- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

台湾:学問の自由が企業の訴訟で脅かされる

カテゴリー: 東アジア, 台湾(中華民国), 健康, 市民メディア, 法律, 環境, 科学, 言論の自由

国立中興大学 [1] [zh] 環境工学科教授の Ben-Jei Tsuang(荘秉潔)博士が大企業の一つ、台湾プラスチックグループ [2](台塑集團、FPG)[en] による名誉棄損訴訟の最も新しい犠牲者である。

台湾の大企業は、ますます名誉棄損訴訟を活動家や学者の発言を封じるために使うようになってきている。ところが実際は、現在の名誉棄損の刑事訴訟は国際規約に違反 [3] [zh] している、と示唆する法律専門家も多い。

荘博士は研究チームと共同で台中市 [4]雲林県 [5]の66の工場が環境に与える影響を評価した。このチームは台湾プラスチックグループ [2] [en] の第6ナフサ分解 [6] [en] 工場近辺で、重金属やダイオキシンが空中に放出されていることを発見した。荘博士はこの発見を環境保護署(EPA)が開催するいくつかの有識者会議で発表した。

これに対し、FPG の関連会社である Formosa Chemicals & Fiber Corporation(台湾化学繊維)とMailiao Power Corporation(麦寮汽電)の2社は、台北地方検察当局に4000万台湾ドル(およそ133万米ドル)の名誉棄損 [7] [zh, pdf] の損害賠償を求め刑事訴訟を起こした。

Dr. Tsuang explained the environmental impact of the petrochemical industry. [8]

国光石化プロジェクト反対運動で石油化学工業が環境に与える影響を説明する荘博士。写真はGea-choas提供、使用許諾を得て掲載。

荘博士の発見は国光石化プロジェクト [9] [en] の中止を訴えているいくつかの市民グループにとって重要なものである。事実、これらのグループはすでに戦いに勝っている。というのも、後にFPGは台湾の地方自治体に対して石化プロジェクトを承認するよう説得していたがことごとく失敗し、このプロジェクトを台湾からマレーシアに移す [10] [en] ことを2012年5月に決定しているからである。

以上の点を考慮し、この訴訟は「公共参加に対抗する戦略的訴訟(スラップ) [11]」であり、つまり批判や反対を放棄するまで訴訟費用の負担を与え続け、批判するものを検閲し、おどし、だまらせることを意図していると、荘博士の弁護団を援助しているShih-Wei Lu(陸詩薇)弁護士は指摘している [12] [zh]。

多数の学者や市民グループがFPGに訴訟を取り下げるように要求している。複数の市民グループの共同文書では以下のように述べられている。

民間團體要感謝包括莊秉潔教授等多位學者,以各自不同領域的專業,不斷揭發六輕汙染環境、影響民眾健康的科學研究。

我々、市民グループの連合は荘秉潔博士を含め研究者達に感謝したい。かれらの広範な専門知識を使った研究により、FPGの第6ナフサ分解工場が環境を汚染し、市民の健康に与えた影響が明らかになった。

汙染者應負舉證責任,六輕應公開所有汙染物排放資訊…若無法證明其創辦人王永慶先生所說六輕「空氣清新、景色宜人」,應儘速撤告,勿漠視此事將使你們的企業形象雪上加霜,惡化社會對你們的觀感和評價。

汚染を引き起こしたものは、この件に関し無罪であることを証明する証拠を市民に示すべきである。FPGの第6ナフサ分解工場は環境に放出した汚染物質の情報を市民に提供すべきである。[…] FPGが創業者のYung-Ching Wang(王永慶) [13]が述べているように工場の周辺の「大気は汚れておらず、景観が美しい」証拠を提供できないのであれば、FPGは訴訟を取り下げるべきである。この提案を無視することは、御社の企業イメージ、また社会の御社に対する印象や評価を悪化させることになる。

国立清華大学出身の Ming-Yi Wu(吳明益)博士も荘博士を援護して以下の以下の記事を執筆している [14] [zh] 。

FPG's six naphtha plant is considered as a serious pollution source. [15]

FPGの第6ナフサ工場は重大な汚染源になっていると見られている。写真は彰化海岸保全運動提供、使用許諾を得て掲載。

台塑大可尋求學界 支援,以學術挑戰學術…但台塑以官司取代研究,加以巨額求償…台塑這場控告,證明了對抗粗野的、惡質的企業是有價值的,那就是價值四千萬的勇氣。

FPGは他の研究者に依頼して別の研究を行ってもらい、現在の研究成果に異議を申し立てることができる。これを学術的議論にすることもできるのだ。[…] いずれにせよ、FPGは研究より訴訟と巨額の金銭補償を好む。[…] このFPGの訴訟は、この粗暴で低級な企業に対抗する我々の勇気は4000万台湾ドルに値することを示している。

台北地方検察当局は台湾の憲法により学問の自由は守られていると指摘して、2012年6月6日に訴訟を取り下げると決定した [16] [zh] にもかかわらず、FPGは高等裁判所に控訴を申請した。

一方、荘博士はまだ民事罰を問われており、裁判官はFPGに2012年9月20日に予定されている次の開廷に向けて、さらに証拠を集めるように求めている。この訴訟に関する情報を共有し、また支持を表明するために、荘博士の学生はFacebookにページ [17] [zh] を作っている。

老師認真於研究,
總是獨自埋頭苦幹,
努力發揮所長為臺灣環境品質作嚴格把關,
這次無故捲入與台塑訴訟的風波中,
深深為老師抱不平,
系上需要這樣盡心盡力的教授,
而社會也需要這樣不畏懼強權的人來帶領我們,
我們中興環工的學生希望可以集結社會大眾的力量,
一起為莊秉潔老師聲援!

我々の先生は研究に真剣である。先生は、熱心かつ他者に惑わされることなく、台湾の環境の質を監視する仕事に励んでいる。FPGが先生を正当な理由なく起訴するのは不当である。我々の学科には彼のような信頼のおける教授が必要だし、社会は彼のような勇敢な指導者が必要である。国立中興大学環境工学科の学生は荘博士に味方し、市民からの支持確立に向け努める所存だ
この記事の校正はYasuhiro Hagiwara [18]が担当しました。