- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

カザフスタンがバレンタインカードを作るとしたら?

カテゴリー: 中央アジア・コーカサス, カザフスタン, 市民メディア, 政治, 文学, 歴史, 音楽, 食
Beshbarmak (lit. 'five fingers') a popular dish.

「ベシュパルマックよりも愛してる」ベシュパルマック(「5本の指」の意)は国民的人気食だ。広く共有されている。

今日、カザフスタンのインターネットユーザーは、この中央アジアに位置する国を代表する文化や政治をテーマにした、ロマンチックなグリーティングカードを相次いでシェアしている。4月15日をカザフスタン版バレンタインデーとした後からのことだ。

人口1700万を抱えるこの共和国では、拡大する経済不況に不平を言う民衆が目立つようになっていた。そんな中、これらの心温まるカードのおかげで、ソーシャルメディアに渦巻いていた不満は少し軽減された。

実際のところ、この試みの目的はそれだったのかもしれない。カードをシェア [1]することは、75歳のヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の名を冠した英才教育校ネットワークの職員から始まったように見えるからだ。

しかしプロパガンダまがいの面を別にすれば、これらの画像は一部のユーザーの間で愛国的かつ皮肉な理由から火が点いた。

Screen Shot 2016-04-17 at 07.22.27

4月15日のコジー・コーペシュとバヤン・スールの日(カザフスタン版バレンタインデー)に向けた投稿だけど、これを見た時、文字通りお茶にむせたよ(笑)

1 ○○よりも…

最も広くシェアされているカードの一つが、「ベシュパルマックよりもあなたが好きです」というメッセージのものだ(上の画像)。

これは実際、不滅の愛を表す文言である。肉と麺を組み合わせたベシュパルマックは、多くの家族行事、特に結婚式において基本となる食事なのだ。

また、代表料理を同じくする隣国キルギスタンでもこのカードを喜んで受け取る人は多いだろう。一方、タジキスタンやウズベキスタンのような中央アジア遊牧民でない人々は、ピラフ [2](プロフとも呼ばれる)を好みがちだ。

カザフスタンの英語雑誌「Edge. kz」には、ベシュパルマック(ベシュバルマックとも書く)について次のように書かれている [3]

Shashlyk – meat cooked on a skewer, like kebabs – and a spectrum of varieties of milk, cream, yogurt and soft and hard cheeses would make up typical meals and snacks in this region. But for special occasions, like weddings, holidays and funerals, or to honor visiting guests, there is only one option: beshbarmak, or simply et (which is pronounced as yet and simply means meat in Kazakh).

Beshbarmak (which means “five fingers,” either because it was traditionally eaten with the hands or because it should be made with meat that has a layer of fat five fingers high – the jury is out) sounds like a basic noodle and meat dish – which I suppose it is. The ingredients are minimal: dough, meat, onions, meat broth, some spices and oil or butter, but their preparation and presentation are crucial, and often ritualized.

この地域では、シャシリク(ケバブのように串に刺して焼いた肉)とさまざまな種類のミルク、クリーム、ヨーグルト、ソフトチーズ、ハードチーズを使った料理が典型的だ。しかし特別な行事、たとえば結婚式や祝日や葬儀、来客へのもてなしなどとして作る場合、選択肢はベシュパルマックかエト(カザフスタンでは単に「肉」の意)のみである。

ベシュパルマック(「5本の指」の意。伝統的に手で食べるため、あるいは指5本分の厚みがある脂肪の層をもつ肉で作るためとも言われる。真偽は不明)は麺と肉を使った素朴な料理だと言われるし、私もそう思っている。生地、肉、玉ねぎ、肉の煮汁、スパイス、油もしくはバターといった、最低限の材料でできるが、下ごしらえと盛り付けは非常に重要で、時に儀式的なものだ。

2 アバイの歌

Kozminin Karasy

「君のKozminin Karasyに夢中だよ」Kozminin Karasyとは、作詞家・作曲家・哲学者であったアバイ・クナンバエフによる有名なカザフスタンの歌である。

アバイ・クナンバエフ [4]は、中央アジアがロシア帝国の支配下にあった時にはロシア政府から一目置かれ、ソビエト連邦時代には何十年にもわたり評価され、非常に崇拝されて独立性を保っていた。彼がカザフスタンで最も有名な歴史上の人物であることに反対する人はいないだろう。

偉大な詩人および作曲家だったアバイは根っからのカザフスタン人だったが、同時にロシアの詩人アレクサンドル・プーシキンの作品を翻訳するなど、ロシア愛好家としても有名であった。

このことから、アバイは今日のカザフスタンにおいて特に利用価値の高い人物といえる。独裁政府は民族間の調和を強調し、ロシアとカザフスタンの言語や文化を公的に取り入れている(公式の統計によれば、カザフスタン全人口の4分の1から5分の1はロシア系である)。

Kozminin Karasyはアバイの作品で最も有名な恋愛バラードだ。大量のベシュパルマックが消費されるのと同様に、結婚式でよく歌われる。

以下は現代のアーティスト、アルテミスがカザフ語で歌っている映像である。

3 アスタナを愛してる!

