- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

パキスタン: 11歳のキリスト教徒の少女、冒とく行為で拘留される

カテゴリー: 南アジア, パキスタン, 人権, 女性/ジェンダー, 宗教, 市民メディア, 法律, 行政, 言論の自由

11歳のキリスト教徒の少女リムシャ・マシー(Rimsha Masih)が冒とく行為 [1]により告発され、首都に隣接するラワルピンディの少年刑務所で14日間拘留されている(訳注:9月7日、釈放された)。少女がダウン症 [2]であるか否かについては、相反する報道がなされている。

リムシャは、初心者向けのアラビア語学習教材であるNoorani Qaida [3]のページを燃やし、ポリ袋に捨てたとして告発された。この事件は、2012年8月16日に、彼女が家族とともに居住していたイスラマバードのスラム街メフラバード(Meherabadi)のG-12地区で発生した。現地警察は、近隣住民の彼女に対する正式な申し立てをもとに第一次報告書(FIR)を作成した。

冒とく行為はパキスタン刑法の295-B項 [4]に該当し、違反者には終身刑あるいは死刑が適用される。このニュースは「Christians in Pakistan [5]」というウェブサイトで8月18日に掲載された。

この記事は、5日後の8月22日にパキスタンの主要メディアで大きなニュースになった。少女の逮捕前には、自らの手でこの少女に報いを受けさせようとする [6]地元の住民たちによって、首都の主要幹線道路 [7]が封鎖されていた。先月、バハーワルプル(Bahwalpur)という都市で情緒不安定な男性が暴徒によって焼殺された [8]が、この男性も冒とく行為で告発されていた。

パキスタンのNational Harmony(全国調和)大臣であるPaul Bhatti氏は、BBC World Serviceのインタビュー [9]で、イスラマバードに住む600人のキリスト教徒が、この事件後に家を捨てて逃げ出したと述べている。キリスト教徒たちにとって2009年のGojra [10]で発生した暴動はまだ記憶に新しく、彼らは暴動を恐れて身を潜めるようになった。Gojraでは、キリスト教徒の家屋がイスラム教の暴徒たちによって燃やされても、警察は彼らを助けようとはしなかった。パキスタン人権委員会 [11]によると、Gojraでの暴行は事前に計画されていたものであり、地方の行政も関与していたというのである。

UAEに住むキリスト教徒であるAnthony Permalは、Twitter利用者をこの事件に注目させた。

‏@anthonypermal [12]: 確認したところ、パキスタン警察がダウン症の11歳の少女を冒とく罪で逮捕したらしい。

すぐに、リムシャの庇護を求める請願がオンラインで広まった。

@MohsinSayeed [13] (Mohsin Sayeed): Rifta(訳注:少女は当初、Riftaという名で報道されていた)や彼女の家族の命を救うために声をあげよう。信仰の自由がある国への逃亡が唯一の選択肢だ。パキスタンは彼女を殺すつもりである。
http://www.change.org/petitions/high-commissions-and-diplomats-of-secular-western-nations-asylum-to-the-family-of-11-year-old-christian-girl-accused-of-blasphemy# [14] …

オンラインの請願書 [15]では、信仰の自由がある西側諸国に対してリムシャとその家族の庇護を求めている。

パキスタン人で良心のある人は、この請願書に署名をしている。パキスタンでは、厳格な冒とく法に反対した自国の政治家を保護することさえ出来ないからである。冒とく法では、些細な冒とく行為であっても確実に投獄され、おそらくさらに重い刑が課せられるであろう。

パキスタン人権委員会やパキスタン政府に対して、リムシャ・マシーの保護と釈放を求める別の請願書 [16]も存在する。

一方、パキスタンのアースィフ・アリ・ザルダーリー(Asif Ali Zardari)大統領は、政府関係者に状況の説明を求めている。駐米のパキスタン大使は次のようにツイートしている。

@sherryrehman [17]: ザルダーリー大統領は、キリスト教徒の少女が冒とく罪で逮捕されたという報道を重視しており、説明を求めている。

アムネスティ・インターナショナルは、パキスタン当局に対して冒とく法の改正を求めている。

‏@amnesty [18] (Amnesty International): パキスタン政府は、「冒とく罪」で逮捕され、生命が危険に晒されているキリスト教徒の少女の安全を保証すべきである。
http://owl.li/d9aPc [19]

フランス外務省はパキスタン政府に対して少女の釈放を求めている。イスラム教徒のフェミニストであり、「Allah,Liberty and Love」の著者でもあるIrshad Manji [20]は、パキスタンの冒とく法を非難している。

