世界水の日(3月22日)に、国連環境計画(UNEP)はジャマイカ政府と協力し、キングストンのデボンハウスにある庭園で、ジャマイカ・エコ経済研究会を立ち上げた。この研究は5つの分野(農業、建設、エネルギー、観光、水資源)にわたり、UNEPヨーロッパ委員会の「カリブ諸国エコ経済発展促進地域計画」に基づいて資金提供を受けた。
ジャマイカは世界最大負債国の1つで、現在必要なエネルギーの90%を輸入石油にたよっている。この国はそろそろ低炭素経済へ移行する時期に来ているようだ。しかし国内の民間企業にそんな準備が整っている様子はまだ見えない。だが希望はある。ジョーバン・エバンスのような革新派の人たちが道を切り開き、刷新的にエコなアイデアを製品化している。グローバルボイスはエバンスにインタビューし、そのアイデアや起業家精神や「エコ推進」の変遷について聞くことができた。
グローバルボイス(以下、GV):あなたの経歴を少し教えていただけませんか。子ども時代のしつけや教育が、どのようにあなたの起業家精神を育んだのでしょうか。
ジョーバン・エバンス(以下、JE):小さい時、ぼくは祖父の姿を何時間も眺めていたものです。祖父はエンジニアを退職して農業をしていたんですが、自転車から水汲みポンプまでなんでも作っていました。「自分で作れるものは買わずに作る」という類の人でした。身近にそんな人がいれば、環境を利用するのは人間であって、その逆ではないという気持が強くなりますね。子どもの頃はレゴが大好きなおもちゃでした。大きくなって関心はコンピュータに移りましたが。レゴは想像力と自信を刺激してモノを創造する能力を育てるんです。その点では読書や楽器演奏と同じようにトップレベルなものだと思います。
その後、キャンピオンカレッジに入学しました。そこはカリブ海では最高の学校で、すごく頭の切れる生徒たちや優秀な先生方もいたのです。当時、科学クラブの課外活動でリモコン飛行機制作という選択肢があるのはキャンピオンだけだったと思いますよ。そのせいでぼくはオタクになったのかも。それはそうと、キャンピオンの基準では、普通の結果は失敗と同じ意味でした。このことを胸に刻んで製品開発できるのは一つの強みですね。
そして西インド諸島大学のコンピュータ科学科理学士コースを卒業し、IT企業で10年間働きました。2015年1月まで続けたあと、9時5時のサラリーマン生活に別れを告げ、自分の会社を始めたんです。有限会社アクアフロウ・プロダクツ&サービスです。IT専門家のみなさんなら、インフラの獲得や展開にしろソフトウェアの実施や発展にしろ、常に問題解決に取り組んでいますよね。
いろいろ経験を積んだおかげで、起業家として成長できましたが、一番重要なのはこの間に人のために力を合わせて働いて習得したスキルだと思います。教室での勉強なんてぼくの人生ではたいして役立ちませんでした。起業家向けのワークショップのほうにずっと強い影響を受けていますよ。例えば、調達、グラフィックデザイン、ウェブサイトの拡張、写真撮影などの専門知識がとても役立ちました。まさかと思うでしょうが、ぼくは自分のビジネスの経理や販売状況を管理するソフトを作ったんですよ。
GV: あなたのポンプンスプレーのアイデアはどうして浮かんだのですか。なぜ需要があると思ったのですか。
JE: ポンプンスプレーは欲求不満の産物です。給水制限のせいで毎晩バケツの水で体を洗わさられるわずらわしさや、小さい頃に祖父の農場で経験した骨の折れる雑用から生まれました。必要な水の確保を忘れた日があって、それは「ラクダの背中を折る」最後の一本のわらのように最悪なことでした。最初は解決方法がないかと探しましたが、そんなものは売ってはいません。そこで背中を折られたラクダのぼくは自分で解決策を生み出すことにしたのです。6週間後に最初のプロトタイプを開発しました。その時はこのポンプンスプレーは全くの個人用だったのです。実際、給水状況が安定すると使わなくなりました。しかし数ヵ月たって給水制限が再開すると、また使わざるを得なくなったのです。その時、みんな同じような問題を抱えていて、きっとこの製品に関心をしめすのではないかとひらめきました。気候変動を見ると給水状況は改善されそうにありません。ということはポンプンスプレーが大当たりすることは明らかでした。
