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死の病、激しい紛争、そして白人救世主:ハリウッドが創る歪んだアフリカイメージ

カテゴリー: サハラ以南アフリカ, コートジボワール, コンゴ民主共和国, シエラレオネ, ナイジェリア, フランス, マダガスカル, リベリア, 中央アフリカ, デジタル・アクティビズム, メディア/ジャーナリズム, 健康, 国際関係, 市民メディア, 映画, 芸術・文化
Screen capture of the Trailer for the film Outbreak [1]

1995年公開「アウトブレイク」スクリーンショット

今回の 西アフリカでのエボラウィルス [2] 大発生により、少なくともこれまでに712人 [3]が死亡(訳注:8月25日現在死者1552人 WHOデータ)、他にも数百人がこのウィルスの感染により死亡したと疑われている。エボラウィルスへの恐怖が世界中に広まる中、この現実の国際的な公衆衛生危機は、20年ほど前に映画化されたフィクションを想起させる。ダスティン・ホフマン、レネ・ルッソ、ケビン・スペイシー、モーガン・フリーマンなどが出演したあの映画だ。

「アウトブレイク」はエボラに似た架空のウィルス、モターバが、コンゴ民主共和国で検出されてからアメリカの医療機関や軍がその流行を阻止する模様を描いている。映画の冒頭、この死のウィルスの存在を隠すため、アメリカ軍兵士2人が(ウィルスが検出された)アフリカのとある村を破壊する。爆破シーンで映画が始まるのだが、映画の舞台はその時点でアフリカを離れ、村の負傷者たちは放置されてしまう。

アフリカ人負傷者たちが脇役扱いなのは、多くのハリウッド映画ではよくあることだ。 インターネット・ムービー・データベースによると、アフリカ大陸を取りあげた映画はおおよそ1,367本 [4]。その中でもとりわけ人気のある映画4本、「ブラッド・ダイヤモンド」「ティアーズ・オブ・ザ・サン」「ロード・オブ・ウォー」「ラストキング・オブ・スコットランド」。いずれも暴力に支配されたアフリカの国が西洋人に救いを求めるという設定の作品だ。他にもヒット作3本、「ナイロビの蜂」「アウトブレイク」「サハラ 死の砂漠を脱出せよ」。いずれの作品でも、アフリカ人は怪しむことなく医学実験の被験者として、あるいは、その他様々な健康被害の被害者として描かれている。そして事実関係がおかしいあの作品もお忘れなきよう。「永遠のアフリカ」「戦争プロフェッショナル」「マダガスカル」の三部作だ。

1988年公開のエディー・マーフィー主演作「星の王子 ニューヨークへ行く」以降、ハリウッドはアフリカ大陸への見解についてずいぶん大人になったのだが、それでもハリウッドの映画制作者たちからアフリカ大陸に関する現実的なイメージを引き出すことは稀だ。俳優の ベン・アフレックが指摘するとおり、 [5] ハリウッドのプロデューサーで、アフリカ大陸についての映画に関心を示すひとは多くはないようだ。 ハリウッドは未だに西側の価値観を世界中に押し付ける役割を果たしているのだということをどうか心に留め置いて欲しい。

「闇の奥」はもう終わったのか?

アフリカ大陸を「闇の奥」と呼ぶ時代は終わったが、アフリカ大陸が安全な場所ではないという潜在意識は未だに最近の映画作品でも色濃く反映されている。こうした意識がもたらす経済や国際関係への影響がどのくらいのものか、現状ではなんともいえない。しかし敢えて聞こう、エボラの大流行が別の大陸で発生していたとしたら、航空各社はこれほど早くエボラの脅威を理由にフライトキャンセル [6]をしていただろうか? そしてエボラ出血熱の脅威を理由に、バスケットボール米国代表チームがセネガル遠征の中止をしたのは [7](まだセネガルではエボラの影響はないのだが)(訳注:8月29日セネガル保健相より感染者1名発生の通達あり)、本当にエボラ大流行だけが理由か、それともアフリカ大陸全体の保健衛生事情に対するもっと一般的な懸念材料によるものなのか?

