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キルギスタンとカザフスタン間に「トイレ清掃」論争  収束​の目処立たず

カテゴリー: 中央アジア・コーカサス, カザフスタン, キルギス, 国際関係, 女性/ジェンダー, 市民メディア, 政治
Most people can agree, there isn't anything wrong with cleaning one of these. Creative commons.

トイレの清掃をして賃金を得たからといって、悪いことだとか恥ずかしいことだと思うような人はまずいない。しかし、カザフスタンの政府要人は違うようだ。Creative commons

ある大臣の不適切な発言からこの論争が巻き起こった。この論争は外交ルートを通じて取り上げられたり、ビデオ画像が流れたり、はたまた国家賞の授与といった事態にまで発展している。論争は、もういい加減に止めるべきだ。

グローバル・ボイスは、旧ソビエト中央アジアにある兄弟国家間に5月に起こリ6月入っても依然として続いている醜聞を紹介する。しかし、その前に一点、理解しておくべき大切なことがある。

カザフスタンとキルギスタンは、似たような文化や歴史を持ち、概ね協同して国際関係を築いている。しかし、このような二国関係でありながら、カザフスタンは兄、キルギスタンは弟といった位置づけとなっている。

この二つの兄弟国家は同じ年齢であり、ほぼ25歳である。しかし、カザフスタンは、広大な面積を持ち、人口はキルギスタンの3倍で、石油資源に富んでいる。

長兄のご多分に漏れず、カザフスタンは権威主義的で優越感を誇示する。一方キルギスタンは、過去14年の間に2回の革命を体験し、民主化が進み議論好きである。

論争はいつ尽きるかわからない。到底終わらない。

最近二国間に起こった論争が、どのように展開したかをここに紹介する。

1.カザフスタンの文化大臣は、キルギスタンの少女が、賃金を得るためにモスクワでトイレ掃除をせざるを得ないとは残念なことだと語った。

カザフスタンのスポーツ・文化大臣アルスタンベク・ムハメディウリ氏は、5月24日、カザフスタンで開かれた公開イベントでのスピーチの機会をとらえ、キルギスタンの作家チンギス・アイトマートフ氏の文を引用し、自国民に次のように強調した。すなわち、自国よりも貧しくそして民主的な隣国では、すべてがうまくいっていないと。

RFE/RLの報告によると [1]、ムハメディウリ大臣の発言は下記の通りである。

Aitmatov wanted to prevent his people from taking […] senseless steps. And really he forecast those negative events that we have witnessed in Kyrgyzstan. When I go to Moscow, it is painful for me to see how young Kyrgyz girls have to clean public toilets there. Since there are no jobs, no prospects in their country, Kyrgyz have to leave.

アイトマートフ氏は、キルギスタンの国民が、無分別な手段(…)を採らないように願っていた。我々が目撃してきたキルギスタンでの悲惨な出来事を、実際にアイトマートフは予見していたのだ。私はモスクワに行くと、痛々しい光景を目撃する。それは、キルギスタンの少女達が公衆トイレの掃除をしている姿である。彼女たちの国では、仕事も見つからないし、これから先、明るい見通しもない。だから、キルギスタンの人々は国を出て行かなければならないのだ。

大臣の発言は、キルギスタンのソーシャルメディア上で強烈な反発を食らった。

キルギスタンの歴史学者アイヌラ・アルジメイトバ氏は次のように 語った [1]

I suppose this Kazakh official was trying to hint to his people … ‘Look what happened to Kyrgyz people after their revolutions […] It was some kind of a maneuver to distract Kazakh citizens from their problems by offering them our problems to discuss.

このカザフスタンの大臣は、自国民に暗示を与えようとしたのだと思う…。「キルギスタンでは、革命後どうなったか見てみたまえ(…)」というのだ。この発言からは、我々キルギスタンの問題を議論の対象として国民の前に示すとによって、自らの国カザフスタンで起こっている問題を国民の目からそらそうとするある種の魂胆がうかがわれる。

いま、カザフスタンで起こっている問題は多数ある。

10年間続いた経済成長の後に襲った世界的な原油価格の下落により、1800万人のカザフスタン国民の心は動揺している。たとえば、同国内の土地を外国人にも貸し与えようとする政策をめぐり、反対ムードが高まっている [2]

ここ数か月間、カザフスタン社会に不満が高まる中で、政府系メディアは、キルギスタンの血にまみれた最近の歴史的事実、つまり2010年に500人を超える死者を出したキルギスタンの政変を採りあげ、政治集会の阻止をもくろんできた。

Women in Kazakhstan. Wikipedia image.

