サバ州の危機 フィリピン武装集団との衝突 

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この記事は特集「国際関係・安全保障」の一部である。

Map of Sabah and the standoff in Lahad Datu. Photo from Wikipedia

サバ州と、ラハダトゥにおける紛争地の地図。ウィキペディアより Cmgleeから引用 (CC BY-SA 3.0)。

2013年2月9日、『スールー王国軍』と名乗る約200人の武装したフィリピン人が、サバ州 ラハダトゥ(ボルネオ島北部)の一部を占拠し、その地域一帯の所有権がスールー王国のスルタン、ジャマルル・キラム3世にあると宣言した。

サバ州は1963年以降、マレーシア連邦の一部となっているが、フィリピン南部に位置するスールー王国はサバ州の歴史的領有権を主張し続けている。加えて、フィリピン政府も未だ公式にサバ州を自国の領土だとする主張を取り下げてはいない。

3週間、マレーシア政府はラハダトゥのフィリピン人武装集団に対し降伏を要請していた。しかし3月5日、ついにマレーシア軍は武装集団を狙撃、占拠を終了させた。報道によると、衝突とその後の軍事行動によりマレーシアの警官8人を含む、60人以上の死者が出たという。

マレーシア外務省がフィリピンの武装集団をテロリストとみなすのは早かった。フィリピン政府もまた、この占拠行為を非難した。フィリピン政府は現在、フィリピン南部のイスラム分離派との平和合意をまとめているところであり、ベニグノ・アキノ3世大統領は、この事件は前大統領と利害関係を持つ者がサバ洲で問題を勃発させた陰謀だと糾弾した。

We are aware that there are those who conspired to bring us to this situation — a situation that has no immediate solutions. Some of their identities are clear to us, while others continue to skulk in the shadows.
To the people who are behind this, even now, I tell you: you will not succeed. All those who have wronged our country will be held accountable.

こういった即座に解決できない状況に我々を陥れようとする者たちがいることは分かっている。正体の割れている者もいるが、闇の中に隠れたままの者もいる。今もなおこの問題の裏にいる人々に言う。あなたたちは失敗する。この国を陥れた者は皆、責任を問われることになるだろう。

興味深いのは、マレーシア首相のナジブ・ラザク氏は、マレーシアの野党の政治家がスールー王国のスルタンと共謀して国を混乱させ、今年の総選挙を前に与党連合の打倒を企てたという説を、未だに否定していないということだ。

Filipino activists protest the alleged human rights abuses suffered by Filipino residents in Sabah. Photo shared by Bayan

サバ州在住のフィリピン人が受けたとされる人権侵害をフィリピン人活動家が抗議。バヤン党により提供された写真。

人道の危機
ラハダトゥでの衝突は人道的な問題をも引き起こした。サバ洲の大勢のフィリピン系の住民が逮捕され、1,500人を超えるフィリピン系住民がフィリピンに難民として受け入れを求めている。マレーシア治安部隊が人権侵害を行っているという声もあるが、マレーシア政府はその主張を強く否定している。The Sabah Coalition of Human Rights Organisationsは、軍事行動によるサバ州の住民への影響について更なる懸念を示した。

Militarisation and the presence of security forces have created many roadblocks restricting the movements of the indigenous peoples in their foraging for food, harvesting, hunting and fishing.
The limitations on travel will result on food shortages for them.

軍と治安部隊が検問所を多数設置したことで、食糧調達や耕作、狩り、釣りなどのために地元の人が移動することも妨げられるようになってしまった。このままでは移動の制限によって食糧不足に陥るだろう。

実際、サバ州の問題はマレーシア、フィリピン両国にとって将来的な課題となることは予測できそうだ。例えば、左派政党バヤンのCarol Araulloは、アキノ大統領は問題の領土の所有権を放棄していると糾弾している

Many are beginning to surmise that the Aquino regime is not all convinced that the Sabah claim has merit and his description of it as a “hopeless cause” is not just a slip of the tongue indicating “ignorance or incompetence” as Sultan Jamalul Kiram III suspects, but his regime’s point of view and even policy on the matter.

アキノ政権はサバ州領有のメリットを確信していないと、多くの人は考え始めています。そして、アキノ大統領が領有を「見込みのない目標」と表現したのは、スルタンのジャマルル・キラム3世が考えるように、「無知あるいは能力不足」ゆえに口が滑っただけというわけではなく、それこそが政権の見解であり、この問題に対する方針でさえある、と疑い始めているのです。

R Kengadharanはマレーシア政府に以下の質問を投げかけている。

How did the armed intruders enter our shores without the knowledge of our navy?
What has happened to our domestic and regional intelligence services?
Who has been providing the self-proclaimed sultan of Sulu arms?
Who is providing guerrilla training for the armed intruders in Sulu?

武装集団はどうやってマレーシア海軍に気づかれずマレーシアの海岸に侵入できたのか。
国内、地域の情報局はどうしたのか。
自称スールー王国スルタンに武器を支援したのは誰か。
スールーにいる武装集団にゲリラ訓練をしたのは誰か。

将来似たような事態を避けるためにも、マレーシアとフィリピンの指導者が腰を据えてサバ州の問題に対峙する時が来たのかもしれない。

ISN logo本記事およびこのスペイン語、アラブ語、フランス語の翻訳記事は、国際関係と安全保障問題における市民の声を探しだす協力の一環として、国際安全保障ネットワーク(International Security Network)の命を受けている。本記事はまずISN blogに掲載された。関連記事はこちら
校正 Ilya Maeda

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