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命がけで地中海を渡りヨーロッパとの国境にたどり着こうと押し寄せる人々の波について、ヨーロッパは対応策を模索している。そんな中、ハンガリー政府はこの数週間、極めて憎悪感情の強い反移民の主張を唱えて異質な存在となっている。
2015年5月初頭、オルバーン・ヴィクトル首相の主導の下、ハンガリー政府は移民に対する意見を調査するため、12項目から成るアンケートを800万を超える世帯へと郵送した。政府のウェブサイトによれば、このアンケートの目的は、政策を変更する際にどの程度国民の支持が得られるか事前に調査することだという。しかし、じっくりと検証するまでもなく、このアンケートの主な質問の裏には、偏見と外国人嫌悪が透けて見える。
アンケートが届くと、多くのハンガリー人がソーシャルメディアにコメントを寄せ、アンケートの質問はテロの問題と移民の問題を強固に結びつけることで恐怖をあおっている、と述べた。実のところ、1番目の質問は、ISIS(過激派組織「イスラム国」)や死傷者が出たパリのシャルリー・エブド襲撃事件に関するもので、移住や移民についてはまったく触れていない。
Sokféle véleményt lehet hallani az erősödő terrorcselekményekkel kapcsolatban. Ön mennyire tartja fontosnak a terrorizmus térnyerését (a franciaországi vérengzés, az ISIS riasztó cselekményei) a saját élete szempontjából?
【質問 1】ますます悪化しているテロリズムについては、さまざまな意見があります。フランスでの流血事件やISISの恐ろしい行為など、テロの拡大について、ご自身の生活とどのくらい関係があると思いますか?
EUも批判の対象となった。アンケートは、EU移民政策の「失態」を非難し、ハンガリー政府が独自に、より厳格なルールを導入することを提案している。
2) Ön szerint az elkövetkező években lehet-e terrorcselekmény célpontja Magyarország?
3) Vannak, akik szerint a Brüsszel által rosszul kezelt bevándorlás összefüggésben van a terrorizmus térnyerésével. Ön egyetért ezekkel a véleményekkel?
[…]
7) Támogatná-e Ön a magyar kormányt, hogy Brüsszel megengedő politikájával szemben szigorúbb bevándorlási szabályozást vezessen be?
【質問 2】今後数年で、ハンガリーがテロの攻撃目標となる可能性があると思いますか?
【質問 3】EUによる移民問題対応の失敗が、テロの増大を招いたという意見があります。この意見に賛成ですか?
[中略]
【質問 7】EUの手ぬるい方針とは反対に、ハンガリー政府がより厳しい移民規制を導入することに賛成ですか?
正規移民と不正規移民の境界を曖昧にし、移民はハンガリー人から経済的な機会を奪う脅威であるという先入観を植え付けようとする質問もある。
4) Tudta-e Ön, hogy a megélhetési bevándorlók törvénytelenül lépik át a magyar határt és az elmúlt időszakban húszszorosára nőt a bevándorlók száma Magyarországon?
5) Sokféle véleményt hallani a bevándorlás kérdésével kapcsolatban. Vannak, akik szerint a megélhetési bevándorlók veszélyeztetik a magyar emberek munkahelyeit és megélhetését! Ön egyetért ezekkel a véleményekkel?
【質問 4】経済移民(訳注:生活水準の向上を求め他国へ移住する人のこと)が、ハンガリーに不法入国していることを知っていましたか? また、最近ハンガリー国内の移民数が20倍に増えたことを知っていましたか?
【質問 5】移民問題については、さまざまな意見があります。経済移民が、ハンガリー人の雇用と生活を脅かしているという意見もあります。この意見に賛成ですか?
