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インド:次期首相候補、ナレンドラ・モディの人気が急上昇―過去の実績には異論も

カテゴリー: 南アジア, インド, 人権, 宗教, 市民メディア, 戦争・紛争, 政治, 歴史, 民族/人種
インドのジャンムーで開かれた「決起集会」で聴衆を前に演説するBJPの首相候補、ナレンドラ・モディ(2013年12月1日):撮影=Amarjeet Singh 版権=Demotix) [1]

インドのジャンムーで開かれた「決起集会」で聴衆を前に演説するBJP(インド人民党)の首相候補、ナレンドラ・モディ(2013年12月1日):撮影=Amarjeet Singh 版権=Demotix

インドは2014年4月から5月にかけて、下院統一総選挙 [2]を実施する(訳注:原文はin Aprilだが、投票は4月7日から5月12日まで9回に分けて行い開票は5月16日と、3月5日にインド選管が発表した)。立候補者の多くは同じ顔ぶれが予想されるが、ここ数年にわたり政治家の汚職、レイプ事件や失政が相次ぎ、インド国民の既成政党に対する期待感は大きく損なわれた。

2004年以来、中道のインド国民会議派 [3]が政権を担ってきた。 この政権下でインドは一定の安定を維持してきたが、与党閣僚が「コモンウェルスゲームズ」(訳注:イギリス連邦に属する国や地域が参加して4年ごとに開催される総合競技大会。2010年はデリーで開催)、石炭鉱業、携帯電話サービスプロバイダーへの3Gライセンス認可などで汚職に関与 [4]するという問題も発生した。さらには女性に対する暴力事件 [5]が増加するなど、今や国民は悪政にすっかり愛想を尽かしている。

最近の州議会レベルの地方選挙では(訳注:2013年12月8日開票)、デリー首都圏で新党の庶民党(AAP) [8]が台頭した。AAPは社会活動家アンナ・ハザレが2011年に始めた反汚職キャンペーンの流れをくむ政党だ。この選挙では、インドのもう一つの主要政党であるヒンズー教右派の人民党(BJP) [9]に次ぐ第二党に躍進し、結党わずか1年あまりで国民会議派などの既成政党を脅かす勢力となっている。

前哨戦の焦点は次期首相候補の一人、西インド・グラジャート州首相でBJPのナレンドラ・モディ [10]だ。彼は国民の不満を票に結びつけようとしている。 2002年、同州で多数の死傷者を出したヒンズー・イスラム教徒間の暴動 [11]に対するモディの責任問題は熱い論争の的 [12] となっているものの、経済界での人気は高い。また、AAPのような新党に期待を持てない層や国民会議派に一票を投じようとは思わない有権者にとっては、彼が唯一の選択肢であろう。

それどころか、元警察官Kiran BediなどのAAP党員でさえモディに肩入れしている。

「インドの有力者は、現状に対する苛立ちをひどく高めているので、モディの過去には目をつぶろうとしている」とブロガーのシュムペーター [14]はデジタル版『エコノミスト』に寄稿している。インドの財界人も、ゴードラ暴動におけるモディの責任の有無はさておき、同じ態度を表明している。

またモディは、IT世代の若いインド人にも大きな支持基盤があると言われ、特にモディのネットキャンペーンに積極的な支援を行う若者もいる。

インドの政教分離主義は瀬戸際に追いやられるか?

だがモディは、インドの伝統的な政教分離主義を脅かす [12]のではないかと考える人もいる。

2002年、グジャラート州ゴドラで起こった宗教暴動 [11]は、北インドの聖地アヨーディヤーからヒンズー教徒を乗せてきた列車の焼き討ち事件に端を発する。暴動は拡大し、インド現代史におけるヒンズー・イスラム間暴力衝突の極めて深刻な事例となった。900人から2,000人の人々が殺害され、その多くはイスラム教徒だった。犠牲者の中にはイスラム教徒の政治家や経済人も含まれている。

モディは当時もグジャラート州首相であったが、当局による暴動沈静化には何の落ち度もなかったとされた。しかし、モディの陰謀関与や適切な措置をとらなかったことの責任を問う声 [15]は今も絶えない。罪の処断を目的として複数の委員会 [16]が立ち上げられた。2013年4月時点で、249の有罪判決が確定しており、その内訳はヒンズー教徒184人、イスラム教徒65人であるが、まだ裁判を待つ [17]被害者が残されている。

もっとも、グジャラート州首相として3度再選されたモディが成し遂げたこと [18]は語るに値しよう。 インドの著名なTVジャーナリストBarkha Duttが制作したドキュメンタリーは、モディ政権がゴドラの虐殺事件後、事業再生に成功したイスラムの経済人からの支持をうまく獲得したことを伝えている。また、時事週刊誌『Open』は、モディが「かつてないほど」 [19]イスラムに接近していると報じている。

しかしモディのような首相が、インドにどのような未来をもたらしてくれるのだろうか? Financial Express紙のコラムで、民間シンクタンク・インド経済監視センター(CMIC)のMahesh Vyasは、2002年以後、インドへの総投資に対するグジャラート州への投資は、ゴドラ暴動前の21パーセントに対し、約13パーセント [20]までしか回復していないと主張している。そのうえ、州内各地域が等しく好景気に恵まれているわけではない。

一方、暴動時にモディが示した指導力とヒンズー教右派のBJP党員であることに警戒心を持ち続ける人々もいる。

インド国民の先行きには、厳しい選択が待ち構えている。

本稿の旧版で「インド国民会議派は2006年から政権を担当していた」と記述したのは誤りでした。国民会議派政権は2004年からです。誤りを指摘していただいたAmit Gupta氏 [22]に感謝します。
校正:Takeshi Nagasawa [23]