東京:オリンピック開催が落とす影

スノーボードハーフパイプでの平野歩夢選手や平岡卓選手らの活躍で、オリンピックに湧き上がっている日本国内だが、その裏でひっそりと異を唱えている一部の市民たちがいる。

数百億ドルもの大金が動くオリンピック開催地で、論争や批判が沸き起こるのも無理はない。ソチオリンピック開会式では、ロシアで前年に成立した同性愛宣伝禁止法が問題となり、米国のオバマ大統領、英国のキャメロン首相、フランスのオランド大統領、ドイツのガウク大統領などが軒並み欠席した。ほかにも、ソチオリンピック関連施設建設に携わった労働者への賃金未払い問題[en]について人権団体ヒューマンライツウォッチが伝えている。また動物愛護団体たちは野良犬が一掃され、処分される可能性[en]について憂慮している。

ニューヨーク在住のコラムニスト北丸雄二さんは開会式に欧米主要国首脳が欠席する中、日本の安倍総理が出席したことについて日本国内の人権意識について触れ、こうコメントした。

そんな中、あまり知られていないのは、開催地ソチの歴史認識問題だ。メイン会場となる「赤い谷」と呼ばれる場所は、1864年にチェルケシア人の97パーセントが殺され、オスマン帝国、シリア、ヨルダンなどの国に追放されたチェルケシア虐殺[en]が起きたところだ。チェルケシア虐殺について正式に認めていないロシア政府に圧力をかけ、活動への支持を集めようとチェルケス人たちはNoSochi2014[en]というキャンペーンを展開してきた。2020年の東京オリンピックに反対するグループ「反五輪の会」は2月に、NoSochi2014への連帯を示すとともに、6年後自分たちの街東京で開かれるオリンピックを返上しようと自身のフェイスブックページでこのように投稿した。

2014ソチ五輪に抗議する世界中のみなさんに、2020夏季五輪開催地である東京より、連帯のご挨拶を送ります。

ソチ五輪は、かつて帝政ロシアが先住民のチェルケス人を虐殺した土地に、史上最高の費用を投じて行なわれると聞きました。
五輪開催によって、約2000人の住民が立ち退きに遭い、とてつもないレベルの環境破壊が行われ、ロシア全土で、性的少数者の人々に対する抑圧や政治弾圧、五輪テロ対策による人権侵害が起こっていることに、私たちもまた怒りと悲しみを禁じ得ません。
[中略]
東京でも、2020五輪決定で、無駄な再開発による貧困層の追い出しがすでに始まっています。
原発事故による放射能汚染は、アンダー・コントロールどころか止める術はなく、福島の人々や被曝労働者にまともな救済措置も行なわれないまま、東京だけがオリンピックの夢に浮かれています。

私たちにとってオリンピックは、悪夢でしかありません。ソチで起こっていることは、6年後の東京の姿です。

反五輪の会のフェイスブックページに投稿された写真。ロシア政府は、19世紀にアレクサンドル2世によってチェルケシア人口のおよそ90パーセントが殺害されたか土地を追われたチェルケシア虐殺についていまだ認めていない。

反五輪の会のフェイスブックページに投稿された東京での写真。横断幕には虐殺の地であるソチでのオリンピック開催に反対するメッセージと「東京オリンピックおことわり」と書かれている。(写真:反五輪の会)

反五輪の会が危惧しているのは、オリンピックにかかわる大規模な立ち退きだ。これまでにも規模の大きい国際的イベントが公園などで催されるたびに、そこで寝泊りする野宿者が排除されることがあったからだ。

2013年12月15日(日)反五輪の会が主催したデモの模様。写真:mkimpo.comより許可を得て掲載

2013年12月15日(日)反五輪の会が主催したデモの模様。写真:mkimpo.comより許可を得て掲載

例えば、2002年FIFAワールドカップや2007年の世界陸上競技大会の前の大阪長居公園では野宿者テントの強制撤去があったことや、愛知万博の開催を機に、名古屋市の白川公園でホームレスの小屋を強制撤去する行政執行が行われたことについてツイッターのコメントで言及している。反五輪の会によるとIOC視察団が東京に来た2013年3月初旬、視察団が通ると予想される沿道で、野宿者の荷物やテントが強制的に移動・廃棄させられたとのことだ。

また、こうした立ち退きを求められるのは野宿者だけに限らない。2020年東京五輪のメイン会場となる国立競技場の建て替えに伴い、東京都新宿区の都営団地「霞ケ丘アパート」に暮らす約200世帯の住民たちは、転居を迫られている。住民の多くは高齢者だ。

「定年おじさんのつぶやき」というタイトルのブロガーはオリンピックのもたらす光と影についてこう書いた

日本での最初の五輪開催は、まさに日本が経済成長を遂げ先進国の仲間入りを果たしたことを世界に誇示する最高の舞台だった。
だが晴れの舞台の陰には多くの人々の犠牲がついて回る。
昔から「開発」という行為には必ず自然や環境の「破壊」ということばがついて回った。

戦争は何も生み出さない最大・最悪の「破壊」行為であるが、五輪開催という大義名分には中々反対の声は上げにくい。

とりわけ立場の弱い人たちは、「お上」の命令には逆らうことができない。
54年前、アジアで初めての五輪開催を控えて都は老朽化住宅の建て替えを始めた。

当時は建て替えられた新しいアパートに再び入居することができたが、そのアパートも逐50年も経ち高齢になった住民は、2020年の五輪に向けて追い出されることになった。

東京でのオリンピック開催や経済効果への期待で大勢が喜ぶ中、涙を呑む人もいる。甚野公平さんは、オリンピックによる二度目の転居を目の当たりにする。AFPによると、1964年東京五輪のメイン会場建設のため元々住んでいた場所を追いやられ、1966年にこの霞ヶ丘アパートに引っ越してきた。再び立ち退きを余儀なくされているという。

オリンピック開催そのものへの反対ではなく、国際競技場の建て替えについての見直しを求める声もある。

個人と都市をつなぐ都市デザインに取り組む建築家のKen Aokiが公開した、新国立競技場の3Dモデ­ルをGoogleEarthにのせた動画※この3Dモデルは2013年3月に公開された情報をもとにしているとのこと

建築家のエドワード鈴木は、「今ある国立競技場を直して使おう」と署名をよびかけている。オンライン署名プラットフォームのChange.orgには神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会が税金を投じた巨額の工事は、イチョウ並木や青空といった都市の景観を破壊するのみならず、次世代に負担をかけ東日本大震災からの復興を阻み、その規模から災害時やバリアフリーの対応などに懸念があるとしてキャンペーンを展開している。

オリンピックに向けた開発を控え、ツイッターユーザーのNakajimamiyukiは都民のあり方について次のようにコメントした。

 

サムネイルは反五輪の会がFacebookに掲載した画像
この記事は英語以外の母国語で記事を執筆するグローバルボイスの「分散型投稿」の試みの一環として日本語で書かれています。

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