(リンク先には英語のページも含まれます)
グローバル・ボイス(GV)に嬉しい知らせが届いた。GVライターのマルセル・シャホワロが、2015年オンライン・ジャーナリズム賞(OJA)のオンライン・コメンタリー部門でファイナリストに選ばれたのだ。選考対象となった記事は、特集「シリア通信:マルセル・シャホワロ、アレッポに生きる」の一部、「シリア:誰もが殺人者となりし祖国」である。
OJAは、世界中のデジタル・ジャーナリズムにおける優れた活動に対して贈られる賞で、創設は2000年、オンラインニュース協会が運営している。同協会のファイナリスト発表ページから、以下に一部を引用する。また、同ページではファイナリストについて「革新に挑み、オンライン上での発言と発信に優れた人々」と評している。
A group of 134 industry-leading journalists and new media professionals teamed up to screen 994 entries and select semi-finalists. Fifteen judges representing a diverse cross-section of the industry then conferred to determine finalists and winners.
業界トップのジャーナリスト134人からなるグループとニューメディアの専門家が協力して、994人の候補者を審査し、セミファイナリストを選出しました。さらに、業界の様々な分野を代表する15人の審査員が協議し、ファイナリストと受賞者を決定しました。
シリア:誰もが殺人者となりし祖国
マルセルの母親は、検問所でシリア政府軍に殺された。その検問所が爆弾で破壊されたと知り、マルセルは「わたしの生は、他者の死の上に成り立っている。(中略)こうして、シリアに政変が迫ろうと、結局は殺人政権が勝利してしまうのだろう」と、ノミネートされた記事の中で書いている。
マルセルはグローバル・ボイスのコミュニティから強力なサポートを受けて、アレッポ特集の記事を12本書き、2014年に公開した。マルセルの書いた記事は、GV統括ディレクターのジョージア・ポップルウェルと中東 ・北アフリカ諸国(MENA)のGV編集者アミーラ・アル・フサイニーが編集し、原文のアラビア語から英語への翻訳はアミーラ・アル・フサイニーとララ・アル・マラケフが担当した。さらに、続いてスペイン語、ヘブライ語、フランス語、中国語、韓国語、ドイツ語への翻訳に多くのリンガ・コミュニティのメンバーが協力した。
GV総ディレクターのイヴァン・シーガルは、オンラインニュース協会への推薦文で、マルセルの記事がいかに重要で適切であるかを語っている。
Marcell is part of a community of writers and digital activists who participated in the original nonviolent reform movement in Syria. They are digitally networked journalists and activists closely tied to reform movements in other parts of the Middle East, and their habits of communication and communities are based in the culture of the Internet. As such, Marcell’s work is emblematic of the idea of online journalism – allowing us to hear voices and stories of people who had previously been subjects in the stories of outsiders. Marcell's voice is that of an insider reflecting her experience of the war in Aleppo for a global audience. Against odds she and her peers continue to insist on the need for human dignity, and on the power of stories about individual lives in the face of extreme violence and geopolitical manipulation.
The framing of Marcell's essays runs counter to a presentation of the Syrian war in which stories about extremism and polarization are emphasized. We rarely hear about the nuances and complexities of the lives of individual Syrians. In her writing, Marcell's voice turns and winds through her days as she struggles to survive and make sense of the collapse of her world, the murder of her mother at a government checkpoint, the dilemmas of her friends and their families, and dreams of a forgone past. She brings us the complexity of Syrian society, showing us the fractures, alliances and impossible choices made by individuals living through war. Her stories again and again shatter upon the reality of those choices, the knowledge that making them requires people who in normal times might be fair, compassionate and caring to choose violence as a means of security.
マルセルは、ライターとデジタル活動家からなるコミュニティの一員であり、彼らはシリアで独創的な非暴力の改革運動に加っていた。コミュニティのメンバーはオンラインで結ばれたジャーナリストや活動家で、他の中東地域の改革運動とも密接につながっており、連絡の取り方やそれぞれの団体はインターネット文化に基づいて活動している。つまり、マルセルの書く記事はオンライン・ジャーナリズムの概念を象徴するものである。以前は外部の第三者が書く記事の対象だった、現地の人々の声や物語を、我々に届けてくれるのだ。 マルセルの声は、アレッポでの紛争の経験を反映した当事者の声であり、世界中の読者へ向けて発信されている。困難な状況にも負けず、マルセルとその仲間たちが主張し続けているもの、それは、人としての尊厳の必要性、そして、ひどい暴力行為や地政学的なものに翻弄されている個々の人生をつづった文章が持つ力である。
シリア内戦といえば書き立てられるのは過激派と二極化の話ばかりだが、マルセルのエッセイの構成はそれと相反する。シリアの人々それぞれの生活について、その細部や複雑な部分を私たちが耳にすることはほとんどない。しかしマルセルの記事では、彼女の過ごす日々を自身の声で縦横無尽に描き出していく。マルセルは必死に生き、自分の住む世界が崩壊していること、政府の検問所で母親が殺されたこと、友だちとその家族の間で板挟みになっていること、そして過去のものとなってしまった夢について、何とか意味を見出そうとしている。彼女の記事を読むと、シリア社会の複雑さに気づかされ、内戦下に暮らす人々の間に生じた亀裂、協力関係、あり得ない選択を垣間見ることができる。そんな選択によって生まれた現実や、平時ならば善良でやさしく思いやりのある人々が、防衛のために暴力を選ばざるを得ない事実に、マルセルの物語は何度も何度も打ち砕かれている。
オンラインニュース協会はデジタル・ジャーナリストによる非営利の会員組織である。最優秀賞は2015年9月26日に同協会カンファレンスで発表され、同日オンライン・ジャーナリズム賞祝賀会も行われる。