スペインの新政党ポデモスは「輪」になって成長する

Image taken from the “Podemos” party's Facebook account.

写真はポデモスのフェイスブックから。

スペイン、ガリシア州にあるローマ時代に端を発する都市、ルーゴ市。その近郊の丘陵地に点在する集落ではこの40年来さして変化がないように見える。ニワトリが通りを闊歩し、道路わきでは農家の人たちが延々とトラクターのメカについて議論している。しかし、スペイン北西部のこんなのんびりとした州の片隅で新しい政治運動が形を取り始めているのだ。

48歳の語学教師ヤーゴは、この小さな寒村で「サークル (輪)」を立ち上げようとしている。これは形式ばらない草の根の、民主的で多元的な集会とでもいうべきもので、新政党ポデモスの当地での顔としての役割を担うことになる。ポデモスは、スペイン語で「我々にはできる」を意味し、従来の政治手法に失望している市民に働きかけ、政策決定の段階から市民に参加してもらう下からの政治参加を実現することで、緊縮財政に対する市民の幻滅に対抗したいと考えている。

ポデモスと同様の野望を持つヨーロッパの多数の政党では党員数が減っている。一方でポデモスの「政治をもっと一般市民と関わりのあるものにする」という主張は結果を伴っている。同党は この3月(訳注:2014年3月に結党)以来、クラウドファンディングだけから集めた資金による政治活動と、一般市民からの意見を取り入れたマニフェストで、欧州議会議員選挙においてスペイン全体で8%の投票率を獲得した。ポデモスの支持者たちの多くは、おそらくそれまで何年も選挙で投票してこなかった人たちだろう。最近(訳注:原文記事は2014年9月5日掲載)の 世論調査では、もし今総選挙が実施されれば、ポデモスは第3党となり、第2党をも脅かすかもしれないという予想結果が出た。

サークル:市民を取り込む政治スペース

ポデモスが有望なスタートを切った要因の一つは、地域を組織するシステム「サークル」の存在だ。ヤーゴが目指しているのもこれだ。「サークル」はリーダーもいなければ会費もないグループで、だれでも参加できる集会を開いて、参加者たちは自分たちに一番関係あると思うテーマなら何でも論議することができる。「集会では、ポデモスの運動に直接関わっていない人たちも自分たちが感じていることを発言できて、他にも同じように感じている人たちがいるんだということを知ってもらうことができます」とガリシアの港湾都市ビーゴのサークル代弁者の1人、オスカー・ゴンザレスは語っている。サークルは地域に強く力点を置いている。全市をカバーするサークルもあれば、1地区だけといったサークルもある。また関心あるテーマに沿って出来たサークルもある。例えば現在、心理分析、音楽、看護のサークルなどがある

サークルは急速に広まっている。この記事の執筆時点(訳注:原文記事は2014年9月5日掲載)では、スペイン全体で 700以上のサークルが存在している。これは2か月前と比べて約80%の増加率だ。集会への参加者も急増した。ポデモス・ビーゴの集会参加者は、選挙前には20~30名だったのが現在では300名以上の参加者がいるとのことだ。このサークルの発想は小都市でも機能するかもしれない。しかしガリシアの田舎では事情がまた異なる。ヤーゴの村のような田舎は過疎化が急速に進んでいる。現在ガリシアだけで少なくとも1400にのぼる村が 無人化している。これらの小村が自力で再生する可能性は少ないように見える。新生児誕生が地元の新聞のニュースになるほどで、ガリシアの出生率は下降を続け、スペインで最低となっていることから、州政府はこの状況を改善するため向こう3年間に7000万ユーロ(9200万米ドル)の予算を組んでいる。

「希望を胸に投票したのはいつでしたか?」という選挙スローガンを掲げるこのまだ若い運動にとっては、こういった状況は発展に有利な土壌とは思えない。この保守的なスペインの田舎で、サークルが盛んであるとはとても想像し難い。スペインの独裁者だったフランコ将軍はガリシア出身だったし、同州はまた、現在国政を牛耳っている中道右派の与党、国民党がいまだに最高支持率を獲得している地域の一つだ。この村の唯一のバール(肉屋と八百屋との兼業だが)で常連の、薄毛の50代の男性を指さしてヤーゴが言った。「彼とはもちろんうまくやってるけど、ある日タバコの火を頼んだら、彼のライターにはフランコの写真が貼ってあったんだ」。

それでもヤーゴはひるまない。「僕は単純な人間だけど、差別と汚職がどんなものかはものすごくよくわかってるんだ」と言いながら、ビジネスを始めるのに苦労した自分の体験や、最近のガリシアで起こった一連の汚職事件を例に上げてくれた。多くのスペイン人と同様に、ヤーゴも家のローンの支払いで苦労している。現在の経済危機が起こる直前に、彼は銀行から住宅ローンを借りた。この決断は「最大のミスだった」と彼は言う。

Podemos collecting tin in a cafe in Vigo, Spain.

