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声明文:表現の自由は妨害されてはならない―ISISの日本人人質事件を受けて

カテゴリー: 日本, メディア/ジャーナリズム, 市民メディア, 戦争・紛争, 言論の自由
kazuhiro soda [1]

想田和弘 [1]。画像は本人提供。

日本における表現の自由を擁護するための声明文が、ジャーナリストらによって2月1日にインターネット上に公表された。現在までに1000人以上の賛同を得ている。
(訳注:インターネット上の公表は2月1日だが、正式発表は記者会見が行われる2月9日を予定)

その声明文とは「翼賛体制構築に抗するという『声明』」 [2]と題され、ニューヨークを拠点に活動する日本人ドキュメンタリー映像作家・想田和弘 [3]により草案されたものである。

声明文の公表と賛同者募集の動きは、1月末に起こった日本人人質事件 [4]のさなかに始まった。過激派武装組織ISISが、拘束していた日本人の湯川遥菜さんと後藤健二さんを殺害すると脅し、日本政府に対し2億ドル(訳注:当時のレートで230億円以上)の身代金を要求したのだ。

その後、湯川さんと後藤さんはISISにより殺害された。 [5]

想田をはじめメディアに登場する人々が危機感を募らせているのは、この事件解決に対する日本政府の姿勢を批判する [6]ようなコメントが、ソーシャルメディアと政府の双方から強く非難されていることである。「自粛」を求める傾向に、想田らは戦時中の日本の雰囲気を思い出す。異議を唱えることが全面的に禁止されていた時代だ。

この危機感のもと、想田は以下の声明文を草案しこのブログに [7]投稿した。彼と同じ意見を持つ読者(その多くはジャーナリスト、作家、映像作家やコメンテーター)に、メールでの署名を求めた。

想田のメールアドレスはこちら:

hanyokusan@gmail.com [8]

声明文(案) [2]

私たちは「ISIL」による卑劣極まりない邦人人質惨殺事件を強く非難し、抗議するものである。また、この憎しみと暴力の連鎖の帰結として起きた事件が、さらなる憎しみや暴力の引き金となることを恐れている。
同時に、事件発生以来、現政権の施策・行動を批判することを自粛する空気が日本社会やマスメディア、国会議員までをも支配しつつあることに、重大な危惧を憶えざるを得ない。
「このような非常時には国民一丸となって政権を支えるべき」
「人命尊重を第一に考えるなら、政権の足を引っ張るような行為はしてはならない」
「いま政権を批判すれば、テロリストを利するだけ」
そのような理屈で、政権批判を非難する声も聞こえる。
だが、こうした理屈には重大な問題が潜んでいる。
まず、実際の日本政府の行動や施策が、必ずしも人質の解放に寄与するものとは限らず、人質の命を危うくすることすらあり得るということだ。であるならば、政府の行動や施策は、主権者や国会議員(立法府)やマスメディアによって常に監視・精査・検証され、批判されるべき事があれば批判されるのは当然の事であろう。
また、「非常時」であることを理由に政権批判を自粛すべきだという理屈を認めてしまうなら、原発事故や大震災などを含めあらゆる「非常時」に政権批判をすることができなくなってしまう。たとえば、日本が他国と交戦状態に入ったときなどにも、「今、政権を批判すれば、敵を利するだけ」「非常時には国民一丸となって政権を支えるべき」という理屈を認めざるを得なくなり、結果的に「翼賛体制」の構築に寄与せざるを得なくなるだろう。
しかし、そうなってしまっては、他国を侵略し日本を焼け野原にした戦時体制とまったく同じではないか? 70数年前もこうして「物言えぬ空気」が作られ、私たちの国は破滅へ向かったのではなかったか?
実際、テレビで政権批判をすると、発言者や局に対してネットなどを通じて「糾弾」の動きが起こり、現場の人々に圧力がかかっている。
問題なのは、政権批判を自粛ないし非難する人々に、自らがすでに「翼賛体制」の一部になりつつあるとの自覚が薄いようにみえることである。彼らは自らの行動を「常識的」で「大人」の対応だと信じているようだが、本当にそうであろうか?私たちは、今こそ想像力を働かせ、歴史を振り返り、過去と未来に照らし合わせて自らの行動を検証し直す必要があるのではないだろうか?
日本国憲法第21条には、次のように記されている。
「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」
日本国憲法第12条には、次のようにも記されている。
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」
私たちは、この日本国憲法の精神を支持し尊重する。そしてこの精神は、「非常時」であるときにこそ、手厚く守られ尊重されなければならないと考えている。
なぜなら「非常時」にこそ、問題の解決のためには、様々な発想や見方、考え方が必要とされるからである。
私たち言論・表現活動に携わる者は、政権批判の「自粛」という悪しき流れに身をゆだねず、この流れを堰き止めようと考える。誰が、どの党が政権を担おうと、自身の良心にのみ従い、批判すべきだと感じ、考えることがあれば、今後も、臆さずに書き、話し、描くことを宣言する。

この声明文は、当記事の執筆者でグローバル・ボイス寄稿者のNevin Thompson [9]により英訳 [10]もされている。

世界中どこからでも、メールでこの声明文に署名することができる。
(宛先: hanyokusan@gmail.com [8]) 

想田をはじめ声明文を手掛けた人々は、署名をする際には実名を使うよう求めている。

これまでに、以下の著名人を含む1000人以上からの署名が寄せられた。

この声明文に関する記者会見が予定されている。
日時:2月9日 17:00~18:00
場所:参議院議員会館 B104号室

さらに詳しい情報はこちら [11]をご覧ください

校正:Yoko Kawakami [12]/Yuko Aoyagi [13]/Maki Kitazawa [14]/Rie Tamaki [15]