言語の目的は、それを使う社会でコミュニケーションを成立させるためだ。そのため、言語は使用されるにつれ社会とともに変化していく運命にある。技術の進歩により、このような言語の変化はある年齢層、特に十代の若者の間で目まぐるしいスピードで進み、十代の若者とその親との間に途方もない隔たりを生み出してしまうことがある。
フランスでは、十代の子供との会話についていけないと嘆く親が多くいるという。解決できない問題というわけではないが、その隔たりを埋めるにはちょっとしたテクニックが必要だ。フランス語を話す親に向けて、世代間のギャップや技術の進歩、時には文化的要因により阻まれてしまったコミュニケーションを再開するためのコツを以下に紹介しよう。
SMS言語(テキスト言語)
SMS(ショートメッセージサービス)言語は、使う単語の長さを短くすることで、文字数を制限範囲内に抑えるだけでなく、携帯電話で文字を入力するスピードを速めるために確立された。技術上の制約が、新たなコミュニケーション形態を生み出したのだ。しかしそれは、SMSメッセージで頻繁にやりとりする若者にとっては使いやすいが、大人にはどうにもピンとこない表現のようだ。大人たちはそこで使用される言葉遣いや省略表記やスペリングのほとんどが分からないのだから。
以下にあげるのは、GralonというウェブフォーラムでSMS初心者向けに説明されているSMS言語の一例 である。
- je vi1 2 = je viens de
– tu vas réu6r = tu vas réussir
– il tadi 2 / ke = il t’a dit de / que
– koi 2 9 = quoi de neuf ?
– 2m1 = demain
- je vi1 2 = je viens de(私はたった今~したところだ)
- tu vas réu6r = tu vas réussir(頑張って)
– il tadi 2 / ke = il t’a dit de / que(彼は君に~と言った)
– koi 2 9 = quoi de neuf ?(変わりはない?)
– 2m1 = demain(明日)
効率優先で変化した言語は万人受けするわけではない。デジレは投稿の中で、SMS言語ほど苛立たせるものはない と怒りをあらわにしている。
Le langage sms, c'est bien pour les ados qui veulent se montrer rebelles, pour les gens qui ne veulent pas passer trop de temps à rédiger un sms et qui s'en fichent des fautes et ceux qui s'en fichent que leur correspondant pourrait ne pas comprendre leurs hiéroglyphes immondes. On l'aura compris, je suis contre ce langage préhistorique! J'avais moi-même testé quand j'étais ado et même dans ma période la plus rebelle, je n'ai pas pu me résoudre à envoyer des messages bourrés de fautes [..] LE problème c'est que la plupart des gens qui écrivent en langage sms ne font plus aucune différence entre mail et sms, ce qui n'est pas trop grave quand il s'agit de quelqu'un qu'ils connaissent mais qui devient un sérieux manque de respect quand il s'agit de quelqu'un qui leur est totalement inconnu.
テキスト言語を使うのは、反抗心の強い十代、それにメッセージを作成するのに時間を割くのが嫌で多少のミスも気にもしないし、メッセージを受け取った相手がこの不快な文字列を読めなくても気にしない人たちです。もうお分かりだと思いますが、私はこの意味不明な言葉には断固として反対です!私自身が十代の時、しかも反抗期のまっただ中の時にテキスト言語を使ってみたことがありますが、どうしてもこの乱れた間違いだらけのメッセージを送ろうとする気にはなれませんでした。(中略)問題は、SMS言語を使うほとんどの人が、普通のメールとテキストメールとの区別が出来ていないことです。知り合いに送る時はさして大きな問題にはなりませんが、それがまったく初対面の相手となると、限りなく失礼にあたるのです。
ブロガーのティゼル氏も、こういったコミュニケーション形態が蔓延していることに異を唱えており、理解できないメッセージが増えていることについて以下のように疑問を呈している。
Le langage SMS est un vrai fléau. J'en veux pour preuve le nombre de forum devenus illisibles à cause de l'absence totale de modération sur ce plan. Mais ce fléau se retrouve également dans les blogs : la majorité des Skyblogs sont formulés en SMS; les commentaires déposés sur les blogs sont eux aussi, la plupart du temps, en SMS. Même certains mails que l'on m'envoie sont rédigés de la sorte. En plus, à force de rédiger de la sorte, je suis persuadé que ces personnes déforment leur orthographe.
