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カザフスタン:フォアグラをめぐる大統領の失言から見えるもの

カテゴリー: 中央アジア・コーカサス, カザフスタン, ユーモア, 市民メディア, 政治, 行政
Moulard duck foie gras with pickled pear. Wikipedia image.

モーラードのフォアグラ、洋ナシのピクルス添え。画像はウィキペディアから。

(原文掲載日は2015年9月13日)

大統領は『パンがなければケーキを食べればいいのに』と言ったとされる [1]マリー・アントワネットのようだった。この何気ない発言によって、大統領が石油で潤っている国内に安住し、かつ経済状況や拡大する不平等には残念ながら無関心だということが明らかになったのだ。インターネットでピシャリと叩かれたのももっともなことである。

旧ソビエト連邦の一部であり、現在人口1700万人を擁するカザフスタンにおいて、ナザルバエフ大統領(75歳)はかなりの人気者だ。彼は1991年の独立以前からずっと政権の座についている。

しかし現在、中央アジアに位置するこの国では変化を望む年齢層も増えている。

この大半は若い世代から成るものだ。彼らは非効率で落ちぶれた体制や、世界の石油価格に左右される経済に疲弊している。フェイスブックやツイッターが生きる糧だという者が多い。

9月7日、カザフスタン中央部のアクモラ州を視察中だったナザルバエフ氏が次のように発言した [2]際、爆発的に増加したのがこの同じ年齢層であった。

Самое главное, что покушать у нас есть…Все остальное, к примеру, западная одежда – можно прожить и без этого. Правда? Без фуа-гра, бананов, вредных вообще для нас…Без самых лучших, огромных Ленд Крузеров тоже можно прожить.

最も大切なことは食べ物があるかどうかだ。洋服などそれ以外のものはなくても生きていける。そうだろう? 有害なフォアグラやバナナがなくても(中略)最高で最大のランドクルーザーなんてもってのほかだ。

ナザルバエフ氏は国民に対して、燃料価格の上昇に理解を示すように、またフォアグラを食べないようにと訴えた。

ナザルバエフ氏の発言の背景には、カザフスタンの主要輸出品である原油の価格が最低値まで下落したことがある。

隣国ロシアでの経済崩壊と同様に、世界的な石油価格の急落によってカザフスタンの緊縮財政時代は幕を開けた。この国は2000年以降の10年間にめざましいGDPの伸びを記録していたのだ。

国民はすぐに大統領に気づいてもらおうとした。

(画像:我々の思うフォアグラ)当時、人々はフォアグラを食べたことがなかったし、そもそも食べることを禁じられていたのだ。

(ツイート記事のタイトル:議会選挙後に価格が15%まで上がる)ああ、これで本当にフォアグラは高嶺の花になってしまう!

大統領のコメントは異様だが、それに対する擁護もまた異様だった。ナザルバエフ氏の報道官ドレン・アバイフは、大統領の「たとえ話」をきっかけとしてカザフ人は「うっぷん晴らし」ができたと述べた。 [10]

アバイフはナザルバエフ氏が国益のために「寝ないで」働いていると語ったが、なぜ同氏がバナナを有害だと思うかについてはコメントしなかった。

相変わらずこの政権は大勢のオンラインによる支持者のおかげで(たった1人の人間が同じようなことを何度も繰り返し書いているだけかもしれない)成り立っている。その人物がフォアグラ発言を最初に流した独立メディア、テングリ・ニュースのコメント欄にスパムを送ったのだ [10]

народ конечно понимает, что это образное выражение. мы с Елбасы, мы за единство Казахстана! Народ всегда вместе с Лидером!

もちろん国民はこれがたとえ話だったと承知の上だ。我々はElbasy(エールバッシー。ナザルバエフ氏の持つ「人民英雄」という称号)とともにあり、カザフスタンを支持する。我々は常に指導者とともにある!

30年近く責任あるトップの座で苦労してからというもの、ナザルバエフ氏はちょっと口をすべらせたぐらいではその政治的魔力を失いそうになかった。もしこのエピソードに教訓があるとしたら、大統領と報道官たちはいったい何を学ぶことができるのだろう。

リナート・バルガバエフはトップにいる人々に向けて、耳には痛いが役に立つアドバイス [11]をフェイスブック上に記した。

В кризисный период, если нет пока пряников для раздачи, PR должен работать точечно, и очень тонко, чтобы не усугубить ситуацию. Когда субъект пиара любит импровизировать, причем опираясь на свой жизненный опыт, очень важно, чтобы этот опыт был актуальным в текущий момент.

При всем его алармизме в предыдущих выступлениях, он себя уже давно не может оценить объективно, и не принимает свою роль в создании этого кризиса.

При чем, при таких сложных субъектах пиара, как президент, который одновременно является и объектом пиара, т.е. его потребителем, трудно спрогнозировать и тем более регулировать процесс импровизации.

Можно конечно, но, трудно. Например, не вкладывать ему в уста Ленд Крузеры, которые могут обрасти фуа-гра, или, прости, Господи бананами.

重大な局面で分配するケーキがなければ、状況を悪化させないためにタイムリーかつ巧妙に宣伝するとよい。アドリブでどんどん演説を続けたければ、自分自身の経験を踏まえて語ること、その経験が今のこの瞬間にも役立つことが重要である。

このように大統領が自ら宣伝活動を行うという微妙な事例では、アドリブ演説の流れは予測しがたく、まして規制などできない。その演説は同時に自分自身のためだけに行われているのだ。

結局、ナザルバエフ氏はこれまでの演説で警鐘を鳴らしてきたにも関わらず、ずっと自分自身を客観的に評価できずにいる。つまり、この危機を招いた自分の責任を自覚できていないのだ。

まずは彼の口にランドクルーザーをつっこんでしゃべれなくすることだ。その次はフォアグラか、失礼ながらバナナをつっこむことになるかもしれない。

校正:Yasuhisa Miyata [12]