東京都渋谷区は、同性のカップルから申請があった場合、「結婚に相当する関係である」と認める証明書を発行するという条例案を、3月の区議会で提出すると決定した。
これまで日本には、同性同士をパートナーとして認める制度は存在しなかった。この条例が可決された場合、全国で初のケースとなる。
名称は「区 男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例案」。証明書は「パートナーシップ証明書」と名付けられ、渋谷区に住む20歳以上の同性カップルから希望があった場合に発行されることになる。
渋谷区がこの動きに乗り出した背景には、同性カップルがアパートの入居や病院での面会を希望した場合、「家族ではない」と断られるケースが多いことが挙げられる。
日本国憲法第24条では、婚姻について「両性の合意のみに基づいて成立」すると定めている。これは戦前の大日本帝国憲法のもと、またそれ以前の時代においては、婚姻には家長の同意が必要と定められており、血統存続のために親が婚姻相手を決めてしまうことが非常に多かった。結婚後に何かの問題が起きても、女性側から婚姻を解消する権利がなかったため、男女平等の観点から、新しい憲法には「両性の合意のみに基づいて」という文言が加えられた。
憲法のこの文言により、今回提出される渋谷区の条例案は「憲法違反」かどうかが論点の一つになる可能性があり、現在でもそれを理由にこの条例案を疑問視する人もいる。
そんな中、渋谷区の動きに続き、世田谷区も同様に同性パートナーシップを保障する具体的な施策を検討することを発表した。同区が後援するLGBT成人式において明らかにされたものだ。
世田谷区長の保坂展人(@hosakanobuto)は、昨年9月の区議会で同性カップルに対する支援策についての議論があったことを明かす。
9月に議会で答弁しています。また、昨春に策定の基本計画でも、多様性を尊重し、セクシャルマイノリティの人たちの人権を守ることも表明しています。 世田谷区も同性カップル認める施策検討 渋谷区に続き – 朝日新聞デジタル http://t.co/IjGee5JhTk
— 保坂展人 (@hosakanobuto) 2015, 2月 15
保坂はLGBT成人式にて毎年祝辞を述べるなど、セクシャルマイノリティの権利を守ることに前向きな姿勢を示しており、参加者からの感謝の声も聞かれる。
@hosakanobuto LGBT成人式に毎年の祝辞、ありがとうございます!区長の2回目の時の祝辞「誰もがマイノリティの部分を持っている。それを隠さず出していける社会が豊かな社会なんだ」という内容、感動しました。区のパートナーシップ承認も期待しています!
— assam/西川麻実 (@2assam) 2015, 2月 16
昨年9月の議論は、自らもトランスジェンダーでありLGBTなど社会的弱者とされる人々のために尽力してきた上川あや区議(@KamikawaAya)の質問に答える形だった。上川は「性同一性障害」であることを公表し2003年に当選。その後2012年に渋谷区議会でLGBTの権利保護に関する質問があったことを知り、昨年9月に自身の所属する世田谷区の区長である保坂に同性カップルを「何らかの形で認めてほしい」と呼びかけた。保坂はこれに対し、前向きな回答をしたという。
昨今では、「東京レインボープライド」なども注目を集めることが増えたが、参加者からは「日本ではセクシャルマイノリティや同性愛を話題にすらしない」という声も聞かれるなど、日本全体におけるLGBTや同性愛に対する関心はまだ低いのが現状である。
そのため、今回の渋谷区と世田谷区の提案はネット上で大きな話題となっており、中にはすでに「同性婚」や「パートナーシップ証明書」が認可されたと思っている人がかなり多い。
ネット上の反応は賛否両論にわかれているが、渋谷区や世田谷区の行動を評価する声が多く上がっている。
渋谷の同性カップルの条例、いいと思うなー!同性愛とか気持ち悪いなんて言う人もいるだろうけど性別の壁を超えて相手を愛するって事は 人間に心があるから出来る事だと思う。悪い事な訳が無い。少なからず狭い思いをしてる人達がいるなら その人達の為に素敵な一歩を。今よりもっともっと幸せに。
— とらむすめ(虎娘) (@toracochi_Gao) 2015, 2月 12
同時に、反対派の意見もはっきりと表れている。
渋谷区の同性カップル証明書どう思う? 素直に気持ち悪いと思う。 「同性愛=生物として欠陥がある」ってことだから、それを公に認めるのは“ヒト”の本懐を失う事と同義。 いっそのことホモとレズだけの村を作ればいい。 数年で滅びるだろうけど。 http://t.co/iIxk7OJbse
— なぞにく (@nazo_niku) 2015, 2月 12
反対ではないにしろ、感覚的に嫌悪感を示すツイートも多い。
証明書条例案提出 同性カップルに話を聞く(日本テレビ系(NNN)) – Yahoo!ニュース http://t.co/Wa5k4XhUMl 認めることは否定しないけど、ごく普通の感覚では気味悪いよね。
— echo240 (@echo_cigar240) 2015, 2月 12
賛成・反対の意思表示は自由だが、正当な理由のない感覚的な反対意見に対しては批判が上がっている。
渋谷区の同性カップル証明書に反対の人を真っ向から否定するつもりは全くないけど、否定するならそれなりの理由を挙げてほしいね。「気持ち悪い」とか「変だから」とかゆう理由だけで批判してるならそれは人の尊厳とか色々なものを否定してるのと同じ。
— M:Revo (@S_Milky626) 2015, 2月 13
中には、今回の条例案が可決されれば、現在でも深刻な問題になっている少子化を助長することになるという意見も見られる。
しかし少子化は(異性婚のみ認められている)現在までで問題になってきたことであり、同性愛と何の関係もないことを冷静に指摘する声も多い。
渋谷区の同性カップルの件で「少子化が進む」って言ってる人って「同性愛者の権利が認められると、女性が子供を産まなくなる」っていう意味になるんだけど、自分でわかっていってるのかな?上の句と下の句が空中分解しているのに。
— 篠原正美/すずはら篠 (@suzan2nd) 2015, 2月 13
異性愛の人がすべて子どもを持つとも限らないのに、そもそも少子化とは別問題なのに、なぜここでそれを持ち出すのか分からん。同性カップルを否定・否認すれば少子化解消しますか?
