アラブ世界の著作権

"Hardcover book gutter and pages" by Horia Varlan CC-BY 2.0

「ハードカバーの本の溝とページ」 撮影:ホリナ・バラン  CC-BY 2.0

 

世界知的財産の日は世界知的財産協会が制定した記念日であり、毎年4月26日に「革新と創造性を祈念する」行事が行われる。著作権法などの知的財産法では、作品を作って生計を立てている作成者の権利と、そうした文化作品を社会の構成員が公正に利用する権利との間のバランスが保たれる範囲で、権利が認められている。このバランスを成立させる方法の一つは、永続的ではない、一定の期間効力を持つ著作権を存続し続けることである。

著作権保護期間が満了すると、作品はパブリックドメインになる。パブリックドメインの作品は、誰の許可を求める必要もなく、すべての人が無料で複製、共有、翻訳することができる。私たちが文科系あるいは科学系の作品を新たに生み出すときは、パブリックドメインの作品を土台にする部分が多いため、自由に利用できることがとても重要である。

いつどのような形で著作権が切れるか把握することは難しい問題だ。というのは、国によって期間が異なり、該当する作品によっても変わってくるからだ。例えばアラブ世界の書籍やその他文芸作品の著作権は、著作者がその作品を創作した時点から死後25年経過するまで保護される場合もあれば、死後50年あるいは70年までの場合もある。

Books

書籍の著作権保護の期間

アラブ諸国の大半が、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)とベルヌ条約で国際的な義務とされたとおり、著者の生存中および死後50年間書籍の著作権を保護している。バーレーン、モロッコ、およびオマーンは、アメリカとの自由貿易協定に調印しているため、ほかの国よりも著作権の保護期間が長い。現在交渉中で不評を買っている、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)で決められた期間とほぼ同じである。

著作権期間は作品の種類によってより複雑になりうる。 例えば、アラブ諸国の大半で、写真の著作権保護期間は書籍と同等とされている。それにも関わらず、一部の国では、写真が撮影された時点あるいは公開された時点から算出されるため、書籍よりも短い期間しか保護されない。

Photographs

写真の著作権保護の期間

上のグラフを見れば、著作権期間を算出するのが難しいことがわかる。例えば「アフガニスタンの少女」というスティーブン・マックリーによって1984年に撮影され、1985年にナショナルジオグラフィックに掲載された作品である。この写真はリビアでは1991年、サウジアラビアでは2010年、イエメンでは2011年にパブリックドメインになったが、スティーブ・マックリーが存命であるため、保護期間が著者の寿命によって決まる国では保護され続けている。

保護期間を短くしている国々は、最長期間保護している国々に合わせるために、国民全員の暮らしをもっと楽にし、保護期間を延長すべきではないだろうか。多くの場合、著作権保護期間を長くすべきと考える人の言い分は、作者は作品を生み出すために時間と労力を費やしたのだから、当然受け取るべき利益が得られる形で、作品の著作権を保護してもらってもいいのではないかということだ。そしてこれがきかっけで、著作者がさらに創作に向かうことになるだろうと言っているのだ。

著作権期間延長に対する反対意見としては、もし当該作品についての著作権付与が死後50年からでなく70年になったとしても、著者が新しい作品を生み出すきっかけとなる確証はない。逆にバーレーンやモロッコ、オマーンといった国々の利用者は明らかに保護期間が長いことで不利益を被っている。というのは、大学や学生その他の利用者が合法的に複製や翻訳を行ったり、古い作品を使用したりできるようになるまでには、他のアラブ諸国よりも20年長く待たねばならないためだ。この20年という違いによって、教育業界やエンターメント業界のように著作権に依存する業界では、近隣諸国以上に経費がかさむことにもなりやすい。

著作者の存命中および死後50年だけしか著作権が保護されない国々だからといって、業界が順調にいくというわけではない。この50年という期間でも長すぎるからだ。私たちの生きている間に他者が生み出した作品は、実質的には、私たちの死後初めてパブリックドメインになるということだろう。アラブ世界における著作権では、特定の状況下で著作者の許可なしに複製・利用できるような例外が定められている。しかしどのアラブ諸国も「公正な利用」に該当する例外を有しておらず、現行の例外は限られたものでインターネット上の創作物の使用者の需要を満たしていない。

アラブ諸国は、知識や文化に触れられる社会になればどうなるか検討しないうちは、著作権保護期間を延長すべきではない。保護期間を延長したからといって、著作者の創作意欲が大いに高まるとは限らないし、著作権制度が確実に改善されるわけでもない。

この記事はリヤード・アル・バルーシーサディーク・ハスナによって執筆された。図はアラブ世界の著作権の期間にのっとってインフォグラフィックから借用したものである。(訳注:8月14日現在、リンク先は閲覧できない状態になっている)

校正:Maki Ikawa

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