カザフスタンの女性 ウィキペディアより

2.キルギスタン政府は、外交課題として採りあげる。

翌日、キルギスタンの外務大臣は、カザフスタンのムハメディウリ・スポーツ・文化大臣の発言をめぐり駐キルギス・カザフスタン大使を呼んだ。そして、ロイターによると [3]、キルギスタンの外務大臣は、ムハメディウリ大臣の発言は、キルギスタンが最近カザフスタンのメディアから受けているネガティブな報道に同調するものだと、苛立たしげに指摘した。痛い。

3.モスクワのトイレ清掃に携わるキルギス女性たちが、カザフスタンの大臣に彼女らの心の一端をビデオ動画で訴える。

最初にビデオに登場した女性は次のように言っている。

Yes, maybe we clean toilets, but it is honest work. We are not selling our bodies. We are just feeding our families and we make a big contribution [through migrant remittances] to Kyrgyzstan's economy. I want to tell the Kazakh minister I do not agree with his words. It is not correct. We are not here because life is good, but we have to feed ourselves somehow. Actually among us there are also Kazakh citizens and they also clean toilets. There is nothing to be ashamed of here. We clean toilets and offices. In the 10 years I have been [in Moscow] we have schooled two of our daughters and with God's help we will be able to re-do our home with modern fittings. We clean toilets here but when we go home we are well-respected.

そうですね。確かに私たちはトイレ掃除をしています。でもトイレ清掃は、まっとうな仕事です。体を売っているわけではありません。私たちは家族をしっかりと養っているし、(季節労働で得た金を本国へ送金することで)キルギスタンの経済に大きな貢献をしています。私は、カザフスタンの大臣に大臣の発言には同意できないと訴えたいです。大臣の発言は正しくありません。良い暮らしができるから、私たちはここにいる訳ではありません。とにかく、生活していかなければならないのです。実際のところ、私たちと一緒に働いているカザフスタンの人たちもいます。そして、彼らもトイレ清掃をしています。ここにいるからといって、何も恥じることはありません。私たちはトイレや事務室を清掃しています。私は(モスクワに)10年いる間に、二人の娘に学校教育を受けさせました。また、おかげさまで、近代的な調度品を備えた家に改装することができました。私たちは、ここでトイレ清掃をしていますが、国へ帰ればとても尊敬されているのです。

4.カザフスタンのスポーツ・文化大臣は謝罪し、自分の発言が文脈から切り離されて解釈されてしまったと、コメントした。

だから言っただろう [4]。言わんこっちゃない。

A family in Kyrgyzstan. Wikipedia image.

キルギスタンの家族 ウィキペディアより

5.カザフスタンの外務大臣は対応に苦慮している。事実、この問題は手に負えない状態になっているからだ。

カザフスタンの文化・スポーツ大臣の発言に対する怒りが、キルギスタンでまだ冷めやらぬ中で、カザフスタンのエルラン・イドリソフ外務大臣は、ほぼ1か月後の6月20日に下記のように 発言した [5]

То, что мы видели в блогосфере, это в основном эмоциональные всплески отдельных кыргызских граждан. Ни в коем случае наш министр не намеревался, не хотел, да и не мог никак умалить самый близкий нам народ Центральной Азии.

ブログ上で指摘されている事項は、主にキルギスタン国民の皆様の感情的な反発です。我が国の文化・スポーツ大臣は、中央アジアで最も親密な隣国の国民の感情を害しようとするつもりはないし、そんなことをしようとも思ってもいません。ましてや、しようとしてもできることではありません。

これでこの件に関しては終止符が打たれるのだろうか。そんなことはない。

6.キルギスタン大統領は、カザフスタンの大臣に心の一端を訴えた自国の清掃従事者たちに国家賞を授与する。

アルマズベク・アタンバエフ・キルギスタン大統領は、大混乱に陥っている外交上の小競り合いを楽しんでいる [6]ようだ。そして、清掃従事者たちの「積極的な市民意識」に 感謝の意を表した [7]

Kyrgyz President Almazbek Atambayev. Russian presidential press service. Available for reuse.

アルマズベク・アタンバエフ・キルギスタン大統領。ロシア・プレジデンシャル・プレスサービス。再掲可

キルギスタン大統領は、それでもこの問題を見過ごすわけにはいかない。

7月1日に行われた成績優秀な中学生への「金賞」授与式におけるスピーチで、アタンバエフ・キルギスタン大統領は、カザフスタンの文化大臣に対して一つ婉曲的な当てこすりをしたようだ [8]

Ни в какой работе нет ничего зазорного. Лучше быть уборщицей или дворником, чем вором-министром, который ставит себя выше других. Никогда не стесняйтесь ни одной работы. Любая работа — большая честь.

どんな仕事でも恥じることはない。清掃従事者であったり道路清掃員であっても、ある種の私腹を肥やす行為をするような大臣よりましだ。仕事を恥ずかしがることはない。どんな仕事も、高く評価されるべきものだ。

8. カザフスタンよ、今度はあんたの番だ。

ついに、これで終わりなの?

カザフスタンのフェイスブック利用者リナット・バルギバエフ氏は、この議論はまだ収束していないと考えている [9]

Теперь кто-то из наших должен ответить президенту Кыргызстана что быть министром-вором вообще не зазорно

今度は、我が国の(国会議員)の誰かが、キルギスタンの大統領に向かって、ある種の私腹を肥やす行為をするような大臣だって恥じることはないと言う番だ…。

校正:Moegi Tanaka [10]