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ミャンマー:「接着剤あそび」にふける貧困の中の子どもたち

カテゴリー: 東アジア, ミャンマー (ビルマ), 健康, 市民メディア, 若者

ミャンマーでは貧困層の子どもたちの間で、粗悪な接着剤を使った「吸引あそび」が深刻な問題になっている。マンダレー医科大学の医学生Yin Yin Hnoungは、子どもたちから聞き取り調査を行い、この薬物乱用が広がる背景と影響について考察した [1][my](訳注:11月25日現在、リンク先は閲覧できない) 。

彼女の考察は、マンダレーの有名な観光地、マハムニパゴダ(仏塔)で子どもたちが接着剤の吸引にふける姿の記述から始まっている。

マンダレーのマハムニパゴダの薄暗い場所で子どもたちの集団が遊んでいました。5歳から15歳くらいでしょうか。[…]毎日の「仕事」といえば、巡礼者や旅行者に物乞いし差し出される食べ物は何でももらい、使い終わったプラスチック容器を集めることです。[…]あちらこちらを走り回っているこの集団をよく見ると、眠りこけたりまどろんだりしている子どもたちがいます。これは「TVグルー」として知られる、TVマーク付きの缶が原因なのです。TV缶の接着剤を吸ってもうろうとしているのです。100人ほどの子どもたちが、ガソリンのような強い刺激臭のあるこの接着剤を薬物として吸引しながら、マハムニパゴダ周辺にたむろしていました。

Yin Yinは何人かの子どもたちに近づき、ざっくばらんに尋ねた。4歳の弟を抱きかかえた14歳の少年が家族の話をしてくれた。

A glue can used to sniff by children. Photo from Yin Yin Hnoung's Facebook [1]

ミャンマーの貧困層の子どもたちは、TVマークの入ったこの缶で「接着剤あそび」をする(Yin Yin HnoungのFacebookから)

ぼくは3年前からこの辺に来ているんだよ、おねえさん。いまは14歳さ。5年生までは学校に通っていたよ。ほんとうの父さんはずっと前に死んじゃった。10日くらい前、母さんに赤ちゃんが生まれたばかりなんだ。いまの父さんはTampawati(筆者注:マンダレー市の行政区名)で大工をしているけどぼくたちを食べさせてくれないから、兄弟で物乞いに出かけなくちゃならないんだ。

少年は次に、なぜ接着剤を吸うのかを語った。

母さんの出産で、ぼくのうちは3万チャット(37米ドル)の借金をしたんだ。返すお金がないから、そんなこと忘れてしまいたくてぼくは接着剤を吸っている。1,000チャットから1,500チャット(1.25~1.8米ドル)くらい稼いでるよ。接着剤1缶が400チャットさ。パゴダの外にある金物店で買うことができる。1缶で1週間くらいもつかな。吸いたいわけじゃないんだよ、おねえさん。でもこの缶を買えば、1日中何も食べないでいられるんだ。もやもやした気持ちもスッとする。けんかで誰かに殴られても痛くない。吸っているときは気持ちがいいんだ。だから吸い始めたんだよ。

彼が言うには、接着剤を吸った後で犯罪に走る少年もいる。

そういう奴らはたいてい夜中にビンロウ(訳注:アジア・東アフリカなどで見られるヤシ科の高木。その果実は嗜好品、薬品などに使われる)の実を売っている店に押し入り、手に入れたものは何でも売り払うんだ。(ほかの連中と)平気でけんかもするし。[…]ぼくの接着剤の缶もときどき盗まれる。

別の15歳の少年も自分の話を聞かせてくれた。

Gaw Mashinの学校(訳注:Gaw Mashin はworld visionの意。子どもの貧困問題に取り組む国際NGOのワールドビジョンがこの地域で運営する学校の通称)へ通っていたんだ。学校では勉強しなくちゃならない。食べ物はあるけどね。でも、楽しくないんだ。楽しいわけないさ。あそこにはクスリがないから、ぼくは生きちゃいけない。だから逃げ出したんだ。

近くに住む若い女性にも話を聞いた。

いつも自分の子どもかきょうだいと思って、彼らを叱ります。接着剤の缶を取り上げて捨ててしまうので、私は嫌われ者です。[…]夫と子どもの3人で暮らしています。夫も接着剤を吸っていましたが、私がやめさせました。息子はいま2歳ですが、夫が接着剤をやっていたせいで肺にうっ血を起こしました。息子の身体に害を与えてはいけないので、夫は接着剤をやめました。

この若い母親は、子どもたちに接着剤の吸い方を教えているのはマンダレー駅でゴミ収集をしている男だとにらんでいる。この辺りでは少女たちも接着剤を吸う。パゴダの警備員は接着剤を吸っている子どもたちを捕まえると、いつも棒で打ちすえる。

最後にYin Yin Hnoungは、この子どもたちを救うには何が必要なのかについて考えを巡らす。彼女はこう書いている。

本当は学校へ通っているべき子どもたちが、家族のために物乞いすることを余儀なくされるのは、貧困のせいです。子どもたちは満足な食事を与えられず、栄養不良になっています。(生きるための)十分なお金を稼ぐことができず、うっ屈した気持ちを抱え込んで接着剤に走るのです。得たお金は接着剤に使ってしまい、そしてまた物乞いをすることになります。旅行者が親切心で与えたお金は接着剤に変わってしまいます。(接着剤を)吸っていたことで打ちすえられると、その痛みを忘れるためにまた吸うのです。こうして接着剤吸引の悪循環に陥っています。

彼女は関係当局などに対しても、この問題についての調査検討を求めている。

多くの観光客が訪れるマハムニパゴダのような歴史的名所が、多くの子どもたちの「接着剤あそび」で台無しになっています。将来の人材が損なわれてもいます。[…]だからこそ私は政府やミャンマー母子福祉協会、さらには各NGOが、子どもたちの接着剤吸引を撲滅し、健全育成に再び取り組むことを主張するのです。

校正:石原智子 [2]