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よみがえったユーゴスラビアのコミック「ディカン」のメッセージ 「だれもが皆、移民の子孫」

カテゴリー: 東・中央ヨーロッパ, 西ヨーロッパ, アルバニア, ギリシャ, クロアチア, コソボ, スロベニア, セルビア, ブルガリア, ボスニア・ヘルツェゴヴィナ, マケドニア共和国, モンテネグロ, ルーマニア, ユーモア, 市民メディア, 教育, 文学, 歴史, 民族/人種, 芸術・文化
"Finally us, the Early Slavs, have inhabited the Internet, too. We bid you a warm welcome and pleasant stay." Featured image from Dikan.rs website. [1]

「とうとう俺たち古代スラブ人の活躍がインターネットでも見られるようになったぞ! ようこそこのサイトへ、どうぞごゆっくり」 (画像はwww.Dikan.rsより)

 

「ディカン」は旧ユーゴスラビアで最も人気がありユーモアのあるコミックの一つであった。それが書籍という形でよみがえったのは、セルビアの出版社2社の尽力があったからだ。

「ディカン」 [2]は1970年代から1980年代に広く読まれ、タイトルキャラクターのディカンとおじのヴコエが古代のバルカン諸国を巡る冒険の物語が読者に支持されていた。著者のラゾ・スレタノビッチ [3]は、雑誌「ポリティキン・ザバニウク」 [4]の編集者で脚本家のニコラ・レキッチのアイデアからコミックの着想を得た。ニコラ・レキッチが思い描いた [5]ディカンはフランスのコミック「アステリックス」 [6]のユーゴスラビア版で、史実に基づきながらも世界中で通じるユーモアと軽い風刺が混ざり合っている。

避難先を求める記録的な数の難民の受け入れにヨーロッパ各国政府が消極的な昨今、「ディカン」は我々が皆何らかの形で移民の子孫であるということをタイムリーに思い出させてくれる。

第1作目は早々に売り切れ、第2作目も出版社が増刷を計画するほどに成功を収めた。さらに復刻していない「ディカン」の話で2冊を出版し、復刻版は合計4冊となった。彼らはまた、面白いコミックの断片をソーシャルメディア [7]に投稿した。例えばこのサルマティア人 [8]の国で作られた、文字通り頑固さと強固さを推し量る装置の略図などである。

"Hardheadedness-Meter (Oil well before use!) A man A stands on the platform B whose height is regulated by the lever C. The hammer D is raised to the height of E and then released to hit on the head of A. The hammer’s rebound is directly proportional to the hardness of the head, so the arrow F points to the degree of hardheadedness." Artwork by Lazo Sredanović.

「石頭度測定器
(使用前に十分油をさすこと!)被測定者Aを踏台Bの上に立たせ、身長に合わせてレバーCで踏台を調整する。ハンマーDをEの高さまで持ち上げ、手を離してAの頭上に落とす。ハンマーの反発はAの頭の固さに正比例する。ゆえに矢印Fは石頭度を指す。」(イラスト:ラゾ・スレタノビッチ)

「ディカン」はとりわけ、5世紀ごろからヨーロッパ中を大移動した数多くの民族の一つ、古代スラブ人 [9]を揶揄(やゆ)している。古代スラブ人の文化と遺伝子がその基礎を形成している現代のスラブ系民族 [10]は、古代と同様に、現在中東欧で暮らす人々の大多数を占めている。

「ディカン」のなかで古代の人々をさす言葉は、「古代」という意味での「旧スラブ人」であり、現在の読者について言及する時は「新スラブ人」という用語を用いている。「ディカン」の初めの頃の話で、ディカンとそのおじはスラブ民族の植民に先立ちバルカン諸国を探索しながら事前偵察者のような役割を果たした。

1990年代のユーゴスラビア解体後、スラブ民族が多く住む国の修正主義や国家主義の歴史家たちの中には、民族大移動 [11]の考え方を嫌った者もいた。彼らは「我々ずっと先祖代々の土地におり、それ以外はすべて移住してきた新たな人々である」ということを証明しようとした。これは先祖代々の土地の所有権を証明すれば今日でも特権的地位が与えられるという根強い思い込みがあるためだが、この考え方はギリシャ、アルバニア、コソボ、ルーマニアなどバルカン半島の非スラブ諸国で国家主義者の動員にも利用されてきた。

後に「ディカン」は当初の設定枠を飛び出し、風刺的なSFバージョンでユーゴスラビア [12]を強国として描いた。これは、メルブルックスの映画「珍説世界史PARTI」 [13]で石器時代や遠い未来が出てくるのと同じ手法だ。

Emperor Justinian, as character in Dikan comics.

皇帝ユスティニアヌスも「ディカン」のキャラクターのひとり

例えば、「ディカン」の公式ウェブサイト [14]では、ユーモラスな方法で復刻版出版に至るまでのあらましを紹介している。コミックのキャラクターによる「証言」特集だ。キャラクターの中にはバルカン半島で生まれ、再征服者、立法者として知られるビザンチン帝国の皇帝ユスティニアヌス [15]のような歴史的な人物もいる。

„Сви ми кажу Јустинијане, који си ти цар… Елем, шта сте ме питали? Шта мислим о Дикану? Ух… Ти Стари Словени су стварно велика напаст. Нешто између илегалних имиграната и политичких азиланата. Не можеш да их ухватиш ни за главу, ни за ноге. Зато бих прескочио ово одговор на ово питање.“

みなが私に言うのだ。「ユスティニアヌス、あなたはそれでも皇帝ですか?」と。ところで、あなたがたの質問はなんだったかな? ディカンについての私の意見? あ~彼ら古代スラブ人は凄く厄介者なのだよ。不法移民とも政治亡命者ともつかない者たち。彼らには誰もがてこずるのだ。だからこの質問は聞かなかったことにするよ。

校正:Naoko Mori [16]