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ゲイのペンギン2匹の子育てを描いた絵本、シンガポールの図書館で閲覧禁止に

カテゴリー: 東アジア, シンガポール, 同性愛者の権利 (LGBT), 市民メディア, 抗議, 政治, 教育, 文学, 若者, 言論の自由
Many Singaporeans reacted strongly to the banning of the three children's books. As a protest, they gathered in front of the National Library Board where they read the banned books, including the 'gay penguin book'. Photo by Olivia Tan from the Facebook page of 'Lets read Together' [1]

この児童書3冊の閲覧禁止に強い反応を示したシンガポール人は多い。人々は抗議のため、国立図書館委員会の前に集まり、「ゲイのペンギンの本」を含めた禁止図書を読む会を開いた。写真はFacebookのイベントページ「Let's Read Together!」から。撮影オリビア・タン氏

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シンガポール国立図書館委員会(NLB)は、「家族主義」に合わない本だとの苦情を1件受けた後、同性カップルや養子縁組をテーマにした児童書3冊を閲覧禁止 [2]、破棄処分とした。

NLBが撤去した図書は、「And Tango Makes Three(邦題:タンタンタンゴはパパふたり) [3]」、「Who's In My Family [4]」、「The White Swan Express [5]」の3冊。「タンタンタンゴはパパふたり」は、ニューヨークのセントラルパーク動物園で、雄のペンギン2匹が赤ちゃんペンギンをまるで自分たちの実の子であるかのように育てたという実話に基づいている。

フェイスブック上のグループ「ピンクドットシンガポールに反対する会」のメンバー、テオ・カイ・ルーン氏は、この3冊が児童書コーナーに置かれているのは不適切だと、NLBに苦情 [6]を送った。ピンクドット [7]とは、年に1回シンガポールで開催されるイベントで、多様性と寛容を促し、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の受容を呼びかけるものだ。

NLBの副委員長で図書館長のTay Ai Cheng氏は、この苦情に速やかに対応し、図書館からこれらの図書を撤去するよう指示を出した。また同氏は、苦情を送ったルーン氏に対し、「NLBは図書の選定において強く家族主義の立場を取る」ことを約束した。

この決定は、特に母親や学術関係者を中心に、読書好きなシンガポール人の激しい反発を呼ぶことになった。教育専門家のレイチェル・ゼン氏は、少数保守派からの脅しに屈しないようNLBに迫った [8]

[…] as a resource centre of knowledge, the National Library Board (NLB) should maintain a diverse collection of reading materials in your libraries that will cater to the educational needs of everyone from as young as 18 months old to those who are 60 and beyond. It should not limit the availability of knowledge by pandering to the standards of a conservative minority.

[…]知識供給センターとして、NLBは今までどおり、図書館に幅広く多様な蔵書を揃えておくべきです。そうして図書館は、生後18ヶ月の赤ちゃんから60才以上の人まで、すべての人の教育上のニーズに対応できるようにすべきです。NLBは、少数保守派の価値基準に迎合して、人々が手にすることができる知識を制限すべきではありません。

フェイスブック上のグループが、どのようにしてNLBに当該図書の撤去をごり押し [9]できたのか不思議がるネットユーザーもいる。ヘレン・シーダ氏はこの点を問いただした。

[…] if these books passed the initial selection tests of the library organization in the first place why is it a Facebook group, of all things, has enough clout to demand their removal?

[…]そもそも、これらの本は図書館組織による最初の選定検査に合格しているんでしょ。どうして、こともあろうに単なるフェイスブックのグループに、これら図書の撤去を要求できるほどの力があるの?

「タンタンタンゴはパパふたり」の共著者の一人、ジャスティン・リチャードソン博士は、The Online Citizenとのインタビューに応じた。その中で、今回のNLBの決定によって「表現の自由全般に対し、中でもとりわけゲイとレズビアンの人たちに対し、政府の姿勢がいかに冷淡なものかが伝わってくる [10]」と語った。

賛同して似たような意見を表明するシンガポール人作家は多い。中には、NLBが後援するイベントを既にボイコットした人もいる。先週の日曜日(訳注: 原文記事2014年7月16日掲載)には400名以上がNLBの前に集まり [11]、抗議のための公開読書イベントに参加した。そこでは閲覧禁止になった図書も参加者に配られた。

一人の母親であるJashuat氏は、NLBは、学習を促進するという、図書館の公の使命に反する行動 [12]を取ったと考えている。

NLB’s ban and subsequent defence of its action displays a very narrow definition of family. Again, this is against promoting learning, one of NLB’s mission. Are gays not part of a family, not someone’s child, brother, friend? By banning the book, NLB was being silly and bowing to pressure from a small group of Singaporeans’ personal belief and value system. By stubbornly defending their action, NLB is stamping approval and endorsing that narrowly defined view of what family is.

NLBが取った閲覧禁止措置とその後に続いた自己擁護の姿を見ていると、NLBが考える家族というのは非常に定義が狭いものだということが分かります。繰り返しますが、これはNLBの使命のひとつである学習の促進に反しています。ゲイは家族の一員ではないんですか? 誰かの子どもでは、兄弟では、友達ではないんですか? その本を禁止することで、NLBは愚かにも、少人数のシンガポール人グループの個人的信条や価値観による圧力に屈したのです。NLBは自らの決定をかたくなに擁護することで、家族の定義を狭くとらえることに、お墨付きを与えてしまっているのです。

Ng Yi-Sheng氏、Lim Jialiang氏、Liyan Chen氏の3氏は公開文書を起草し、その中でNLBは無責任で不当だと批判 [13]した。自分の子どもにはこれらの図書を読んでほしくないと思う親には、その本を借りないという選択肢があると彼らは述べた。

The 'Let's read Together' event gathered 400 people in front of the National Library Board. Image from Facebook event page [14]

「Let's Read Together」イベントのため、国立図書館委員会の前に400人が集まった。 画像はフェイスブックのイベントページから

一方で、自身も子どもの親でありブロガーでもあるThe Wacky Duoは、図書館側の論拠には理解を示したが、これらの図書を破棄処分とする決定には異を唱えた [15]

To ban it to protect the younger ones is one thing, to pulp the books is akin to a witch hunt, where innocents perish with the guilty. …A simple alternative would be to move it to young adults section, which at the recommended age group, one would be able to make their own judgment on the books content.

幼い子どもたちを守るために何かを禁止すること自体を否定はしません。しかし本の破壊は、無罪の人たちが冤罪で殺される魔女狩りと大差ありません。…簡単な代替案は、それら図書をヤングアダルトコーナーに移動することでしょう。そこなら図書の推奨年齢層にあたる子どもたちが、本の内容について自分自身で判断を下すことができるでしょう。

シンガポールの通信情報大臣であるヤーコブ・イブラヒム氏は、NLBを擁護 [16]した。「公共図書館は地域社会にサービスを提供するものであり、よって地域社会の規範に配慮するのは正しいことです」と発言した。「圧倒的多数のシンガポール人に受け入れられていて、社会に浸透している規範に基づいているのは、子どもたちに従来の家族像について教えることです。それは問題の図書が扱っているような、まがい物の非伝統的な家族像について教えることではありません。」

シンガポールにおける保守的勢力と、ゲイ・コミュニティや性的マイノリティーの権利擁護者を受け入れる新興コミュニティ。今回の閲覧禁止問題は、この2つのグループ間に横たわる、現在進行形の対立を浮き彫りにしてみせた。

校正:Yuko Aoyagi [17]