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リンダ・ジャーヴィン:セックスと中国と翻訳者

カテゴリー: オセアニア, オーストラリア, 市民メディア, 文学, 映画, 芸術・文化, 架け橋
Linda Jaivin

リンダ・ジャーヴィン – 写真: Jade Muratore

リンダ・ジャーヴィンはルネサンス的才女だ。自身を世俗的な人道主義者と呼んでいる。米国コネチカット州ニューロンドンの生まれで、台湾と中国で長年にわたって勉強や就労をしたのち、オーストラリア市民となってすでに20年以上になる。

リンダの仕事は驚異的だ。彼女が持つ「肩書き」は翻訳者、通訳、詩集編集者、詩人、小説家、劇作家と多岐にわたる。その作品も短編、エッセイから、コミカルでエロチックな”Eat Me”(訳注:邦訳「イート・ミー」)のような小説、”A Most Immoral Woman”(最も不道徳な女)のような歴史フィクション、さらに度外れに面白い”Confessions of an S & M Virgin” (S&M初体験者の告白)などノンフィクションまである。

リンダを形容する言葉も「刺激的な」、「難しい」、「風変わりな」、「挑発的な」、「独創的な」、「わいせつな」、「書字狂的な」 [1] など多様だ。彼女の作品や会話は我々をいろいろな思いがけない場所や、よく知らない場所へと連れていってくれる。最初は多くの読者が彼女にショック受けたかもしれない。でもそうやってこれまで彼女は公共の場での議論をもっと寛容でオープンなものにするのに貢献してきたのだ。Wheeler センター [2] (訳注:オーストラリアメルボルンにある文芸センター)で行われた以下の公開インタビューを見てもわかるように、彼女は時としてあなたに正面切って迫ってくるように思える…とても親しげにという意味だが。

リンダの作品の仕掛けは単なる「セックス、ドラッグ、ロックンロール」ではない。それ以外にもっと多くのものが詰まっている。彼女が天安門について語ろうが、難民問題について語ろうが、個人的なものと政治的なものが入り交ざって、いわゆるポリティカル・コレクトネスという枠には収まりきらない。彼女は討論番組やインタビュー番組に常連で登場する。それもただ作家としてだけでなく、たとえばABC(オーストラリア放送協会)のQ&A [3]のような全国放送の時事討論番組には解説者として出演している。.

翻訳者として、リンダは特に映画の翻訳が好きだ。これまでに”Farewell my Concubine”(訳注:邦題「さらば、わが愛」)や”The Grandmaster”(訳注:邦題「グランド・マスター」)など数々の有名な中国映画の字幕も担当した。

「映画翻訳の難しいところは、字幕をどこまで短く、ズバリと端的に訳せるかという点ね。しかも意味と感情が正しく伝わらなければならないの。それに観客が画面やサウンドトラックからどんな情報を得ているかまで計算に入れなきゃならないの。なんかパズルみたいね。あとウォン・カーウァイとかチェン・カイコーなんかの映画のエンドクレジットに自分の名前が入るのもとてもいい気分だわ。でも、そこまで劇場に残って観てくれるのは自分の母親くらいしかいないけど。」

リンダは公衆の目にさらされることで不便な目にあったことがまだないという。「私みたいに公の場によく出てている作家でも、ロックスターみたいなセレブには絶対になれないのよ。買い物をしていて人にもみくちゃにされることもないし、きちんとした身なりをしていないときにパパラッチが寄ってきて写真を撮られるなんてこともないの。だいたい作家の身なりなんかめったにニュースになんかならないし、パジャマ姿で仕事している作家も多いしね。それでもまあ時々だけどレストランなんかで、お客さんが私の小説のファンだっていってドリンクをおごってくれることもあるし、バスなんかでも近寄ってきて声をかけてくれることもあるわ。だからこれまで思わぬ嫌な目にあったってことはないわね。」

彼女には特に好みのジャンヌというのはない。「エロチカを書いているときは、エロチカが一番好きなの。その次にエッセイを書き始めるとエッセイを書くことに喜びを感じるの。云々。私はどんなタイプの書き物も好き。みんなそれぞれ他と少しずつ違っていて、書くときには他と違った難しさもあるし、逆にそこから得る喜びもまた他と違うの。私の最新の小説”The Empress Lover”(皇太后の愛人、2014年4月、Fourth Estate HarperCollins出版)みたいな感じね。基本的にはフィクションなんだけど、私の好きな翻訳、歴史、エッセイなど他の分野の要素も多分に織り込まれているの。」

滑稽や風刺は彼女の得意とするところだ。「私はきっと底抜けな楽観主義者なんだろうと思う。きっとその理由は、人を笑わせようと思って書いていると自分も笑ってしまうから。私は楽しく過ごすのが好きなの。」

政治や社会問題に対する彼女の意見は明らかにリベラルだ。「わたしは自分を世俗的な人道主義者だと思っている。私たちは一個人として仲間である人間を尊重し、考慮し、思いやるべきだと思うの。そして私たちの社会はその中の一番弱くて被害を受けやすい人たちを守らなければいけないと思うの。政府や自治体がこういう人たちに対する配慮や同情を欠いているのを見ると、わたしはひどくつらくなるの。とくに仮収容所に収容されている亡命申請者達を訪れた際の経験はそのことを深く気付かせてくれたとてもつらい経験だったわ。だから私は作家として、そして個人として自分が持つ影響力を使って、他の人たちがこういう問題について考えたり、あわよくば行動してくれるように努力しているの。」

翻訳者としてのこれからの予定を聞くと次のように答えてくれた。「これまでどおりよ。長期のプロジェクトとか翻訳のアイデアとかはいろいろあるんだけど、仕事の機会のほうは不定期ね。今これを北京で書いているの。今ちょうどある中国のロックミュージシャンから、自分の曲を何曲か英語でも歌えるように、全曲の歌詞を英語に翻訳してくれないかって頼まれたばかりなの。こういうのは自分で計画するようなタイプじゃないし、それに私今かなり忙しいのね。それにこういう翻訳って本当に難しいの。だから私は『やってみるわ』って返事したのよ。」

今の若者たちは環境破壊や複雑な問題を抱える社会の中に生まれてきた。彼らがこれらの問題に取り組もうとしていないという批判をよく耳にする。そういう彼らに対する彼女のアドバイスは簡潔で的確だ。 「わたしたちの世代の中にもこの複雑な問題を解決しようとしている一生懸命な人たちがいることを知ってほしいわ。でもこの問題は本当にぐちゃぐちゃに錯綜しているの。だからあなたたちは自分の分野でそれぞれ闘ってベストを尽くしてね。がんばって。」

もし彼女のことを今回初めて知った方には彼女のウェブサイト [4] を訪れて、そこにある多くの彼女の作品の一つを選んでみることをお勧めする。また彼女の Goodreads [5] (訳注:無料で他の利用者が追記した書籍情報や注釈、批評を閲覧できる英語のウェブサイト) のページにも有益なリンクや情報がたくさんある。

彼女の最新作は季刊エッセイ” Found in Translation: In Praise of a Plural World [6] ” (翻訳で見つかるもの:多元文化礼賛)と、中国が題材の歴史小説” The Empress Lover [7]” (皇太后の愛人)だ。.

Found in Translation [6]

校正:Rina Suzuki [8]