と結束を積極的に訴える穏健な [12]意見も存在している。Dave GilbertやViolet Choは、国家の平和を促進している画像をいくつかフェイスブックに投稿した。

[12]

写真: New Mandala

ビルマ語のキャプションを読むと

「私達は皆、母国を愛しています。今起きている事態を止めましょう。信仰の違いによるいがみ合いは止めましょう。以前の様な時代に戻りたい人々は気にせず、私達は先に進みましょう。」

[12]

Photo from New Mandala

Peace Warriors [13]はミャンマーの首都ヤンゴンのイスラム教徒に危害を加えるという脅迫に悩まされている。

「ここ数日の間にヤンゴンで配布された新聞によると、イスラム教徒、モスク、店、家屋に対する襲撃が呼びかけられ、女性のイスラム教徒も襲撃の対象となっている。イスラム教徒やインド系の国民は、仕事に行くことや単独で外出することを恐れている。いくつかのイスラム教徒の家族は自分の店を閉め、イスラム系の宗教学校や大学も2日前に閉鎖した。」

国営メディアのNew Light of Myanmar [14]は、政府当局の難民キャンプ視察について報道している。

ラカイン州で発生した暴動に関しては、6月8日の時点で軍部隊がこの地域の平和と安定、法の秩序を回復し、住民の生命を保護するために現地に到着した。同日の夕刻には住民に必要な支援を実施している。さらに、無法者の侵入を防ぐため、マウンドー西部のミャンマー領海に数隻の海軍艦艇を哨戒任務に派遣している。

Violet Cho [15]は、より批判的な見地からラカイン州の状況を分析している。

貧困や政府による弾圧は、容易に解消できない強い不満を募らせ、世界中の民族間暴力に共通する根本的な原因であると考えられる。

問題を掘り下げると、ミャンマー西部の民族間暴力は、広くそして非常に複雑な歴史的、社会的、政治的、文化的な過程に根差していることが理解できる。おそらく我々は、人種などといった前時代的な分類を再定義し、より生産的な分析が可能となる代わりの視点を探すべきなのであろう。

人権団体はバングラデシュとミャンマーに対し、国境を開いて暴動から避難してきたロヒンギャ族を受け入れることを求めている。the Asian Human Rights Commission [16]からの要請は以下の通り。

…被害者に十分な食糧と医療サービスを提供できるように、両国政府が互いに協力することを求めます。国際機関が状況を査定して必要な緊急支援物資を手配するために、可能な限り早い時期に完全で、障害のない、安全なアクセスの提供をお願いします。

ミャンマー国外の多くの活動家やマスコミ関係者が驚いたのは、反体制派である8888 Generation Student Leaders [17]の幹部が、ロヒンギャ族を自国民として認識しないという政府の方針を支持する声明を出したことである。

Ko Ko Gyi:避けられない場合を除き我々は、いくつかの問題について辛抱強く避けるように努めてきた。今こそロヒンギャ族に対する我々の見解を明確に示す時である。ロヒンギャ族はミャンマーの民族ではない。我々は、ラカイン州のButhedaung およびMaungdawで現在起きている暴動は、「ロヒンギャ族」と呼ばれるバングラデシュからの不法入国者と、一部の国際社会からの有害な挑発が原因であると考えている。したがって、一部の大国がビルマの民族や他の情勢を理解せずにこの問題(ロヒンギャ族に関する問題)に介入することは、我々の国家に対する主権侵害とみなす。

ロヒンギャ族を受け入れようとする国家が存在しないため、人道観点や難民の立場から彼らには同情している。我々の厚意や敬意に乗じて、大国がこの問題の責任を負わせようとするならば、我々は決して受け入れるつもりはない。

一部の活動家が、ラカイン州の問題解決のために法の原則 [18]を適用しようとしているスーチー氏は、8888 Generation Student Leadersと同じ立場なのか尋ねている。

ミャンマー政府は、情勢は現在のところ政府の統制下にあると主張している。しかし、ロヒンギャ族の村での被害は日々悪化し続けている。