「最近、ハンガリー国内の移民数が20倍に増えた」という単純な文章でさえ、「最近」とは実際いつのことなのか? この質問が指す「移民」とはどのタイプの移民のことなのか? 「20倍」とは何と比較しての20倍なのか? という疑問が浮かばずにはいられない。亡命希望者の数は、2013年の1万9000人から2014年の4万2000人へと、実際増加はしている。しかし国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、亡命が許可されたり亡命申請が審査中の人の数はわずか4000人ほどだという。
国庫から9億6千万フォリント(約4億3千万円)支出して作られたこのアンケートは、上記で見たようにさまざまな方法で回答者を巧みに誘導している。もっとも露骨なのは回答の選択肢についてで、本来他にも選択肢はあるべきなのに、回答者にそれ以外の選択肢はないように見せかけている。質問内容によって多少のバリエーションはあるものの、回答の選択肢は「全面的に賛成」「どちらかと言ったら賛成」「反対」の3つしかなく、その内の2つは政府に有利な回答となっている。「どちらかと言ったら反対」という回答は、あやしいことに選択肢から抜け落ちている。
政府は、このアンケート結果を公表する予定はないようだ。
「外国人排斥にNo!」
事情に詳しい筋によると、強硬な右翼路線の発言が増えた背景には、オルバン首相と与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」の政治基盤が弱体化していることがあるという。2015年2月、ヴェスプレーム選挙区において、「フィデス=キリスト教民主人民党」連立の議員が欧州委員会の役職に就くことになり、その穴を埋めるための補欠選挙が行われた。選挙では無所属候補が勝利し、その結果「フィデス・ハンガリー市民連盟」は、議会の3分の2というそれまでの圧倒的多数を失うことになった。
オルバン首相は、増加する経済移民がハンガリーに与えたとされる悪影響を強調したが、そのうえ今度は先月ハンガリー南西部の町カポシュヴァールで発生した殺人事件を受けて「死刑再開の検討」も提言した。死刑は、EUでは禁止されている。
移民に対するハンガリー政府の攻撃的な発言。それに加えての今回のアンケートで、ハンガリーの市民や社会の間には反発の気運が広がった。
Rally in Budapest against Orbán's controversial questionnaire on “immigration and terrorism”: “No to xenophobia!” pic.twitter.com/48IPTB7UxK
— Peter Murphy (@MurphyPeterN) May 19, 2015
オルバン首相が主導し、物議を醸した「移民とテロリズム」に関するアンケートに反対して、ブタペストで行われた抗議活動の様子。「外国人排斥にNoを!」
5月19日、ブタペストを拠点に移民難民の権利を擁護するNGO「MigSzol」がデモを組織した。そこで参加者たちは、このアンケートの用紙で紙の舟を折りドナウ川に浮かべるように言われた。参加者の数は1000人を越え、MigSzolのFacebookページによると、同団体のウェブサイトへのアクセスは急上昇したという。
ハンガリー・ヘルシンキ委員会(訳注:人権擁護NGOのひとつ)は、アンケート内に見られる偏見に注目を集めようと、Tumblr(タンブラー)でブログを始めた。このブログでは、ハンガリー国内およびヨーロッパにおける移民の現状についての真実を伝えると共に、アンケートをボイコットする方法や、アンケートに見られる外国人嫌悪に抗議する方法を、一般市民に教えている。またこのブログの中でハンガリーの市民は、海外移住や迫害、亡命といった、それぞれの家族がくぐり抜けた過去の経験を共有することもできる。
tiltakozz a bevándorlásról szóló látszatkonzultáció ellen! #bevandorlóvagyok http://t.co/CQJURlGgih pic.twitter.com/CzlWhQJQbI — Nagashi (@dieNagashi) May 14, 2015
見せかけだけの、移民に関するアンケートに抗議を! #bevandorlovagyok(私は移民だ)
上記画像の説明:私はラヨシュ(ラヨシュ・コシュート。ハンガリーの革命家)、亡命者だ。もし母国ハンガリーに送還されれば絞首刑だろう。「全国民アンケート」? そんなもの、未回答のまま送り返せ。
今拡散中のハッシュタグ #bevandorlovagyok(私は移民だ)も含め、これらの取り組みの狙いは、ハンガリー人がさまざまなバックグラウンドを持った人々の集まりだということを人々に思い起こさせることだ。世界全体にも言えるが、中欧や東欧も、民族的多様性に満ち、歴史的に人口移動を繰り返してきた地域だ。しかし疎外や敵意といったものが政治的意図であおられると、人々はその事実から目をそらすようになってしまう。MigSzolが行ったアンケートへの抗議活動そのままに、私たち人間は、小さな折り紙の舟のようなものだ。世界的混迷という大河の川面に漂いながら、常により安全な港を目指す。
Adelman, Lux, Bene, Kiss szudétavidéki német, felvédéki szász, olasz, kun, zsidó, horvát… #polimultikulti #bevándorlóvagyok — Arató Gergely (@tanbacsi) May 22, 2015
Adelman(ユダヤ人の姓)、Lux(ドイツ人の姓)、Bene、Kiss(典型的なハンガリー人の姓)といった苗字。ズデーデン・ドイツ人、上ハンガリー(現スロヴァキア)のザクセン人(ドイツ人)、イタリア人、クマン人(テュルク系の遊牧民だったがハンガリーに定住し、ハンガリー人に同化した民族。現在ではハンガリー人の一派)、ユダヤ人、クロアチア人…… #polimultikulti(非常に多文化な社会) #bevándorlóvagyok(私は移民だ)
[これは Arató Gergely(アラトー・ゲルゲイ)が恐らく自分の血に入っている先祖を挙げたものだと思われる。]