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欧州:テロ対策か、市民の自由か

Frontera entre Alemania y Holanda

ドイツとオランダの国境。シェンゲン圏(訳注:シェンゲン協定適用のヨーロッパ26カ国のこと。国境検査なしで往来できる)内にあり、現在は国境検査は行われていない。写真:ウィキメディア・コモンズより、CC BY SA 3.0にて転載

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1月11日の日曜日、ヨーロッパ中で何百万もの人々がデモ行進に参加した。表現の自由の抑圧を狙った行為と、仏紙「シャルリー・エブド」への襲撃に対し、激しい抗議を示すのが目的である。またその同じ日に、EU参加国の内務大臣が集まり、ヨーロッパにおけるテロ対策の共通方針について議論が交わされた。

これら政治家のせいで自由の擁護は風前の灯火だ、と感じる人は多い。なぜなら、テロ対策として議論に上っているのは、シェンゲン圏内での移動の自由の制限から、特定の人たちの通信および旅行データの収集にまでわたっているからだ。また、インターネットとソーシャルネットワークの徹底した監視についても検討されている。

物議を醸した言論統制法を起草したスペインのホルヘ・フェルナンデス・ディアス内相は、必要とあらばシェンゲン協定を修正し、シェンゲン圏での国境検査を再開 するよう主張している。また、「テロリストによるプロパガンダと勧誘活動に対抗」するために、インターネットの監視も強化するよう訴えている。フェルナンデス内相によると、これらの対策は次の理由で正当だという。

Nuestro sistema de valores y libertades está amenazado. No podemos permitir que los que amenazan la libertad se aprovechen de ella para atentar contra nosotros.

我々の価値観と自由のシステムが脅かされているのだ。自由を脅かす者たちは、我々を攻撃するために自由を悪用しようとしているが、それを許してはならない。

ガーディアン紙はさらに踏み込み、EU内の大臣らはソーシャルネットワーク企業の協力を得ようとしていると報じた

EU ministers prepare to press the social media industry – providers such as Google, Facebook, and Twitter – to cooperate in preventing jihadists and terrorists using the internet as recruiting sergeants and propaganda instruments inciting hatred and violence.

EUの大臣たちは、ソーシャルメディア業界、つまりGoogleやFacebook、Twitterといった企業に圧力を加えて協力させようとしている。その目的は、ジハーディスト(訳注:イスラム教の聖戦を実行する人たちのこと)やテロリストが、勧誘の手段、もしくは憎悪や暴力を煽動するプロパガンダ発信の道具としてインターネットを利用するのを妨げることだ。

イギリスのデイビッド・キャメロン首相は、「テロリストの疑いがある人物については、その人物の暗号化された通信を傍受する法的権限を諜報機関に与えるべきだ」と訴えた。この発言に対し、英国法廷弁護士評議会の議長からは以下のような反応があった。

That surveillance can save lives seems undeniable. However, it is one of the objectives of extremists who are willing to commit barbaric crimes in support of purportedly religious or political ends, that the hard-won liberties of the civil population should be curtailed and that a wedge should be driven between those in society with different views about the degree to which personal freedoms should be sacrificed on the altar of public safety.

このような監視が人々の命を救うということは疑いの余地がないように思える。しかしながら、これは過激派の目的のひとつなのだ。彼らは、宗教的あるいは政治的と言われる目的の達成のためには野蛮な犯罪をためらわない。困難の末勝ち得た一般市民の自由を奪うこと、また、治安の前に個人の自由はどこまで制限されるべきかで意見が違う人々の間にくさびを打ち込んで社会を分断することが、彼らの狙いなのだ。

キャメロン英首相の提言は、人権という観点から問題があるだけでなく、技術的にも非常に難しい可能性がある。ブログBoingBoingの中で、エディターCory Doctorowは以下のように説明する。

For David Cameron's proposal to work, he will need to stop Britons from installing software that comes from software creators who are out of his jurisdiction. […] The regime he proposes is already in place in countries like Syria, Russia, and Iran (for the record, none of these countries have had much luck with it). There are two means by which authoritarian governments have attempted to restrict the use of secure technology: by network filtering and by technology mandates.

