[1]「あなたは誰のファン？」アフトヴァース社CMからの映像
原油価格の下落と共にロシア経済も厳しい時期に見舞われた。自動車メーカーのアフトヴァース社は、産業界で最も信頼できるマーケティング手法に頼っている。その手法とは、消費者の愛国心のことである。
2012年、アメリカにおいて一年でもっとも高額な広告枠であるスーパーボウルのハーフタイムに、クライスラー社は「これはアメリカのハーフタイムだ」と名付けられた2分間のCMを流した。メインのナレーションには、ハリウッドを象徴するスターであるクリントイーストウッドを採用した。CM内で彼は、アメリカの自動車産業は2000年代後半の景気後退から立ち直ったと厳しくいかめしい調子で語っている。
同様の厳粛ではあるが愛国的な調子で、アフトヴァースは去年リリースされた小型のファミリーセダン、ラダベスタを宣伝している。アフトヴァースの新しい広告は「あなたは誰のファン？」というもので、柔道の試合で戦う一人の少年と懸命に応援する父親を描いている。辛い戦いをくぐり抜け、少年は最後に勝利する。しかし、父親は試合場に現れない。実はずっと友達と自宅でサッカーをテレビ観戦していたのだ。（画面に全く現れない母親とおそらく一緒に）少年は自宅に戻り、優勝メダルをリビングのドアにかける。それでも父親はテレビの前に釘付けだ。
広告のラストの数秒間に、「あなたは誰のファン？」という言葉が現れる。そして最後に、 「もちろんラダ」というスローガンが映されるのだ。
昨年の11月、アフトヴァース社はさらに「道は一つしかない。つまり、あなた自身の道だ」というタイトルの愛国的なCMを流した。ナレーションでは叙情的にロシアの忍耐を表すフレーズが読み上げられた。
Почему мы любим? Почему мы здесь? Можно попытаться найти слова. Объяснить, передать…Бесполезно. Это люди, природа, воздух, характер. Мы здесь и поэтому мы любим. Мы любим и поэтому мы здесь. Порой мы ненавидим то, что нам так близко. Именно поэтому мы хотим и будем это менять. Сами. Есть только один путь. Свой. Новая Lada Vesta.
どうして私たちは愛するのか？ どうして私たちはここにいるのか？ 君はその答えを見つけようとするかもしれない。君はそれを説明しようとするかもしれない。しかしそれは意味の無い事だ。これが人間なのだ。それが自然な事なのだ。それは空気で、そして私たちの気質なのだ。私たちは愛するが故にここにいる。私たちはここにいるが故に愛する。時に私たちは最も身近な事を嫌う。だから私たちは変えたいと感じるのだ。そして、私たちは変える。自らの手で。道は一つしかない。つまり、あなた自身の道だ。新しいラダベスタ。
クライスラー社が2012年に17億ドル（1900億円） [2]の収益を計上したと報告する一方、アフトヴァース社は2015年に前年のほぼ3倍以上の736億ルーブル（1210億円）を失った。また、RTAノヴォスチニュース社によると、総収入も8%下がったとのことだ。アフトヴァース社は、会社の負債を借りかえ、追加の融資を受けるには資金を援助してもらうか、工場の閉鎖を始めるしかないだろうと話している。同社は人件費の20%カットをするため、週4日勤務へ移行する事を既に発表している。
ロシアの自動車産業全体が今の不況のおかげで苦しんでいる。2015年に軽量商用車の売り上げは36%減少した。さらに2016年も市場は少し縮むと予測されている。ラシイスカヤ・ガゼータ紙にて、専門家はロシアの自動車産業が2012年のレベルまで回復するには少なくともあと6年間はかかるだろう [3]と話している。