Bayterek, the defining architectural symbol of Astana. Widely shared.

「君はまるでバイテレクだ。僕の心の真ん中にいる」アスタナを象徴する建築物のバイテレク。広く共有されている。

カザフスタンの未来的な首都アスタナは目を引く建築物に事欠かないが、最も特徴的なものが地上105メートルの展望台であるバイテレクだ。外観も中からの眺めも印象的である。

ナザルバエフ大統領発案のタワーは、聖なる鳥サムルクが生命の樹に黄金の卵を産むというカザフスタンの神話を象徴している。

エッフェル塔に比べるとややドバイ風かもしれないが、ロマンスとは自分の手で生み出すものだ。

1997年、ナザルバエフ大統領が150万人都市のアマルトイを見限って首都を移そうと決断するまでは、アスタナはあまり知られていない大草原地帯の一集落に過ぎなかった。

4 永遠の愛

Nursultan Nazarbayev, 75, has been in power in Kazakhstan since before the break up of the Soviet Union.

「君はナザルバエフ大統領? 僕の心はいつだって君を選んでしまうんだ」75歳のヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、ソビエト連邦の崩壊以前からカザフスタンで権力を握っている。

今度は政治的なものを取り上げよう。

このカードは、カザフスタンにとって、ナザルバエフ大統領が常に「選ばれた人」だという事実をほのめかしている。

まだ後継者を指名していない高齢の指導者は、2015年4月に5年任期で当選し、真の人気を享受している。

しかしカザフスタンの要である原油の輸出価格が最低になる中で、自身の人気にも影が差してきていることも理解している。

難しい経済情勢の中、 [5]のヌラリもパナマ文書漏えいで取り上げられた。そんな中、ナザルバエフ大統領がスーパーマーケットを訪れ、フォアグラについてコメント [6]する様が放送されたが、これも大統領にとっての助けにはならなかった。批評家たちは、彼の感覚はカザフの一般市民と大きくかけ離れていることがこのコメントで明らかになったと述べた。

とはいえ、愛は民主主義ではない。カザフスタンとナザルバエフに関して言えば、「死が二人を分かつまで」ということになるだろう。

コジー・コーペシュとバヤン・スールの日「全国恋人たちの日」

カザフスタンは、4月15日のコジー・コーペシュとバヤン・スールの日(全国恋人たちの日)をまさにカザフスタン版バレンタインデーとみなしている。旧ソ連の中央アジア各国では、西洋資本主義による空虚な面に強く結びついた祝日に代わるものを促進しようとする風潮があり、この動きはそれを反映したものだ。

コジー・コーペシュとバヤン・スールはカザフスタンの昔話における「薄幸な恋人たち」だが、ロミオとジュリエットと違い、彼らの両親は当初二人の結婚に賛成した。しかしその後、バヤンの父カラバイが手のひらを返し [7]、娘を別の男性と結婚させると決めてしまった。

Kozy and Bayan's mausoleum in eastern Kazakhstan. Photo by Mikhail Antonov (Xeofox). Wikipedia image.

カザフスタン東部にあるコジーとバヤンの大霊廟。ミハイル・アントノフ撮影(Xeofox)。画像はウィキペディアから。

彼らの物語 [8]は、のちにカラバイがバヤンを嫁がせた男によって、コジーが眠っている間に殺されるところで終わる。口述の中世詩で初めて世に出たものと考えられており、数世紀の後、プーシキンによって書き起こされたものである。

二人の廟はカザフスタン東部アヤゴズ地区のタンシキン村近郊にあり、アスタナとアルマトイには二人を讃(たた)えた記念碑がある。

そうはいっても、彼らの話を基にした祝日は、21世紀を生きるカザフスタンの恋人たちにとって、まだバレンタインデーに代わるほどのものではない。

この祝日は2011年に導入されたものの、ある政府役人は昨年その存在を知ったに過ぎなかったことを認めた [9]

校正:Takako Nose [10]