SMS言語はまさに厄災だ。まったく何の抑制もなく発展したSMS言語のおかげで、今や読めないものとなり果ててしまったフォーラムの数々を見れば明らかだ。しかしこの厄災はブログにまで降りかかってきている。Skyblogの大半はSMS言語で書かれているし、コメントもSMS言語だらけだ。私宛のメールでさえSMS言語で送られてくることだってある。こういった書き方をする人たちは、自分たちの文章力まで冒されてしまったに違いない。
だがこの変化を一つの機会 と捉える見方もある。 若者向けの小説 では、臨場感を生みだすためにテキスト言語が使われているものも多い。それにフィリップ・マルソーなどの小説は、全てテキスト用語で書かれている。
ヴェルラン、英語からの借用語
ヴェルラン(逆さ言葉)とは、単語を音節ごとに逆さに並び替えるフランス語の隠語の一つだ。英語からそのまま借用された言葉と組み合わさると、大人には理解できなくなることもある。以下に挙げるのは、Magic Maman にまとめられている、最近の十代がよく使う表現 の抜粋だ。
Accoucher : se dépêcher.
Arracher (s’) : partir.
Auch : verlan de chaud, cela signifie « c’est difficile ».
Balle (c’est de la) : c’est génial (une variante est possible avec « c’est chanmé !).
Boss : chef de bande ou patron.
Accoucher 【元の意味:出産する】⇒ 【新しい意味:急ぐ】
Arracher (s’) 【元の意味:~を引き裂く】⇒【新しい意味:出発する】
Auch 【chaud(元の意味:暑い)のヴェルラン】⇒【新しい意味:難しい】
Balle 【元の意味:蜂のひざ】⇒ 【新しい意味:すごい】(c’est chanmé! もヴェルランで、同じく「すごい」の意)
Boss 【集団や職場で上に立つ者 】(訳注:英語からの借用語)
しかし、言語の変化に影響を与えるのは英語だけでない。都市の多様化も若者のフランス語の使い方に影響を与えており、かつては植民地で使われていた表現(主に西アフリカや北アフリカ)が、ごく自然にフランス語の進化の一端を担っている。そこでエソンヌ県エヴリーの若者たちは、『Lexik des cités』 というプロジェクトを起こし、各都市の若者がよく使う表現を集めた本を編纂している。次に挙げるのは、そのプロジェクトの導入部分だ。 ディノ・ブリューのブログで読むことができる。
“J’suis en pit », « Lui, c’est un 100 % roro », « J’ai invité mes sauces au barbecue », « Laisse tomber, il a toyé tout le monde ! », « Aujourd’hui je rince un grec », « Je suis yomb de toi »…Vous avez tout compris ? Non ? C‘est exactement pour cette raison qu’un groupe de jeunes originaires d’Evry a imaginé ce Lexik des cités illustré, bien différent des dictionnaires classiques. Pour que tous les durons (parents) autour d’eux puissent enfin comprendre leurs expressions et mieux les interpréter ! Voici la peinture d’une banlieue qui déchire, drôle et optimiste, où le langage est coloré et va du verlan à la métaphore, en passant aussi bien par l’arabe, l’africain, l’argot, le gitan que par… l’ancien français !