— ぱくぽた@北海道はでっかいどう (@packypotasky) 2015, 2月 13
以下のツイートからは、多くの人々が世代による価値観の違いを体感したことや、家族など自分と近い人々の偏見に満ちた考えに触れたことにより、ショックを受けていることがわかる。
母は同性カップルがtvに出たときすぐ気持ち悪いって言う。 前もそれですごく不快になったんだけど、小学生の弟がすかさず 「世の中お互い好き同士が全員男女だと思ってんの?そういう理由のない考えやめた方がいい。」 って言ったとき、こいつすげえなって思った。
— こどもbot (@kodomo_meigen) 2015, 2月 13
渋谷区の同性カップルについてのニュース見てお母さんとお姉ちゃんが「えー無理きもちわるいテレビ出て恥ずかしくないのかな」とか言っててわたしはそういうあんたらが気持ち悪いし恥ずかしいよ
— こぶ@マキュファー19日昼 (@kb4_tom) 2015, 2月 12
このように同性愛をめぐって家庭内の価値観の違いにぶつかる例は、今回の条例案が話題になる前からあったようだ。以下の2人のユーザーは昨年の時点で、同じような状況に直面したことを訴えていた。
さっきTVに同性カップル(男)が出てた。それを観た家族が「気持ち悪い」と。あぁ、終わってるなぁと思った。偏見。身内にいたなんて。何ていうか、情けない。申し訳ない気になった
— すけきよ@徐行運転中 (@56suke_02) 2014, 3月 30
TVで海外のゲイカップルの話があって、しきりに女役やるなんて考えられへん、気持ち悪いかも、と言う両親。 様々な人がいて良いと思いますが、私がレスビアンだったとしてもそんなこと言えるのかなーと考えました。つまり、それが本心と言うわけですし。 同性カップルの方々に幸あれ。
— ししょー(SHISHO (@tou_free) 2014, 3月 26
近い人々が持つ偏見を知り、それらを見聞きしたことが原因でさらに肩身の狭い思いをする人々が増えることを危惧するユーザーもいる。
ベルギーの同性カップルの番組も、日本だとそれを見た親が「気持ち悪い」とか平然と言って当事者の子供が何も言えずに傷つく場面が多発してそう。もしくは友達がその番組を見て嗤うのを見聞きするとか。で、カミングアウト出来なくなると。ベルギーより街中で同性カップルを見る機会が少ないのも道理
— klka (@klka1) 2014, 3月 25
あるユーザーは鴨を例に挙げ、外見に大きな違いがなければ性別は問題にならないかもしれないと、より広い視野を持った考え方を提案する。
カモのダブルデート!? オス&メスの異性カップルかもしれないし、オス同士、メス同士の同性カップルかもしれない。 「異性カップルしかない」 と考えるより、 「同性カップルの可能性もある」 と考えた方が楽しいと思う。 pic.twitter.com/wDa3D1eJQO
— 虹色ももんが@なるもも (@nijimomo_FS76) 2015, 2月 8
今回の条例案に対するツイートを見てみると、何か特別な理由からというよりも「気持ち悪い」という感覚的な意見が多いことがわかる。
そんな現在の世間の反応に失望しつつも、今後渋谷区や世田谷区のような事例が広がることにより、日本全体の受け入れ方も変化することを願う声も上がる。
渋谷区 同性カップルの結婚相当証明書の件で、タイムラインに「嫌い、気持ち悪い」って流れてきて、まだまだなんだなと残念な気持ちもあるけど、これを機に、今後もっと受け入れられるようになっていくことを願っています。
— キハラ大輔 (@studio_lop_ear) 2015, 2月 12