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アメリカ:男女間の賃金格差、ソーシャルメディアではなんて言ってる?

カテゴリー: 北アメリカ, アメリカ, 労働, 女性/ジェンダー, 市民メディア
Activists, community leaders and politicians gather on the steps of City Hall in New York to rally against pay disparity on Equal Pay Day. April 8, 2014. Photo by Richard Levine. Copyright Demotix. [1]

活動家や地域社会のリーダー、政治家たちが、イコール・ペイ・デー(Equal Pay Day 訳注:「(男女間で)同じ賃金を手にする日」。前年の男性の賃金に女性の賃金が追いつく日を試算して毎年設定される)にニューヨーク市庁舎前の階段に集まり、賃金格差反対の抗議集会を行った。2014年4月8日 撮影リチャード・レヴィーン氏 著作権Demotix

特に断りのないリンク先は英語のページ。

伝えられるところによれば、前アメリカ大統領ビル・クリントンの娘、チェルシー・クリントン氏は、昨年NBCネットワークの特派員として60万米ドル [2](訳注: 2014年7月7日時点の為替レートで約6,108万円)の給与を受け取っていたという。最近報じられたこのニュースに対し、ソーシャルメディアでは、ジャーナリストや政治活動家などから多くの怒りの声 [3]が上がった。

もしこの数字が正しければ、チェルシー・クリントン氏は、賃金格差をめぐる確執 [4]があったとされ先月解任された前ニューヨーク・タイムズ編集長のジル・エイブラムソン氏よりも、ずっと業務量は少ないのに、高い給与をもらっていた [5]ことになる。

一人の不釣合いに高給な女性が、大手マスコミで働く女性たち、または労働者全体を正確に代表しているわけではない。しかし彼女の給与が驚くほど高かったおかげで、アメリカでは男女間賃金格差についてまた活発に議論が交わされるようになった。

一般にアメリカで女性の給与が男性より少ないのはなぜなのか。その答えを求めて、男女間の賃金格差について数多くの研究 [6]が行われ、マスコミ [7]でも頻繁に取り上げられてきた。男女間賃金格差の問題は、今年4月バラク・オバマ米大統領が、政府と契約する企業に人種と性別別の賃金データ [8]の公開を義務づける大統領令に署名をしたおかげで、いっそう世間の注目を集めることになった。この大統領令の狙いは、賃金の透明性を確保することで、ひとつには女性がイコール・ペイ(訳注: 同一労働同一賃金)を要求しやすくすること。もうひとつは、通常ならばまず調査されない社内の賃金格差について、調査分析するよう雇用主に強い圧力をかけることにある。

ソーシャルメディアでもこの問題についての議論が盛り上がっている。たとえば、ネット上のユーザー名という匿名の下、賃金格差についての個人的体験談をソーシャルメディアで披露した人たちもいる。

女性は、えてして男性よりも交渉事に消極的になりがち [9]だが、仕事のオファーがあった時も男性より要求する額が少ない。結果、男性よりも基本給が低くなり、それは生涯賃金にも影を落とす [10]。ある大手多国籍企業のマネージャーは、Reddit(訳注: ニュースや記事へのリンクを収集・公開する英語圏のソーシャルブックマーク・サイト)のTwoxchromosomes [11]というフォーラムの中で次のように書いた。

I work for a large multinational tech company, I regularly hire woman for 65% to 75% of what males make.

Our process, despite the pay gap, is identical for men and women. We start with phone interviews, and move into a personal and technical interview. Once a candidate passes both of those, we start salary negotiations. This is where the women seem to come in last.
The reason they don't keep up, from where I sit, is simple. Often, a woman will enter the salary negotiation phase and I'll tell them a number will be sent to them in a couple days. Usually we start around $45k for an entry level position. 50% to 60% of the women I interview simply take this offer. It's insane, I already know I can get authorization for more if you simply refuse. Inversely, almost 90% of the men I interview immediately ask for more upon getting the offer.

私は大手の多国籍ハイテク企業で働いていますが、男性の65~75%の給与で女性を採用するのはざらです。

賃金格差があるにも関わらず、我々の採用プロセスは、男性でも女性でも変わりません。まずは電話面接から始め、次に応募者の資質や技術力についての面接へと進みます。応募者がこの2つの面接に共に合格したら、給与についての交渉を始めます。女性が男性に水をあけられるのはこの時のようです。
私の見たところでは、なぜ女性が遅れを取るかは簡単です。女性と給与交渉の局面に入る時、大抵私はその女性に、数日のうちに給与額を連絡するからと伝えます。未経験者レベルの仕事の場合、通常45,000米ドル位(訳注: 2014年7月7日時点の為替レートで約458万円)から始めます。私が面接した女性のうち、50〜60%があっさりこのオファーを受け入れてしまいますが、まったく正気とは思えません。単にこのオファーを拒否しさえすれば、もっと高い額でも会社は承認することを私は知っているのです。これとは逆に、私が面接した男性のうちほぼ9割は、オファーを受け取るやいなや、もっと増額するよう求めてきます。