J’suis en pit (私は穴の中にいる)、Lui, c’est un 100 % roro (彼はロロ100%だ)、 J’ai invité mes sauces au barbecue (私は全てのソースをBBQへ招待した)、Laisse tomber, il a toyé tout le monde! (あるがままに、彼は皆をもてあそんだのだ)、Aujourd’hui je rince un greg (今日、私は自分の酒を洗い落とす)、Je suis yomb de toi (君は私に大きな借りがある)などなど…、これらの意味がわかるだろうか?わからない?だからこそエヴリーの若者たちが、従来の辞書とは全く趣を異にするこのイラスト付きの辞書、『Lexik des cités』を作ろうとしたわけだ。これにより親たちはわが子の言葉を理解できるようになるだろう。この辞書では郊外の都市が、鮮やかに、面白おかしく、楽しく描写されており、言葉も多様性に富んでいる。古フランス語だけでなく、アラビア語、アフリカで使用される言語、スラング、ジプシーが使用する言葉から由来するヴェルランやメタファーを収録している。
そして このように続く。
C’est surtout l’intégration qui caractérise cet ouvrage. La juxtaposition de sensibilités, d’inspirations, de cultures, d’idées,… venues des quatre coins du monde et qui trouvèrent vite dans leur isolation forcée les conditions idéales pour se mélanger loin du conformisme ambiant si peu porteur d’inventions. Trop souvent présentés comme des zones de non-droits où ne règnent que la violence et les trafics en tous genre, en général par des médias en quête de ce sensationnalisme qui garantit une certaine audience, les cités développent en fait leur culture propre depuis un certain temps. Une identité forgée à partir de toutes ces civilisations d’Afrique, d’Asie, d’Europe de l’Est et d’ailleurs qui trouvèrent là un creuset où couler cet alliage dont on n’a pas encore pleinement mesuré la richesse.
統合こそがこの辞書編纂の最大の特徴だ。世界のあらゆる地域から感受性、インスピレーション、文化、思考などを寄せ集めてみて分かったのは、これらが強制的に互いに隔絶されているからこそ、ミックスすると非常に効果的なのであり、それは創造性を少しも刺激しない今流行の画一性からはほど遠いものだ。メディアはそれなりの視聴者が見込まれる人目を引くヘッドラインを追い求め、各都市のことを暴力やあらゆる不正取引が蔓延する立ち入り禁止区域だと、幾度となく報道してきた。しかしこれらの都市は、時間をかけて独自の文化を形成してきた。アフリカ、アジア、東ヨーロッパなど各地の文明を背景にして生まれたアイデンティティ。これらの文明ではさまざまな文化が解け合っていて、そこにこのアイデンティティという合金が流し込まれる。だが、人々はまだその合金の価値に十分気づいていない。
ソーシャルネットワークの言語、インターネットスラング
技術の進歩により生まれた別の言語といえば、デジタルランゲージ、すなわちインターネットスラングだ。文字や句読点を入力するスピードを速めるだけでなく、メッセージが読まれたかまたは伝わったかがすぐに分かる。その主な目的は、メッセージや考えをリアルタイムで伝えることだ。
インターネット文化 が世間一般にまで影響を与えているということもあり、デジタルランゲージの進化はとどまるところを知らない。 Urban Dictionary や Know Your Meme などの辞書サイトは、やインターネット文化への理解を深めるにはもってこいだ。 インターネットスラングの項目数が増加する勢いはめまぐるしく、中には既に、日々の書き言葉にまで入り込んでいるものもある。例えば、FYIは「for your information(ご参考までに)」、JDCJDRは「je dis cela, je dis rien(言ってみただけ)」、BRBは「be right back(すぐ戻る)」などがある。
インターネットが言語の進化に対して果たす役割は諸刃の剣だ。確かに、コミュニケーション手段の画一化により言語が消滅する速度を上げている。しかしその一方で、言語を昔ながらの形で保全することを使命とするコミュニティを作ることで、消滅の危機にある言語を守る役割も果たしているのだ。
各所で間違った言葉や構文の使い方に対して異議が唱えられるが、現代社会の発展に伴い言葉が進化していくのをやっきになって防ごうとするのは無意味だろう。結局のところ、他者との関係を築き、知識や考えを伝え、互いを理解し合えるようになることが最も大事ではないのだろうか?