‏@IrshadManji [21]: パキスタンの冒涜法に関する@RFI_English のインタビュー [22]において、私は投獄されたリムシャというキリスト教徒の少女について述べている。

この状況は、パキスタンの人権活動家たちや、一部の政治家にもTwitterで非難されている。

‏@Ali_Abbas_Zaidi [23] (Syed Ali Abbas Zaidi): パキスタンで行われてきた冒とく法の乱用のなかで、最も悲劇的なショートストーリー。「彼女は11歳の少女にすぎない」

@MaheenAkhtar [24] (Maheen Akhtar): パキスタンの最高裁長官は何も考えていないのか?彼は眠っているのだろうか…、「冒とく罪」が彼の判断を待っているというのに。

‏@beenasarwar [25] (Beena Sarwar): 「冒とく行為」に対する告発の重要な問題点は、告発された人たちがどういう意図(niyat)を持っていたかにあるが、告発者たちはこの点を無視している。#Pakistan

与党のパキスタン人民党(Pakistan Peoples Party)や、パキスタン正義行動(PTI:Pakistan Tehreek Insaaf)は今回の事件を非難している。PTIのリーダーであるImran Khanは次のようにツイートしている。

@ImranKhanPTI [26]: 恥ずかしい!11歳の少女を牢屋に送るなど、正義と慈悲のためにあるイスラムの精神に反している。1/2

@SundasHoorain [27]: @CMShehbaz 11歳の少女が冒とく行為で告発され、取り押さえられ、逮捕されたことに対する、PML-Nの行動と非難の声を待ち続けている。#FreeRimsha

他のすべての政党はこの件について言及することを恐れている。冒とく法に関する問題は非常に繊細であるため、パキスタン人の誰ひとり、この法律の廃止を要求しないのである。

@anthonypermal [28]: 我々は冒涜法を廃止することはできない。a)暴徒は躊躇無く自警活動をし続け、b)警察はシーア派の人たちが公然と殺害されるのを阻止することができない。ということだよね?

2010年に、Sherry Rehman大使は、国会議員として「改正冒とく法2010 [29]」を国民議会に提出した。2010年12月20日には、イスラム・イデオロギー評議会も冒とく法の乱用を防止するための改正案を発表した [30]。しかし、国会における宗教政党であるイスラム協会(Jmat-i-Islami)、イスラム・ウラマー連合(Jamiat Ulema-e-Islam Pakistan)、スンニ運動(Sunni Tehreek)などは大衆による抗議活動 [31]を恐れている。のちに、Sherry Rehman氏は殺害の脅迫 [32]を受け、自宅から外出できなくなってしまった。

2011年1月には、冒とく法に対する批判を口にしたパンジャーブ(Punjab)州のSalman Taseer知事が、自身の警護官に公然と射殺された [33]。この警護官Mumtaz Qadriは、自分の信念のために犯行に及んだとしている。偶然にも、Qadriは、リムシャが送られたのと同じアディアラ(Adiala)拘置所 [34]に収監されている。Qadriが裁判所へ移送される際には、支持者たちが彼のためにバラの花びらをシャワーのように撒いた [35]

The Sunni Tehreek party rally in favor of Mumtaz Qadri, the killer of Salman Taseer, and they demand his release in Hyderabad, Pakistan. Image by Rajput Yasir. Copyright Demotix (09/01/2011) [36]

Salman Tasser氏を殺害したMumtaz Qadriを支持するスンニ運動の団体が、パキスタンのハイデラバード(Hyderabad)に集結。彼の釈放を要求。 撮影 Rajput Yasir,© Demotix(09/01/2011)

Malik Sirai Akbar [37]はHuffington Postのブログで、パキスタン社会で差別的な法律による宗教的不寛容が深刻化していると指摘している。

頻発する物騒な事件にも関わらず、パキスタンでは冒とく法などの大きな不備のある差別的法律の改正がほとんど進んでいない。このような法律は、一方では少数派の宗教を差別し、他方では宗教的不寛容と狂信をパキスタン社会にさらに深刻化させている。殺人者達は人を殺す権利を与えられ、凶悪犯罪を犯しても宗教の名の下に容易に罪を逃れている。

Mehdi Hasan [38]は自身のブログで次のように語っている。

個人的には、なぜ私と同じイスラム教の信者の多くが、イスラム教や預言者ムハンマドあるいはコーランを「冒とく」する人々を殺し、傷つけたがるのか全く理解できない。彼らの怒りや、あえて付け加えるなら、不安の背景には何があるのだろうか?彼らの神は非常に臆病で繊細で尊大であるため、いかなる拒否反応も容認できないのだろうか?