フィリピンの首都マニラから車で南に約2時間、カビデ州マラゴンドンに風光明媚なパトゥンガンの入り江がある。ここには漁業と農業で暮らしをたてる家族が、少なくとも353世帯居住している。住民たちは今、エコツーリズムと不動産開発プロジェクトを進めるための居住地区の取り壊しに直面しているのだ。
住民を立ち退かせるために派遣された軍や警察の前で、地元の人々は互いに結束し、この地域を守ろうとしている。住民たちの運動「パトゥンガンを守れ!」を通して集まった人々は、取り壊しを阻止するためにバリケードを築いている。
警察と軍を合わせて1000人の隊員が破壊を始め、8月22日と23日に少なくとも17の家屋を壊した。パトゥンガンの入り江をめぐって、マリア・テレサ・ビラータ・プロパティーズ・アンド・ホールディングス・コーポレーションからの要求に基づく破壊命令は、7月12日以降裁判所により承認されている。
漁民を支援する全国的組織パマラカヤの主導により、さまざまな人々の団体が、9月3~4日パトゥンガンで「国内現地調査および連帯ミッション」(訳注:現地を調査し解決法をさぐる活動)を行った。パマラカヤの代表フェルナンド・ヒカプ氏は、調査結果の一部を公表した。
Residents can’t go in and out of their community by land because the stationed security guards will block and harass them; they use boats for transportation either which is relatively expensive than taking a walk. We are investigating for a possible martial-law style of hamletting in Brgy. [village] Patungan.
住民は、自分たちの集落に陸から入ることも出ることもできません。というのも、配置された警備員によって通行の阻止や嫌がらせを受けるからです。また住民は移動にボートを使っていますが、それは徒歩よりも費用が高くつきます。パトゥンガンのような小さな村に対して戒厳令的手法をとっている疑いで、現在調査中です。
住民はその派遣団の代行人に次のように語った。「破壊クルーは催涙ガスや空弾(訳注:発射音だけが出る仕掛けの弾丸)を使いましたが、抵抗する群衆を追い払ったりバリケードを壊したりすることはできませんでした」警察や警備のために集められた要員が、現在まで、パトゥンガンを包囲し続けている。
1世紀を越えて漁業集落であったパトゥンガンに押し寄せた動きは、フィリピンで最も裕福なヘンリー・シー氏が所有するマニラ南岸開発会社(MSDC)が背後にあると言われている。
「パトゥンガンを守れ!」のスーザン・アグナー氏はこう話す。
Our forefathers have long been here, 150 years ago. They were the ones who cleared the area to be suitable for residential purposes. Now a giant ‘developer’ and Henry Sy suddenly came and want us to leave the land where we grew up to pave way for their money-making ventures.
私たちの祖先は、この地に150年前からずっと住んでいます。祖先は、この地区を住みやすい土地にしようと切り開いてきました。今、巨大な開発業者とヘンリー・シーが突然やってきて、事業を興し儲けるために、私たちが育ったこの地を手放すよう主張しました。
MSDCは隣接するハミロ・コーストのピコ・デ・ロロ・ビーチリゾートを所有する。居住者によると、この会社の拡張計画では、パトゥンガンの602ヘクタールにおよぶ漁業と農業の集落を、専用リゾート及びツーリズムの中枢としようとしている。パトゥンガン周辺の地域は、海外の企業が所有するものも含むさまざまなリゾート地域でもある。MSDCは集落の破壊への関与を否定している。
パトゥンガンの住民にとって、集落の土地収奪問題は、新政権への試金石となるだろう。貧しい人々に移住先を与えない取り壊し命令はすべて中止するという誓約を、政府が実行するかどうかが注目されている。