キャメロン首相の提言がうまく機能するためには、英国の司法権外で開発されたソフトをイギリス人がインストールすることを止めないといけない。[…]彼が提案した統治体制は、シリアやロシア、イランといった国で既に実施されている(しかしはっきり言って、これがうまくいった国はない)。セキュリティ技術の使用制限を目的に、強権的政府が使ったことがある手法は二通りだ。一つはネットワークのフィルタリング。もう一つは、技術規制だ。

ドイツ政府は、ジハーディストの疑いがある人物から公的身分証明書を3年間剥奪(はくだつ)することを許す法律の準備を進めている。その人物の海外テロ集団への参加を防ぐためだ。一方、ベルギー政府はヨーロッパにおける外国人戦闘員登録リストを作ることを提言した。しかし実現は難しい。なぜならまずEU加盟国ごとに外国人戦闘員とは何かの定義が違う。また、捜査方法や証拠押収の方法も異なるからだ。

欧州理事会のドナルド・トゥスク議長は、旅客予約記録(PNR)を開示するよう欧州議会に訴えた。この記録には、旅行者の氏名、支払い方法、行程表、連絡先など、旅客の個人情報が含まれる。これには、多くの欧州議会議員が疑念を抱いただけでなく、欧州司法裁判所からも、ヨーロッパの個人情報保護法との整合性という点から疑問の声が上がっている。

さらに踏み込んだ政治家もいる。フランス極右勢力のリーダー、マリーヌ・ル・ペンは、フランスでの死刑再開についてTwitterで問題提起した。

死刑制度の是非を問う国民投票を行いたいと思っています。個人的には、死刑という選択肢はあってしかるべきだと思います。

これらの対策いずれに対しても、ヨーロッパ社会のさまざまな方面から警戒の声が聞かれた。「頭がカッカした状態で」決定を下すのは危険だという警告の声や、他のケースで同様な手法は良い結果を生むどころか、むしろ当局が市民権を無視するための大義名分としてしばしば使われていたことを忘れるなという声がある。「君の自由を少し差し出したまえ。そうすればより安全を保障しよう」という記事の中で、筆者のイサーク・ロサはこう言っている。

Líderes europeos en la manifestación del 11-1-2015 en París, entre ellos Holande, Merkel, Juncker y Cameron.

2015年1月11日、パリでのデモ行進に参加するヨーロッパの政治家たち。オランド仏大統領、メルケル独首相、ユンケル欧州委員会委員長、キャメロン英首相の姿が見える。写真:cuartopoder CC BY NC 3.0

…esa moto ya te la han vendido otras veces, y acabó siendo un timo. (…) ¿No llevamos tres lustros aceptando recortes en libertades y, por el mismo precio, guerras, invasiones, torturas, cárceles secretas? ¿Acaso el mundo es hoy un lugar más seguro?”.

… 同じ自転車を何回も売りつけられた末に、やっとこれは詐欺だったと気付いた。(…) 15年間、我々は自由の削減を受け入れてこなかっただろうか? その対価が、戦争や侵略、拷問や秘密刑務所だったというのに。果たして今日、世界はより安全な場所になったと言えるのだろうか?

「君たちはシャルリーじゃない」という記事の中で、ジャーナリストのハビエル・ガジェゴは、日曜パリの行進に参加した政治家たちは偽善者で、身を包んだ「『自由』と書かれた横断幕を今後1年間、自分たちの汚れた手を拭うのに使うつもり」だと厳しく非難した。

Me temo que de la matanza de Charlie no saldremos con más libertad sino con menos. Ya estamos viendo cómo los ministros de Interior europeos quieren defender la libertad limitando las libertades. Es justo lo que no hay que hacer. No se puede dar un paso atrás ni ante las pistolas ni ante los chantajes. Eso sería darle la razón a los asesinos. Por eso es tan necesaria la sátira salvaje de Charlie Hebdo. La sátira no hace prisioneros ni tiene aliados. Eso y no otra cosa es la verdadera libertad de expresión.

「シャルリー・エブド」襲撃事件の後で、市民の自由が拡大するようになるとは思えない。逆に制限されるのではないだろうか。既に、ヨーロッパの内務大臣たちが、自由を制限することで自由を守ろうとしている現象が起こっている。だが、それはまさにやってはいけないことだ。暴力や脅迫の前に、後退してはならない。それでは、人殺したちに人殺しをする動機を与えかねない。だからこそ、「シャルリー・エブド」の大胆な風刺がとても必要なのだ。風刺とは、情け容赦がなく、誰にもおもねらないものだ。まさにそれこそが、そしてそれだけが、真の表現の自由なのだ。

校正:Yuko Aoyagi