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ユーゴスラビア:1950年代の反ベール法に関するドキュメンタリー

カテゴリー: 東・中央ヨーロッパ, コソボ, セルビア, トルコ, ボスニア・ヘルツェゴヴィナ, マケドニア共和国, モンテネグロ, 人権, 女性/ジェンダー, 市民メディア, 映画, 歴史, 民族/人種, 法律, 芸術・文化
映画「敷石を見つめて」のYoutubeバージョンからのワンシーン [1]

映画「敷石を見つめて」のYoutubeバージョンからのワンシーン

セルビアのNGO団体が、イスラム教のベール(ニカブ)で女性が顔を隠すことを禁じた1951年のセルビアの法律の影響について取り上げた「敷石を見つめて」というドキュメンタリー映画を、オンライン配信した。 [2]

ノヴィ・パザル市 [3]のNGOであるアカデミック・イニシアティブ・フォーラム10が公開したこの映画では、法が導入された当時の様子を覚えている高齢者が、第二次世界大戦により荒廃したサンジャク地域 [4]での厳しい生活について語っている。

また、インタビューを受け、より若い人たちが以下の歴史的観点を踏まえて、イスラム女性に影響を及ぼしている現代の問題について語っている。(動画は2016年3月30日現在、非公開設定になっている)

映画の脚本家はこう語っている。

Zakon je donet kako se navodu u njegovom obrazloženju „u cilju da se otkloni vekovna oznaka potčinjenosti i zaostalosti žene muslimanke, da se olakša ženi muslimanki puno korišćenje prava izvojevanih u Narodno – oslobodilačkoj borbi i socijalističkoj izgradnji zemlje i da joj se obezbedi puna ravnopravnost i učešće u društvenom, kulturnom i privrednom životu“

この法律はこのような説明文付きで導入された。「イスラム女性が虐げられ時代に取り残されてきたことを示す古くからの象徴を廃絶し、イスラム女性が人々の自由のための戦いで得た権利や社会主義による国家の変革を完全に活かすことができるようにする。また、社会生活・文化活動・経済活動において同等に権利をもち参加できるようにする。」

このユーゴスラビア [5]政府の政策は、1934年に成立した特定の衣服の禁止に関わる法律に代表されるトルコでのアタテゥルク改革の影響を受けたものである。

ユーゴスラビア政府が公式に行動を起こす前に、女性による反ファシズム主義運動のイスラム教徒のメンバー達は、公共の場で自らの顔を隠さないことを表明する草の根運動を準備していた。

このようなイベントは1947年にコソボから始まった。そして、共和国は時を同じくして反ベール法を導入した。ボスニアに導入されたのは1950年で、セルビアとマケドニア [6]は1951年である。連邦レベルで連携したと思われる。

ユーゴスラビア社会でエリートである自らの党員に共産党が無神論を推奨した一方で、国家はその他すべての国民に宗教の自由を保障した。

フィクレット・カルシック教授 [7]は反ベール法に関する評論で、反ベールキャンペーンは女性が顔を隠すのは宗教に基づいているのではなく、宗教上の規範を超えた慣習によるという考えに基づいていたと説明している。

国家お墨付きのメッセージは、伝統的な衣装を拒絶してもイスラム信仰を少しも害することにはならない、というものだった。

戦後のユーゴスラビアの共産党政府は、選挙権、労働の自由、所有権など女性の立場を高める法改正をもたらした。また、中絶の権利を擁護する [8]姿勢を取った。

しかしながら、活動家のジビジャ・サレカビック・デルビシャリトビック氏 [9]は国家は凝り固まった男性支配構造と真正面から敵対することを実際は避けたと映画の中で説明している。

その代わり、男性優位性は違うところから忍び寄る結果となった。国家がこの法律に従わない女性を重い罰金で脅したのだ。

一部の女性にとって、無理やりベールを取れと迫られるのはとても不安になることであった。

1951年当時まだ幼かったアシム・ニクシッチ氏は、未亡人であった母は精神的に深く傷つけられ8ヶ月の間家にこもったと話した。

この映画のタイトル「敷石を見つめて」は、「恥ずかしさからこうべを垂れる」という意味の慣用句であり、女性たちが家から出た際に露出が過剰だと感じたことを表現している。

オーラル・ヒストリーの素晴らしい例だ

撮影前に、アカデミック・イニシアティブ・フォーラム10の監督、ファフルディン・クラドニカニン氏は、このプロジェクトは史料の調査と証言に基づいており、本NGOの目的は忘れられた歴史上の出来事に「新たな解釈」を与え、実際に影響を受けた女性や他の人々に声を与えて、一般の人々を議論に引き込むことだと説明している。

映画「敷石を見つめて」より、キメタ・ドロバック氏。 [12]

映画「敷石を見つめて」より、キメタ・ドロバック氏

校正:Izumi Mihashi [13]