しかし女性が交渉に消極的になるのもやむを得ないことだ。カーネギーメロン大学の研究によれば、交渉する女性というのは、男性の評価者からも女性の評価者からも、否定的に受け止められるのだ [12]

2014年3月、ブログ The Philosophy Smoker は、最近大学を卒業し、NY州北部の大学から終身在職権のある職をオファーされた若い女性の話を取り上げた。彼女は、より高い給与と半年間の出産育児休暇、その他の条件を求めて交渉し、結果、採用は取り消された [13]

この一件は、ウェブサイト Inside Higher Ed [14] にも掲載された。これにサイト利用者のMJLがコメントを寄せ、仕事に応募した女性に期待されていることとは何か解説 [15]してみせた。

Female candidates are told never, ever to bring up maternity leave or imply in any way that child or elder care responsibilities will be an issue. Some are even advised to leave wedding rings at home and not admit to having a spouse or children, or ever wanting a spouse or children. We are also told to negotiate, and never warned that the offer could be withdrawn. Terror of unemployment has kept me from ever negotiating for more than increased moving compensation, though.

女性応募者は、何があろうと絶対に、出産育児休暇のことを持ちだしてはいけないし、子どもや高齢者の世話が仕事に支障をきたす可能性があることを仄めかしてもいけない、と言われます。結婚指輪は家に置いてゆき、配偶者や子供がいること、または配偶者や子供が欲しいと思っていることさえ認めないよう、アドバイスされる人までいます。その一方で私たち女性は交渉をするように勧められますが、そのせいで採用取り消しになるかもしれないことは誰も教えてくれません。でも私は、仕事が見つからなかったらという恐怖のせいで、引越しにかかる費用以上のことは交渉できないままです。

賃金格差を生じさせるもう一つの要因は、ライフスタイルの選択の仕方だ。男性も女性も、30代までは賃金に差はない [16]。しかしカップルが家庭を築き子供を持つ時、女性は自分の労働時間を短縮し、それ以降生涯を通じてその分の収入を失うことになる。そのことは、アメリカの無党派のシンクタンク、ピュー研究所が作成した下記グラフにも表れている。

家族の世話をするためキャリアを中断したことがあるのは、父親よりも母親に多い。

これは次のような疑問を呼ぶ。「男女間に収入格差がある主要な原因は、女性がキャリアについて誤った選択をするからなのか?」 これに対して、ライターで講演活動も行うエリカ・フリードマン氏は、Q&AのサイトQuoraで以下のように回答 [20]している。

Women are subject to internal and external pressures and societal expectations that are different from men's. Little things like being expected to stop working to have a family and the very natural human tendency to prefer people similar to ourselves around us mean that a woman is unlikely to learn to negotiate her worth, be expected to leave at some point and generally not be one of the guys. This leads to “bad decision making” like needing a suboptimal job when her husband can't/won't/doesn't support the family, not having the internal and external power to change the terms of an agreement, or working too long and too hard for people who are disinclined to notice.

女性は、自分の内外の両方からプレッシャーを感じ、加えて男性が受けるものとは異なる社会的な期待にもさらされています。家庭を持つために仕事を辞めるだろうという周囲の思い込みといった些細なことや、人は自分の周りに同類を置きたがるというごく当たり前な傾向のせいで、女性が自分の価値の交渉の仕方を学べる機会はまずありません。女性はいずれ辞めると思われ、また、男性社会では大概仲間とは認められないのです。このことは、次のような「誤った判断」へと繋がります。それはつまり、夫が家族を扶養できない/扶養する気がない/もしくは実際扶養していない、という場合に、妻が理想的とは言い難い仕事でもやらざるをえないことや、雇用の合意条件を変えるよう社内もしくは社外から働きかける力に欠けること、また気付こうともしない人たちのために長時間労働と過酷な業務に耐えること、を指します。

米ハーバード大学経済学部の教授で、非営利団体である全米経済研究所のアメリカ経済発展プログラムのディレクターも務めるクラウディア・ゴールディン博士は、職場の文化を変える [21]ことが格差縮小につながると考えている。

The gender gap in pay would be considerably reduced and might vanish altogether if firms did not have an incentive to disproportionately reward individuals who labored long hours and worked particular hours

長時間決まった時間帯に働く人たちを企業が過度に優遇することを止めれば、性差による賃金格差は大幅に縮小するでしょうし、完全になくなるかもしれません。

チェルシー・クリントン氏は、たしかに女性でありながら、同輩の男性たちよりも多くの給与を受け取っている。しかし、アメリカが男女間の賃金平等を達成するためには、未だしなくてはならないことはたくさんある。イコール・ペイへの明確な道すじはない一方で、この問題を絶えず検証し、少しずつ変えていくことが、目下の優先事項といえるだろう。さもなければ、シンクタンク、アメリカ進歩センターの所長、ニーラ・タンデン氏が言ったような状況になるだろう。

「人口の半分を占める女性を見くびる社会というのは、その潜在能力を十分に発揮できないに決まっている。」

校正:Masahiko Shin [27]