街はキャンバス、みんなの顔がアート。

2012年11月、1台のトラックが気仙沼から福島までを移動していた。その横腹には巨大な目が描かれ、後ろにはポストの出口のような隙間がある。この一風変わったトラックには、ポートレート撮影用のカメラと大型プリンターが装備されていた。

雨の中、東北へ向かうトラック

雨の中、プロジェクトの舞台となる東北へ向かうトラック

これは、フランス人アーティストJR[en]の手がける一般参加型アートプロジェクト「インサイドアウト」の一環である。プロジェクトは世界各地の路上で人々を撮影し、作成したポートレイトを街中に展示するという手法で展開されてきた。プロジェクトの説明では、個人のアイデンティティをアート作品にする狙いがある[en]とされている。

そして今回舞台になったのは、日本の東北地方である。トラックは震災の爪あとが残る街中でおよそ400名の人々を撮影し、それらの一部を展示した。

気仙沼魚市場の仲買人のお二人。

気仙沼魚市場にて、仲買人のお二人。

気仙沼商店街、ファッションハウスポケットでの展示

気仙沼商店街での展示

トラックの後部から出てくるポートレイトを携帯で撮影する人々。

トラックから出てくるポートレイトを見守る人々。

トラックの後ろで元気な笑顔を見せるエプロン姿の女性

トラックの周りで交流が生まれる。

私設美術館ワタリウムは東北でのプロジェクトに並行し、クラウドファンディングサイトCAMPFIREで、支援を呼びかけた。この呼びかけは好意的に受け止められ、期間内に目標額の200万円を達成した。

CAMPFIREは日本の主要クラウドファンディングサイトだが、2012年の総支援額は約9.200万円であり、1プロジェクトの最高支援額は約530万円である。一方、米国の代表的クラウドファンディングサイトKickstarterでは、17のプロジェクトが100万ドルを調達、2012年総支援額は約3億2000万ドルと桁が違う。

このことからも、日本のクラウドファンディングの市場自体がまだ小規模であり、その現状を乗り越えての目標額達成であったことが見てとれる。現在、ワタリウムは同じくCAMPFIREで、新たに全国展開するための資金を募っている

東京都渋谷区、ワタリウム美術館では2013年2月、展示会が始まった。そこでは、今回の東北でのプロジェクトを含む、今までの「インサイドアウト」が時系列に沿って並べられ、訪れた人が写真を撮影するスペースもある。ポートレイトを作成することで、「インサイドアウト」に参加するという仕組みだ。

Twitterでは、展示会のタイトル「世界はアートで変わっていく」というフレーズが多用され、展示を見た@toshifyはこうつぶやいた。

@toshify
「JR展_世界はアートで変わっていく」(ワタリウム美術館、6月2日まで)を観た。
人の顔を大写しにしてストリートに掲示する手法で、社会問題を提起するフランス作家。
顔は私的なものという思い込みがあるが、パブリックな場に引き出されると
強烈なメッセージ性を帯びる。作家の言葉も美しい。

東京、ワタリウム美術館の外壁にびっしりと張られた、東北でのプロジェクト参加者ポートレイト

ワタリウム美術館の外壁にびっしりと張られた
東北でのプロジェクト参加者ポートレイト

プロジェクトへの「参加」については、様々な捉え方がある。

@Hiro183
JR展(13回目位)@ワタリウム美術館。なんでこんなに来るかって?
キャンプファイアーで金銭支援をし、この展示に参加しているから。
ARTは参加して意味がある。 http://instagr.am/p/XCA2IOGhOK/

@hiswii
やっぱワタリウムのJR展、行って撮るだけで参加したって言いづらいよなー。
JRに不足する身体性というのはプロジェクト全体で補足すべきことなんだろうね。

JR自身は、オンラインニュースBlouin Artinfoのインタビュー[en]で、以下のように述べている。

(…)Although I helped with the construction and logistics, it’s important for me that the local people manage the truck, the photo booth, and all the operations themselves. It’s meant to be a project by the Japanese, for the Japanese. (…)

(…)構成や企画なんかは手伝うけれど、僕にとっては、その土地の人がトラックやフォトブースを管理して、プロジェクト全てを自分たちで動かすことが大事だったんだ。目指すは日本人による日本人のためのプロジェクトってこと。(…)

ワタリウム美術館での展示は、2013年6月2日(日)まで行われている。
また、東北でのプロジェクトの様子はこちら、ワタリウム美術館での展示はこちらから見ることができる。

記事内の写真は全てワタリウム美術館により掲載されたもの。
Campfireのガイドラインのもと掲載。

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