GV: 事業は単独で始めたのですか。それとも支援者や後援者がいたのですか。
JE: 製品開発と資金調達の段階ではこれまでどおりひとりでした。しかし幸運なことにブランソン起業家育成センターに参加でき、そのおかげでビジネス展開の大きな助けになりました。思い起こせば、ぼくは9年間続けた仕事の最終日にブランソンセンターの公認起業家の認定を受けたのです。ブランソンセンターはまだまだ不慣れな経営者のために、継続可能で社会的責任を果たせる経営方法で、生活改善と世界の変革を目指すよう企業に奮起を促しています。
GV: ミシガン州フリント市との連携について教えて下さい。きっかけは何ですか。
JE: この活動を始めたのはワシントン出身のエッシタ・ダンカンという弁護士です。彼女とはブランソンセンターが計画したジャマイカのモンテゴ・ベイでの「ミート&グリート」の集まりでたまたま知り合いました。ぼくの起業家としての経験談を聞いてくれた数人の聴衆の一人でした。数週間後、彼女から連絡があり、フリントの水汚染危機のことや彼女が参加しているNPO「国境なき奉仕団」のことを知ったんです。エッシタたちはフリントの話を耳にし、その住民たちを訪ね、水資源の状況を見て心を動かされました。ぼくたちはポンプンスプレーがフリントに住む家族、特に子どもたちのために必ず役立つだろうと思いました。クラウドファンディングキャンペーンが始まり、これまで十分に支援を受けています。
GV: 特にエコ製品の分野での意欲的な起業家に何かアドバイスがありませんか。
JE: 3つの視点からビジネスにアプローチをすることでしょうね。つまり、人(ピープル)、地球(プラネット)、利益(プロフィット)です。みなさんの製品がどんなに「エコ」でも、その事業は継続可能かつ(または)利益をあげないといけません。どんな活動をするにしても、常に人々の生活の向上に努め顧客の声に耳を傾けることです。できれば他の起業家や組織と提携してみましょう。力をあわせればだれでもより大きな成果を得ることができます。時にはみなさんの製品がその居住地域や自国以外の場所とより深い関係をもつこともあります。自分の枠の外に目を向けるようになりましょう。
GV: あなたはご自分をビジネスマンだと思いますか。製品の範囲を広げ、他のエコ器具まで手をのばす気はありませんか。
JE: 自分ではビジネスマンというより発明家だと思っています。身近な人間は逆に見ているようですが。特許取得予定の発明があと3つあります。最新のアイディアの中には生活排水のリサイクルがあるんですよ。
GV: エコ経済の点からジャマイカの可能性についてどのようにお考えですか。どのような発展を望んでいますか。
JE: まだまだ途上だと言えるでしょうね。ぼくたちは民営・官営の各部門に不正が生じないよう監督する機関を設け、環境上のリスクを減らし、現在の問題に対して人々が高い意識を持てるようにしています。調達規定に示されているように、政府は継続的な発展を促進しています。しかし、政府の優先事項とは思えないようなことが環境や暮らしを脅かしているのです。ぼくらが直面している財政的束縛と現在の負債額に基づいて判断を下すことは困難です。より多くのジャマイカ人にそれぞれの地域のエコ計画にボランティア参加してほしいですね。そして環境や日々の問題の「エコ」な解決方法やぼくらの日常生活が環境に及ぼしている影響について、学校でもっと子どもたちに教える努力をしてほしいと思います。
GV: あなたは大多数のジャマイカ人がより高い環境意識を持ち、今まで以上に気候変動の影響を気にしていると思われますか。
JE: その通りです。近頃は各家庭でもそのような影響が感じられます。ぼくが話しているのは特に2015年の水不足についてですが、それが原因で多くの世帯の水道水が止りました。その結果ぼくらは食物の安全についてもっと考えるようになり、そのおかげで例の伝染病を媒介する蚊が繁殖する状況 を改善できたのです。
発明家か?ビジネスマンか?果たしてその両者か?いずれにしてもジョーバン・エバンスこそ、ジャマイカの「エコ経済」前進にとって絶対に欠かせない創造と革新の手本となる人物であることは間違いない。