これはなにもエボラ大流行がまじめに取り上げられていない、ということを示す事例ではない。現場の状況は、紛れもなくもっと憂慮すべきものだ。リベリアの国家元首エレン・ジョンソン・サーリーフは エボラ流行を国家非常事態だと宣言 [8]したり、その近隣諸国のコートジボワールが予防啓蒙活動を強化する [9]といった状況があるからだ。それでもアフリカに対する語り口はこの「エコノミスト」によるツィートのようなリアクションが好まれる。

西アフリカでのエボラ流行は地域と世界にとって、とてつもなくやっかいなことだ。

これに対するツィート、ジナ・ムーアから。

#リベリア [14]に長くいればいるほど#エボラ [15]の秘密の武器を目の当たりにする。それは私たちにはふれあい共感し気にかけることで愛情を示す、という生まれ持った本能があるということ。

ギニアにいる国境なき医師団の疫学専門家、サベリオ・ベリッツィはジナ・ムーアのツィートを支持して [16]こうつぶやく。

In Telimele, Guinea we achieved a significant reduction in mortality, down to 25 per cent, thanks to our relations of trust and dialogue with the local community. People would come to us within 48 hours from the first appearance of symptoms and we could provide them with the best assistance.

ギニアのテリメレで、我々は致死率をなんと25パーセントにまで下げることに成功した。これは地元コミュニティーとの間に培った信頼と対話のお陰だ。初期症状が出て48時間以内に我々のところへ来てくれるようになり、最善の措置が可能になったのだ。

大切なのは意識の持ち方。結局のところ、映画「アウトブレイク」のシーンよろしくウィルス阻止のために爆弾を投下するのとは逆に、現実世界で感染拡大を阻止するために最も有効な方策とは、「もっと手袋と無菌注射針を(用意すること)」 [16]に尽きるのだから。

救世主でなくパートナーを探して

他にハリウッドでありがちなのは、アフリカが「紛争で疲弊した」大陸だという設定だ。近年、アフリカ大陸での抗争が増加しているものの [17]この継続中の紛争分布図が示す通り [18]、いまや旅行者は世界中のどこにいても紛争に出くわす可能性がある。

Map of sites of ongoing armed conflicts worldwide by Lencer- CC BY-SA 3.0 [19]

世界各地で現在継続中の武力抗争分布図 出典Lencer CC BY-SA3.0

映画「ティアーズ・オブ・ザ・サン」は、暴力に支配されたアフリカのとある国で、西洋人が人命救助に尽力するというよくある構図を描いたものだ。ブルース・ウィリスが演じるA.K.ウォーターズ大尉が こう言う [20]シーンがある。

It's been strongly suggested that we turn over Arthur and abandon these refugees out here in the bush. I'll tell you right now: I'm not gonna do that. Can't do that. Broke my own rule – started to give a fuck.

アーサーを引き渡し、この難民たちを奥地に置き去りにしてこいと、そうとう強く勧められてきた。よく聞け、俺はそんなことはしない。出来ないんだ。自らの規律を破った、放っておけない。

一人の人間が同じ人間(アフリカ人)を救おうと決心する場面をこうやって取り上げるのは辛辣かもしれないが、このシーンに漂っているのは、白人救世主を必要とするアフリカ人難民に対する絶望感だ。問題は、アフリカに於いて、西側の軍事介入による成功例がないということ。つい最近の例からしても、リビアは滅茶苦茶、マリはまだまだ不安定、中央アフリカ共和国ではフランスの軍事支援を受けているにも関わらず、何百もの人々が亡くなっている。

今こそ、ハリウッドが描く新たなアフリカ像が必要だ。アフリカを扱った最近のハリウッド映画で、最も評価の高い映画のひとつ「インビクタス」で、外国の介入が一切描かれていないのは、注目に値する。「インビクタス」はアパルトヘルト崩壊以降、より結束の固い国家を目指す南アフリカの国家建設を描いた物語。映画の題名に引用されるこの詩が全てを物語っている。 [21]

It matters not how strait the gate,
How charged with punishments the scroll,
I am the master of my fate,
I am the captain of my soul.

門がいかに狭かろうとも
いかなる罰に苦しめられようとも
私が我が運命の支配者
私が我が魂の指揮官なのだ

校正:Sayuri Ishiwata [22]