「通勤地獄」の原因は通勤手当?
Sayuri Ishiwata労働
10月14日、オンライン版ジャパンタイムズ上のブログYen for Livingに掲載された記事 “How employer transportation allowances helped create commuter hell”によると、通勤手当が日ごろの「通勤地獄」を招いているのではないかと指摘されている。
厚生労働省によると、2009年の時点で通勤手当を採用している会社は86%以上にのぼる。ホームページ上での資料を読むと、通勤手当が取り入れられるようになったのは戦後であることが分かる。手当が支給されるようになった要因にはまず、都市部において住宅事情に余裕がなくなったため、遠距離通勤を余儀なくされた通勤者が増えたことが挙げられるようだ。その際に通勤にかかる費用が、通勤者にとっては負担となった。また、昭和30年代以降の高度経済成長期において、労働力を補う必要性があったことも関係しているようだ。通勤手当を支給することで通勤者の金銭的な負担を軽減し、その分、周りから人を集めようという目的だったのだろう。それが定着して、現在に至っては日本の企業の多くが通勤手当を支給している。
就職活動などの際、通勤手当の支給があるかないかは多くの関心を集める。手当は支給されるものだと思いがちだが、実はこの通勤手当、法律上で支給義務は定められていない。つまり企業は、手当を払っても払わなくても構わないということだ。それでも多くの企業がこの手当を支給しているのは、やはり労働者を集めるには手当の有無が大きく影響するからだろう。
通勤手当は労働者にとって欠かせないもののように思えるが、このブログ記事は、通勤手当によって通勤時間帯の超満員電車など、いわゆる「通勤地獄」とよばれる現象が引き起こされていると指摘する。
その記事によるとこうだ。
交通費の支給は法律上では義務付けられてはいないものの、規制はされている。企業は交通費を経費としてみなすことができるが、従業員1人につき毎月10万円までである。もし従業員の交通費が10万円を超える場合、超過分は課税の対象となる。
厚生労働省の資料によると、調査に対し回答のあった211社のうち、従業員数が300人未満規模の会社77社の中で限度額を10万円と定めている企業は2010年の時点で約49%。次いで多いのが、限度額を5万円と定めている企業で、約31%だ。しかしこれらの数字に表されているのが、調査を依頼したうち回答のあった211社のみということを考慮しなければならないだろう。
経済産業省によると、日本の企業数は大・中小企業合わせて421万社もあるのだ。そしてそのうちの99.7%(約419.8万社)を占めるのが中小企業であり、大企業の割合はわずか0.3%(約1.2万社)なのである。
上記した通勤手当の限度額の平均値は、従業員300人未満の会社77社を基準に出されている。つまり、それ以上の従業員を持つ企業(従業員数300~999人の企業と、1000人以上の企業)の平均値が出ていない。従業員の多い企業と少ない企業では、限度額の平均も変わってくるのではないだろうか。
Yen for Livingの記事でも、実際に10万円も使う人はほとんどいないだろうとしつつも、この通勤手当というシステムが企業の都市部への集中を促しており、その結果遠距離通勤をする人が増え、公共交通機関においての過密状態が起こると書かれている。また、従業員が自分で交通費を払わなければならない国の人々は、勤務地から近い場所を居住地として選ぶだろうとも指摘する。
先進国のほとんどはそうであるが、自分で交通費を払わなければならないとなれば、従業員は自然とできるだけ家から近い勤務地を探すか、あるいは程よい距離で通勤できる場所に家を移すだろう。
しかしこれには反発する人も多く、実際、この記事のコメント欄やFacebookページには非現実的であるというコメントが多く寄せられている。
この著者が日本に住んだことがないのは明らかだね。多くの人にとって通勤手当はだいたい100ドルから200ドルくらいで、オフィスの近くに住んだときの住宅費と比べられるほどのものじゃない。(10月14日、Kozue Shojiより)
なぜもっと会社に近い場所に住まないかって? そりゃ日本の都市はすでに過密状態で、家賃もバカ高いからさ。住む家はもっと狭くなるのに今よりも高い家賃を払わなきゃいけないって状態で、なんでオフィスから近い場所に住むんだ?(10月14日、Perry Constantinより)
また、遠距離通勤者の増加や都市部での交通機関における過密状態は、通勤手当だけに起因するものではないとの意見も多いうえ、日本特有の問題ではないと述べる人もいる。
通勤手当がこの記事に書かれているような問題を引き起こしているっていうのが正しいかどうかわからない。アメリカとかカナダの大都市も平日は混んでいるし、休日なんてそりゃもうひどいよ。それもみんなが中心地以外の場所から働きに来ているからだ。(10月15日、Saku Takakusakiより)
きっとこの著者は中国とか他のアジアの国に行ったことがないんだろうね。通勤手当をもらってない人は何百万といるけど、それでもみんな会社から少なくとも1時間はかかる場所に住んでる。(10月14日、rolentoより)
アメリカ人は通勤手当もらってないけど、ニューヨークでも「通勤地獄」があるよ。(10月14日、Carol Ruth Kimmelより)
あるいは、他に方法があるのかと疑問視する人や、もっと別の働き方が受け入れられるようになるべきだと考える人も多い。
日本円にして平均的な年収で暮らしていて、港区とか丸の内での家賃が払えないから郊外に暮らしている人にとっては、通勤手当は絶対必要。他にどうしたらいいの? 車通勤? 最高。渋滞はもっとひどくなるし、大気汚染もひどくなる。この記事は何が言いたいのかわからない。(10月14日、Shikibu Watanabeより)
この国の労働文化とは相いれないけど、「在宅勤務」の概念をもっと導入するべきだと思うな。(10月14日、Kelvin Huiより)
企業が在宅勤務とか、遠くにいても働けるようなシステムを受け入れたらいいんじゃないかな? なぜいつも従業員が合わせなくちゃいけないんだ?(10月14日、Danny de Meyerより)
こういった反応をみると、働く人々にとって通勤手当が必要不可欠なものであることがわかる。2020年には東京でオリンピックが開催されることもあり、さらなる人口の集中が予想されるが、競技場までの移動時間帯が通勤時間帯と重ならないようにするなどの配慮が少なからず必要かもしれない。