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メキシコのレイプ被害者は沈黙する。男性優位主義の偏見ゆえに

カテゴリー: ラテンアメリカ, メキシコ, 女性/ジェンダー, 市民メディア, 戦争・紛争, 行政
メキシコにおいて性暴力反対を訴えるデモ行進。 写真Say No-UniTE,Flicker掲載 (CC BY-NC-ND 2.0) [1]

メキシコにおいて性暴力反対を訴えるデモ行進。 写真Say No-UniTE,Flicker掲載 (CC BY-NC-ND 2.0)

Daniela Guazo が Fundación MEPI [2][en] に寄稿したこの記事の初出は、2013年2月21日である。レイプなどの女性に対する暴力は、メキシコでは依然として深刻な問題となっている。経済協力機構(OECD)の最近の調査報告 [3][es]によれば、メキシコ女性の47パーセントが、生涯のうちに身体的虐待や性的虐待といった苦痛を経験しているという。

今年最初の連休に、リゾート都市アカプルコを訪れた 6名のスペイン人観光客がレイプ [4][en]される事件があり、メキシコ観光業界に警鐘を鳴らしたが、警察にしてみればさほどの衝撃ではなかった。女性に対する暴行犯罪率が高く、政府統計によれば、4分に1件の割合でレイプ時間が起こっているためだ。

メキシコ市で最も古いレイプ犠牲者のための団体ADIVACのディレクターである Laura Martinez Rodriguez によれば、メキシコでは、暴行といった犯罪が近年凶悪化しているという。

Martinez はこう語る。「以前は、火を放ったり手足を切断したりといった事件を見聞きすることはありませんでした。幸いなことに、女性は生きた状態で発見されていました。今では、女性被害者は殺害されるのです」

メキシコの非政府組織である Citizens’ Council for Public Security and Criminal Justice [5] [es](意味: 治安維持と刑事裁判のための市民会議)によれば、太平洋岸の都市アカプルコでは現在、住人10万人当たり142件の割合で殺人が起こっており、暴力的な都市世界第2位に認定されている。また、アカプルコの属するゲレロ州では、わずか351件のレイプ被害の届出があったのみで、件数は他州に比べて著しく少ないものの、この数字には、もっと暗い現実が隠されているようだ。

専門家によれば、レイプ犠牲者の大部分が警察に通報しないという。男性優位主義の文化が強いため、女性はレイプされたことを表立って訴えることができない。また、被害を受けたとき、どこに相談すればいいかわからない人が多い。2011年の政府調査によれば、レイプ被害の94パーセントが報告されていないと推定される。

画像をクリックすると、女性10万人当たりのレイプ被害届出件数が表示される双方向マップに移動します。 [6]

画像をクリックすると、メキシコ女性10万人当たりのレイプ被害届出件数が表示される双方向マップに移動します。

「女性がミニスカートをはくから襲われると考えられている地域もいまだ存在しますが、そうではありません。こういった犯罪は、被害者の人格とは全く関係がありません」メキシコ警察のレイプ捜査班主任 Erika Molina Carranza はそう語る。

さらに女性たちを躊躇させるのは、加害者がしばしば友人や家族であることだ。例えば、ハリスコ州近くに住む44歳のAbundio García Guadalupe は、12歳の義理の娘をレイプしたとして告発された。被害者は、今年の1月義父の子を出産したが、義父は全て妻と娘の同意を得た上での行為であり、暴力はいっさいなかったと主張している

女性が被害届を提出した場合でも、告訴を望まない。Martinez の言によれば、訴えを起こした女性の約半数が、告訴手続きを最後まで行わないという。これは、手続きがしばしば長時間に及ぶことや、加害者との対決を嫌がる理由からだ。警察での調書作成に丸1日かかることもある。レイプ状況を細かく報告した後、イラストレーターが同席して被害状況をチェックし、さらにレイプキット(証拠採取キット)を用いた医師の診察がある。

「手続きの大変さがわかると、最後までやりたがらないのです」とMartinez は言う。

メキシコ市では、レイプ被害者に働きかける政府機関や民間団体は、レイプに立ち向かう上で最も厄介な障壁は、メキシコという国自身にある偏見だと考えている。

多くの女性が、警察当局への報告すら望まない。これは、レイプされたと言っても誰も信じないと思ったり、ふしだらな女と思われるのではないかと考えたり、家族が被害者に家名を汚さないようにと圧力をかけたりするためである。レイプの報告件数がお粗末なことは、ADIVAC のオフィスに行けばわかる。毎月約400人の被害者がここを訪れ、顔見知り以外による犯行が約1割を占める。それに対し、メキシコ市でのレイプの通報件数は平均して月70件、愕然とする数字である。

メキシコ市は毎年住民10万人当たり18件のレイプ事件を記録しているが、統計専門家は、この数字は実際の割合よりはるかに低いと判断している。

画像をクリックすると、2005年から2012年におけるレイプ届出件数が表示される双方向マップに移動します。 [7]

画像をクリックすると、2005年から2012年におけるレイプ届出件数が表示される双方向マップに移動します。

Martinez の懸念は、 近年、より暴力的で大胆なレイプを目にするようになったことだ。

「私たちは、あらゆる事件を見てきました。あるときは、ひとりの女性が朝6時の出勤途中に強姦されました。 加害者は、彼女が陸橋を渡っているときに背後からつかみかかったのです」とMartinez は言う。

しかし、警察当局の耳に届くのはごく一部にすぎない。 ある事件では、メキシコ市南部の貧困地域で、連続強姦魔が1年以上に渡って女性を強姦し続けた末ようやく逮捕された。Martinez によれば、3人の女性が被害を届け出て初めて、警察が犯人捜査に乗り出したという。
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校正:Sadako Jin [9]