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ミート・ザ・プリースト ーベネズエラの神父さん、ロックで魂に訴えるー

カテゴリー: ラテンアメリカ, ベネズエラ, 宗教, 市民メディア, 音楽
Fernando Rivas, sacerdote ortodoxo, tiene su propia banda, Irinika, con la que busca llevar a todo público un mensaje de confianza y fe, pero sin etiquetas religiosas. “Me interesa convencer y no quedarme solo con los convencidos”, asegura este caraqueño de 47 años. Foto: Jorge Santos Jr utilizada con autorización

ギリシャ正教の司祭、フェルナンド・リーバスはイリニーカというバンドのリーダーである。リーバスはバンドの演奏を通して、信頼と信仰のメッセージを人々に発信している。しかし、宗教色を表に出すことはない。「ぼくはどうしても皆に信じてもらいたいんだ。もうすでに信心をもっている人だけじゃなくてね。」カラカス出身の47歳の男はきっぱりと言った。 写真:ホルヘ・サントス・ジュニアル(掲載許可)

ブログ「テシス・イ・アンティテシス(論文とアンチテーゼ)」 [1]掲載の記事を原文としている。

息子の学校の父の日のお祝い行事や、学年末の式に出席している男の姿は、世間でまずはごく普通に目にすることができる。しかし、この男が聖職者であることや、職服を着て教職員に自己紹介をする姿は、少なくとも若干のひんしゅくを買い、噂話にもなる。フェルナンド・リーバスはこんな奇妙な状況の中で何年も過ごしてきた。リーバスは国際研究プログラム [2]の修了生で、1968年にベネズエラの首都カラカスで生まれた。

公然とこんなことをするなんて、とんでもない神への冒涜かもしれない。いや、それは全く見当違いだ。リーバスは聖職者とはいえ、ギリシャ正教 [3]に属している。正教では、聖職者は結婚できるし、子どもを儲けることも出来るのだ。しかし、この件については繰り返し説明が必要である。リーバス自身、聖人祭のマーケットで父親たちに何度も話しているし、リーバスの子どもたちも、同様にクラスメートや友人たちに繰り返し説明している。

全ての始まりは1996年。この年、リーバス夫妻はブルガリア行きを決心した。留学のためだ。リーバスはオペラ歌手なので、自分の音楽的知識を深めたかった。そして妻は視覚芸術、とりわけビザンチンの聖像学をもっと研究したいと望んでいた。

“Nosotros nos vamos a estudiar. Pero empezamos a ir a la iglesia y allí el sacerdote, que era ortodoxo, me comienza a pedir ayuda en la liturgia y luego de tanto tiempo me pregunta si no estoy interesado en ordenarme. Y así comenzó todo esto”.

ブルガリアには研究のために行ったんだ。でも教会へ通い始めると、司祭に礼拝式の手伝いを頼まれだした。そこは正教会だった。ずっと後になって、ぼくは叙聖を受ける気がないかと訊ねられた。まあ、全てはこんなふうに始まったんだ。

カラカスの中流階級地区ラ・フロリダの自分の部屋で、リーバスは天職に出会ったときの様子をこのように思い出してくれた。その天職につくためには、再び、妻から「イエス」をもらう必要があった。リーバスはつけ加えた。「妻の同意が必要だし、誓約書にサインまでしなければいけないんだ。」

2006年、フェルナンド・リーバスはギリシャ正教の司祭に叙聖されることになった。そして、信仰生活では実質上エリアス神父となったのだ。「法王や歴代の聖職者たちと同じさ。名前が変わるんだよ。でも普段の生活では、ぼくは相変わらずフェルナンド・リーバスのままだ。」

エリアス神父は、職服に身を包んでもいまだに燃え続けている情熱を、即座に神への新たな献身に結びつけようとした。自分の音楽を捨てることはなかったのだ。いやそれどころか、音楽を聖書の教えのような宗教的なツールに変えてしまった。「3年前に僕はイリニーカ [4]というバンドを結成した。イリニーカとは、ギリシャ語で平和の連祷という意味だ。僕らはロックを演奏する。スカやレゲエも演奏するし、伴奏はプロのミュージッシャンたちだ。」

聖職者が「ロック」について語るのを聞いて、最初に思い浮かぶのは、宗教人たちがこの種の音楽に対して抱いている昔ながらの反感だ。つまりそれは矛盾であるように思える。エリアス神父は語る。「ロックというのは死とドラッグだけじゃない。そうじゃないんだ。ロックはろくなものじゃないと烙印を押されてきた。ぼくらはその汚名を晴らしたいんだ。ロックは人生の証でもある。ロックを通して僕らは信仰と希望のメッセージを発信している。」エリアス神父はザ・ドアーズやジャニス・ジョプリンやザ・ローリングストーンズを聞いて成長し、そして特にピンク・フロイドに夢中になっているそうだ。

10年前には、典型的な正教の服装を着こなして学校行事に出席すると、彼の息子の学校の職員たちは驚いたものだった。今は、ライブに来る人々が職服を着てステージに上がっているエリアス神父を見て、同じように驚いている。

“Para nosotros es obligatorio llevarla. Solo me la quito cuando estoy en mi hogar con mi familia o las veces que he tenido que interpretar a algún personaje en una ópera que requiere un vestuario característico. Pero siempre estoy con mi sotana, incluso en las presentaciones de Irinika”.

職服を着ることは決められている。着ないのは家で家族といる時とか、役柄に応じた衣装を着ける必要のあるオペラを演じる時だけだ。ぼくはイリニーカの演奏の時でも、いつも職服を身に着けている。

エリアス神父が気に入らないことが1つあるとすれば、それは彼の演奏が「クリスチャン・ロック」 [5]といわれることだ。自分の音楽を「オルタナティブ・ロック」 [6]と呼んでほしいと思っている。彼が歌いかける聴衆は熱心な信者ではなく、人生で受ける試練への神の答えを求めている様々な人々だ。そしてどんな宗教色も表に出さない。彼はこう断言した。「ぼくはどうしても皆に信じてもらいたいんだ。もうすでに信心をもっている人だけじゃなくてね。」

エリアス神父は大学教授であり声楽の教師でもある。そして「ロック・アンド・フェイス」というコーナーのあるラジオ番組に毎週協力している。妻と2人の子どものいる家庭人であり、おまけに聖職者である。聖職者としての時間をどうやりくりして作っているのかとたずねられ、彼は明快に答えた。「ぼくの教区の人たちは分かってるよ。24時間いつでも僕をあてにできるとね。ぼくはその人たちのために後回しにするべきことは、全て後回しにするんだよ。」

校正:Miyuki Wood [7]