メーデーは、21世紀のロシアにおいてソビエト連邦のころよりは大きな祭りではなくなったかもしれないが、現在もデモ集会や行進を行う日ではある。今年の5月1日は、「ナワルニーに自由を!」という横断幕の写真 [ru]や政治集会における逮捕の報告[ru]とともに、RuNet(訳注:ロシアのインターネット)は毛色の違うレポートであふれていた。その写真は一面の赤(共産党)や青(統一ロシア)の旗の中で目立ち、こっちには奇妙なスローガン、あっちにはカーニバルの仮面という状態だった。彼らは”Monstration” (“Monster”に由来するのではなく、“demonstration”から“de”を除いた造語)、つまりシベリアの好意によりあなたに届けられる、ばか騒ぎの奇祭への参加者である。
Monstrationは今年で10周年になる。ノヴォシビルスクでアーティストArtyom Loskutkovにより設立されてから、5月1日にいつも開催され、他のロシアの都市やウクライナにまで急速に広がった。アイデアはシンプルである。参加者の自己表現のために、ばかげたポスターを掲げたり衣装を着たりして、政治的なデモ行進をするという形式のパブリックアートパフォーマンスなのだ。あるオムスクのブロガーの一人はイベントを次のように解説した[ru]:
Монстрация — это пародия на традиционную демонстрацию с абсурдными требованиями и плакатами, где каждый участник заявляет то, о чём хочет.
Monstrationは伝統的なデモのパロディーで、参加者たちは馬鹿げた要求やスローガンとともに、おのおの言いたいことを言っています。
他の都市でも受け入れられてはいるが、Monstrationは大部分がシベリアで、とりわけノヴォシビルスクを中心に開催されている。今年はオムスク、チュメン、ハバロフスク、ノヴォシビルスク(以上はすべてシベリアの都市)や、クラスノヤルスク、エカテリンブルク、ヤロスラブリ、またウクライナとモルドバの五つの都市で開催された。ノヴォシビルスクには過去四年間と同様、二千人を超える人々が押し寄せた[ru]一方、クラスノヤルスクは40人ほどの参加に留まり[ru]、オムスクでは数十人の壁を打ち破ることができなかった[ru]ようだ。2011年のモスクワの集会でさえ、200人しか参加しなかった。奇妙なことに、エカテリンブルクで初となる、今年のMonstratiionの試みは大成功だった。市民ジャーナリストポータルのRidusは1000人を超えるデモ参加者がいたとレポートしている[ru]。
Monstrationは面白いスローガンがすべてで、面白いものばかりだ。上の写真のものは”Россия без Агутина” (アグーチンのいないロシア)と書いてある。アグーチンとは1990年代のポップ歌手のレオニード・アグーチン[ru]のことを指し、プーチンの名前と韻をふむという言葉遊びがある。このスローガンは辛うじて政治的と解釈できるが、ほとんどのものはそうでない。例えば、クラスノヤルスクのMonstration参加者は”Хей, хей, хей, к нам едет Саша Грей”(ヘイヘイヘイ、町に来るのは誰だ、サーシャ・グレイだ)と繰り返し唱え、なぜかロシアで有名な、引退したポルノ女優の名前を挙げた。グレイの魅力的なロシアの訪問は、詩人でありジャーナリストのIvan Davydovにジョーク[ru]を飛ばさせた:
Национальная идея начинает постепенно вырисовываться: всей страной влезть в желтую Ладу-Калину, и овладеть решительно Сашей Грей. Как Америкой, ненавидимой и вожделенной. Желательно – на фоне ковра.
ある国民的認識が徐々に表れつつある。国中が黄色いラーダ・カリーナに乗りたがり、断然サーシャ・グレイを選ぶ。アメリカのように嫌いつつも欲するというわけだ。背景の壁にはカーペット[ru]が飾られているのが望ましい。
今年のスローガンにはこのようなもの [ru]がある:
Вперёд в тёмное прошлое!
「明るい未来(に向かって進め)」という古い嘘っぱちのスローガンを文字ったもの。
Виктор Цой предупреждает — автобусы убивают!
Victor Tsoiは警告する。「バスは人殺しだ!」(有名なロック歌手は運転中にバスと衝突して亡くなっている)
Хватит выкладывать еду в Инстаграм
Instagramに食べ物を投稿しないでよ。
Я живу с циничным сусликом
私はひねくれたチンピラと住んでいる。
厳密にはフラッシュモブではないが、Monstration現象はインターネットなしには存在しなかっただろう。さまざまな都市で行われるイベントはmonstration.ru[ru] というブログで組織され、ミートアップの日時や場所が掲載される。VKontakte[ru]という都市ごとの[ru] ページ上でも[ru] 同様のことが行われる(訳注:2013年5月26日現在、リンク先は閲覧できない状態になっている)。それらのページには、イベントが各都市の政府と連携しているかどうかも載っている。インターネットの重要さはスローガンやポスターにも当てはまる。ネット上には過去のMonstrationのスローガンを納めているオンライン保管庫がいくつかあり、最大のもの [ru]は年及び都市ごとにそれをリスト化している。おそらく、自分で考えるのが面倒臭い人のためにあるのだろう。そして確かなことは「アグーチンのいないロシア」というスローガンは、2011年にノヴォシビルスクで一度使われていることだ。
Monstrationは、自覚的に政治に距離を置いているため、その運動を乗っ取ろうとする政治団体の試みは、たいてい敵意をもって迎えられる。例えば、反対制派のメンバーが2012年のモスクワのMonstrationと連携しようとした後、Loskutkovは、モスクワでは今後一切Monstrationを行わないと嘘の情報を流したということだ。もちろん、政治的極まりない日にこのようなイベントを行うということは、ばかばかしさを増すもので、不満を持つMonstrationの参加者から、このような皮肉な意見[ru]を助長させる:
Не понравилось, что коммунисты вышли с коммунистическими плакатами. Извините, что это, блядь, такое? […] Зачем вы вечно лезете даже туда, где вам нет места?
共産主義者が、共産主義者のポスターを持ってきたことが気に入らない。悪いが、あれは一体なんなんだ。[…]君は居場所のない所にさえ、なぜ常に浸透しようとしているんだ?