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雪を頂く山々、清冽(せいれつ)な渓流、なのにネパールの首都には飲み水がない!

カテゴリー: 南アジア, ネパール, 市民メディア, 教育, 環境, 行政

元の記事は第7回世界水フォーラムにあわせて 2015年4月12日に掲載された。

People lining up for water an hour before it is supposed to be flowing, in Kathmandu, Nepal on July 10 2014. Image by Flickr user @Ingmar Zahorsky (CC BY-NC-ND 2.0) [1]

給水開始1時間前から人々が、水を求めて行列を作る。2014年7月10日、ネパールの首都カトマンズにて 写真:Flickr user @Ingmar Zahorsky (CC BY-NC-ND 2.0)

 

ネパールは、一人当たりの利用可能水量は世界でもトップクラス [2]の位置を占め、また、全世界の総淡水量の約2.7%を保持しながら、慢性的な水不足 [3]に悩まされている。

10年に及ぶ政治的混乱、利水計画の決定的な失敗、および周辺農村から首都カトマンズへの大規模な人口流入の結果、ネパールの社会的、経済的に不利な立場の人々にとって、安全な水の入手はますます困難になってきている。

ネパール中央統計局 [4]データでは、カトマンズでは5世帯に1世帯が水道や井戸などが自分の家に無く、全体の 2/3 が清潔とも安全とも言い難い水で生活している。

多くの市民はこういった状況に順応してきた。カトマンズの小売商ピンキー・グプタは「ドライ・ステート」という記事の中で次のように語っている [5]

The situation in the capital is such that it has almost become a necessity for people to educate themselves on ways to conserve water.

カトマンズは水不足が深刻なので、市民は節水方法を自分で工夫しなければなりません。

グプタの置かれた状況は、カトマンズの低所得者層の誰にも共通のものであり、彼らは、水を買うだけの経済的ゆとりがないのである。

上記の記事で紹介されているもう一人のカトマンズ市民マンガル・ラジは、普段どのようにして水の節約をしているかを語っている [6]

It’s been almost five years since we last got water in our original line. We got another line installed but even that isn’t much help. We get water about once every three days. That isn’t enough for our large family. One method that we have adopted is reusing water. For instance, we don’t use fresh water in the bathroom. It’s usually the leftovers from all the washing that we take down to our toilets. It’s an easy and viable method. If we had a garden, we might have used it there as well.

最初に引いた水道は5年前から水が出ません。それで別の水道を引いたのですが水量は十分ではありません。水が出るのは3日に1回だけで、わが家のような大家族ではとても足りません。私たちは水を再利用するように心がけています。例えばトイレでは新しい水は使いません。洗濯の残り水をトイレに持って行くようにしています。これは簡単でとても有用な方法です。もし庭があったら水やりにも使います。

「水にまつわる悩み」という短編ドキュメンタリーの中で多くの人が、水不足改善に関する政府の力量に対して懐疑的な見方をしている。下の動画でこのドキュメンタリーを見ることができる。

ネパール政府は中国国境に隣接する地域を流れるメラムチ川から1日に1億7000万リットルの水をカトマンズに導水する計画を進めている。メラムチ上水 [7]と呼ばれるこのプロジェクトは開始から20年が経過しているが未だに完成していない。このような状況では市民があきらめに近い気持ちをいだくのはもっともである。

メラムチ上水の進捗は当初の計画より15年遅れているが、さらに遅れそうだ。

しかし、財務省職員のマドゥー・マリシニは、ツイッターを通じて明るい見通しを示している。

メラムチ上水については、アジア開発銀行から9千万ドルの融資を受けることで交渉が成立した。これは、メラムチ上水を、ただの給水管敷設の夢物語のままで終わらせまいとするものである。

もしこの計画が実現しても、カトマンズの水需要を満たすにはまだ十分ではない。政府の計画ではカトマンズに一日当たり1億3千万リットルの水 [13]を供給することになっている。ということは、カトマンズの一日当たりの水需要量は、おおよそ4億リットルだから、メラムチ上水が計画通り遂行されたとしても相変わらず1億リットルの水が不足するということである。

革新への動き

水不足を解消するためにタンク車で水を運んだり、地下水をくみ上げるビジネスがさかんに行われているが、これらの水を使って大丈夫なのか関心が高まっている。ネパール人化学者Kosh P. Neupaneは、このような水の中には目には見えない有害金属イオンが存在する可能性があると危惧している [14]。これら有害金属イオンは癌やその他の致命的疾病を発病させる可能性があるからだ。

市民に安全で清潔な水を届けるための挑戦はまだ続いている最中だが、明るい話題もある。

2月 [15]に、ネパールの草の根団体「環境と公衆衛生協会(ENPHO)」は、第4回京都世界水大賞を受賞した。飲料水に関する基盤整備や性別に配慮したトイレなど、革新的な手法により水問題解消に向け積極的に取り組んできたことが受賞理由とされている。

ネパールのNGO(ENPHO)が、2万ドルの京都世界水大賞を獲得する。

雨水貯留といった、首都以外の地域社会を活性化する簡易技術の普及のために ENPHOが行っている取り組みは、ネパールの水事情を改善させるだけでなく、同じような状況に直面している多くの国々の水事情も改善させるだろう。

世界に向けた警鐘

国連気候変動に関する政府間パネル [20]の前議長Rajendra Pachauri [21]氏によると、世界は、気候変動により、ひたすら深刻さを増すであろう水飢饉に直面している。そのため、最悪の場合は地域間あるいは国家間に紛争 [22]が生じかねないような厳しい将来が予見される。現状では、 20億人以上 [23]の人が干ばつの影響を受けている。この数値は戦争や飢饉などの目に見える他のいかなる危害による数値より大きい。

こういった問題に対処するため、韓国で4月12日から17日まで第7回世界水フォーラム [24]が開催される。 この会議では安全性が確保されていない水が原因で亡くなる人がいる現状など、世界を脅かしている水問題を討議するため160か国以上の国が参加することとなっている。

ユニセフ事務局次長は、下記のように述べている。

毎日1000人もの5歳以下の子供が貧弱な衛生設備、知識の不足、汚染された [25]が原因で死んでいる。これは本来ならば防ぐことのできた死である。

ウオーターエイドは、水の安全についてその重要性を訴える団体であり、人類発展のために衛生習慣や衛生設備の改善に努めてきた。Pragya Lamsalはこの団体のカトマンズ在住情報伝達担当職員である。彼女は、ユニセフ事務局次長のツイートに次のように応えている。

ネパール [27]における新生児の死亡事例のうち5人に1人は、安全な水と衛生設備および清潔な手があれば救うことができたはずである。

多くの人が、飲み水の無いことをひと時も考えずに過ごすことができるのは幸運なことであるが、一方、一滴のきれいな水を求めて毎日懸命な努力を強いられている多くの人がいることを思うと、謙虚にならざるを得ない。下のビデオ [32]は、ネパールのある村の人々が、新鮮な水のほとばしる水道の完成を祝って、歌い踊る様子を映し出している。

今週行われる第7回世界水フォーラムに加えて、今年12月にパリで行われる 第21回気候変動枠組条約締約国会議 [33]でも同様に、水問題は、活動団体や各国政府にとって主要なテーマであり続けるようである。

校正:Mitsuo Sugano [34]