ポデモスの募金箱。ビーゴのカフェで。写真は筆者。

それなのにヤーゴは、先の欧州議会選挙のためにポデモスに5ユーロ寄付したのだった。5月に行われた選挙でポデモスは125万票を獲得した。1票あたりたった0.12ユーロ強の選挙資金を使っただけだ。その計算でゆくと彼の寄付は実際約40票分を獲得する価値があったことになる。おそらく彼の村ではその40票分のうち1票たりとも獲得できなかったであろうが、それでも彼は前向きだ。「他の政党に共感できない人たちがたくさんいて、ポデモスは彼らの受け皿になれると思う。一歩一歩何かに向けて進んでいければいいですね」と言った。

ビーゴ市中心部の南西にあるナビア地区では、ポデモスはすでに成果を上げつつある。同党は同地区で、市内最高の 得票率20%を獲得したのだ。ナビア地区はこの8年間に建てられた公営住宅群から成る地区で、年齢層の若い住民が約8000人住んでいる。おりからの倹約財政の中、ナビアでは逆に公共投資がなされた。すなわち、ビーゴ市は同地区の道路、バス・サービスの改善、市民農園、スポーツ施設に投資し、一方ガリシア州は同地区に医療センターと大規模な公園エリアを建設中だ。こういう状況でポデモスが成功したのはさらに驚くべきことだ。

「たしかに市や州は私たちの地区に巨額の投資を行いました。ただ契約金額が事業内容に見合ったものだったか、計画が十分検討されていたか、施設の保守が充分行われているかなど多くの問題を抱えています。この結果、私たちの地区に出現した施設群は、まるで大きな墓石の並ぶ寒々とした場所に見えます」とオンライン・コミュニティー、ナビア・メレセの当事者アントニオ・サアは説明してくれた。

ナビアはまた、ポデモス・ビーゴが通常と違う手紙作戦で選挙キャンペーンを行った地区の一つだ。選挙運動員の配達する一枚の手紙には次のようなメッセージが書かれていた。「この手紙は郵便で配達されたものではありません。もしこのような手紙を全国に郵便で配達すると200万ユーロ以上コストがかかります。もし選挙キャンペーンの手紙を郵便で送ってきた政党があったら、どこからその資金を調達したのか、また何をその対価に支払ったのかを聞いてください」。ナビアでは大規模公共事業が未完成のままだったり、汚職の疑いが掛けられている事業もあるので、こうした手紙の主張は核心を突いていたのだと思う。

まだ発展途上

このようにポデモスはいろいろ成功しているが、一方で同党がいまだ発展途上だという事実を隠すことはできない。ここ数か月で急に注目が集まったことに対してポデモスはいまだに対応中だ。当地のポデモス支持者たちも公にこれを認めている。「選挙前には、グループも少人数で挙手して投票できたので、集会の運営はずっと楽だった。でも今はこの方法は使えない。二重投票している人がいないかチェックしながら投票を数えるのに大半の時間が取られてしまう」とビーゴのサークルメンバー、マニュエル・ビリョットは言っている。

また最近サークルの集会では、議論の焦点がずれないように司会者制を導入せざるを得なくなった。以前の討議はあまり系統だっていなかったのだ。またポデモスは協働の精神を維持しながら、増え続ける党員を迎え入れるために最新技術を活用している。現在AppgreeLoomioなどのオンラインツールを党全体に導入しようとしている。これらを通じて参加者はアイデアを投稿したり、それらに対して投票したりできる。

ポデモスは主にテレビを通じて、中でも学者で党首であるパブロ・イグレシアスのトークショー出演を通じて有名になった。 しかし地方レベルではインターネットが現在では最も重要な役割を果たしているようだ。サークルの多くは自前のウェブサイトを持っておらず、支持者と連絡したり、新たな党員の獲得にフェイスブックを利用している。「フェイスブックツイッターもないポデモスは考えられません」とポデモス・ビーゴのウェブサイト・コーディネーター、マイカ・アリアスは話してくれた。こういうテクノロジーに依存した活動が一部の人々を敬遠させてしまうことも意識して、ポデモス・ビーゴは新しいツールについての無料説明会を開いたり、インターネットカフェに働きかけて、インターネットにアクセスできない人々に無料でアクセスを提供したりという活動を行っている。

この秋に党の新組織体系が発表される予定でもあり、今後数か月がポデモスにとってカギとなろう。「党は今後も成長し続けると思います。今のところ勢いが頭打ちになる気配はありません。今後ポデモスが他党と似たり寄ったりの政策ではなくて、本当に他党と一線を画す選択ができるかどうか注目しなければなりません」とサアは語っている。

校正:Mitsuo Sugano

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