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ざわめくブエノスアイレス : 路地で飛び交う言葉の切れはし

カテゴリー: ラテンアメリカ, アルゼンチン, 市民メディア, 芸術・文化
Translation: "I don't wanna be a princess. Princesses can't climb trees." — Girl of about 5 to a young woman, Barrio Atlaya, Isidro Casanova. Saturday. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

訳:お姫様なんてなりたくないの。お姫様は木に登れないもん。
5才くらいの女の子がある若い女性に向けて イシドロ・カサノバ市アタラジャ地区 土曜日
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

この記事は当初マリア・ミュエル [1]が2016年8月24日にPRI.org [2]に発表したものである。記事の共有合意の下、ここに再掲する。

あなたはブエノスアイレス、パレルモ地区にあるカフェに座っている。あなたと席が隣り合うその恋人たちが何を語り合っているのかよく聞こえないが、二人の話し声がとぎれとぎれにあなたの耳に入るのだ。もしかすると、こんな感じかもしれない。「あなたとの愛に浸る以外、私には何もないって思っているのね」 [3]

さて、こちらの話し声、実は地下鉄で耳にされたものだった。しかし、偶然にもエキセル・マンデルボーム氏とタチアナ・ゴールドマン氏がパレルモ地区にあるカフェを訪れた、5年ほど前のある日、不意に彼らのもとに聞こえてくるその脈絡のない話しは、妙に好奇心をかきたてることに気付くと、二人はお互い口を閉じたのだった。

ただひたすら耳を傾けたのだ。

下記のPRI.orgでこの話を聞いてほしい

マンデルボーム氏は、こう話す。「彼らの話の一部始終を僕らが理解していたわけではないんだ。だけどそれこそが僕らの心をくすぐったんだ」

注記:ここに掲載するフレーズのほとんどはそのままの素晴らしさをのこして翻訳することはほぼ不可能である。しかし可能な限り近づけて翻訳している。

"What confidence we Argentines have to do whatever the flying f-ck pleases us." — Man of about 25 to another. Friday. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

思うがままなんだよ、俺らアルゼンチン人は。ありとあらゆる会心の凄ワザで。
25才くらいの男性がもう一人に向けて 金曜日
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

どうあれ、あの日二人の心に浮かんだものは、遊びの域をはるかに超えていた。La Gente Anda Diciendo [4] (訳注:人々が言っている)では、「シャレの利いた人類学的な」眼差しで、特にその首都に暮らすアルゼンチンの人々の、ものの見方や生き方を垣間見るのだ。マンデルボーム氏とゴールドマン氏はブエノスアイレスの地元の人々のもつ(たとえ子どもたちであっても)愛と人生における、その冷静な眼差しで笑いを誘う発言や、歯に衣着せぬ物言い、そして自由な姿勢をあらわにする、ブエノスアイレスの人々の息づかいを感じさせるフレーズを集める。

「ブエノスアイレスでは、(面白い話しを耳にするのは)ありふれているんだ」とマンデルボーム氏は言う。「というのも、アルゼンチンの人たちは声を張り上げて話すからなのかもしれないし、それは裏を返すと僕たちが上品ぶるようなことはしないからなのか、何とも言い難いところだよ。バスに乗車中であろうと、大声で婦人科の先生に相談することだってあるだろうし……アルゼンチンの人たちは日常的に心理カウンセリングを受けるんだけど、パートナーとの込み入った事情を分析する誰かの話し声が、だだ漏れなんてことはここではよくあること」と話す。

"Will you buy me a toy so I can stop busting balls?" — Boy, approx. 4 years old, to his parents. Friday, 7 p.m. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

おもちゃ買って。そしたら僕いい子になるって約束してあげようか?
4才くらいの男の子が両親に向けて 金曜7時の晩
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

"Yo, can you pay for tits with a credit card?" — 25-year-old woman to another. Bus. 2 pm. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

ねぇ、ちょっと、両方のおっぱいクレジットカードで払えるかもしれないって知ってた?
25才の女性がもう一人に向けて 午後2時のバス
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

"Think of it this way: A baby is like a dog that you can, later, ultimately, teach how to talk." — Man of around 25 to his girlfriend. Transit station. Saturday, 12:40 pm. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

こうやって考えろよ。赤ん坊っていうのは、犬みたいなもんだって。あとあと、最終的に話すのを教えることができるのが赤ん坊ってことだ。
25才くらいの男性がガールフレンドに向けて 乗り継ぎ駅にて 土曜日 午後12時40分
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

"Excuse me, sir — you've never been pregnant so you don't get to opine." — Woman of about 40 to a 35-year-old man. Wednesday. 10:45 am. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

ちょっといい?っていうかあなた妊娠したことないでしょう。だったらあなたが意見言う権利なんてないわよ。
40才くらいの女性が35才の男性に向かって 水曜日 午前10時45分
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

はじまりはブエノスアイレスの至る所で耳にしたフレーズを書き留めたことから、それらを一冊の本にまとめたのだ。フレーズを集め続けて9ヶ月経った頃、二人は集めたフレーズをフェイスブックへ投稿することにした。一夜のうちに、彼らは何百というフォロワーを増やしたのだ。それが次第に何千、何万と変わっていったのだ。

人々を引き寄せるその魅力は、いくつものフレーズに散りばめられた痛快な描写に加え、そのフレーズが物語る数々の情景だ。このプロジェクトにおいてフレーズを見極める際、求められてくるのがアートを見る目なのだ。

「会話の断片に触れたとき、あなたの目の奥に浮かび上がる像と結びついて、物語が形づくられるんだ」とマンデルボーム氏は言う。「(僕らが選ぶのは)心に語りかけるフレーズ、つまりあなたの想像力を刺激するもの。それがすごく面白い」と語る。

今や全てのフレーズがそのファンから差し出されるのだ。このアートを成り立たせる最も重要な要素はひと際、重要だ。つまり、フレーズは聞かれることで、この時はじめて文字になるのだ。

"Don't be sad. Sadness grows in the cold." — Passerby to young weeping woman walking. Friday. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

悲しまないで。こんな寒さだと悲しみだって膨れ上がる。
通りすがる人が涙を流す女性に向けて 金曜日
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

"Look, you have to live life with a partner. It's always been hard. The problem is you guys don't try anymore." — Man of about 60 to a man of about 20. Plaza Constitución. Thursday. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

いいから聞きなさい。パートナーと歩む人生を生きろ。幾つであろうと人生ってものは厄介なことばかり。何が問題か、それは君らがこれ以上向き合おうとしないってことだ。
60才くらいの男性が20才くらいの男性に向けて コンスティトゥシオン広場にて 木曜日
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

 

"Mom, you won't like what I'm gonna tell you, but I have to say it. At school we ate meatloaf and it was better than yours. I still love you, though." — Kid of about 6, walking and recording an audio message on his dad's phone, holding his hand. 4:30 pm. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

ママ、僕がこれから言うこと、ママは絶対嫌がるよ。だけど、言うね、僕。僕たち学校でミートローフ食べたんだ。でね、ママのより美味しかった。それでも僕、ママが大好きだからね。
6才くらいの子どもが歩きながら父親の携帯で音声メッセージを録音する。父親の片方の手をにぎりつつ。午後4時30分
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

「直観を研ぎ澄ませるんだ。(どれが作り話かは伝わってくる)」と編集者として広報で働くマンデルボーム氏はそう語る。「聞きながらペンを走らせる。間を開けてメモに残そうとすると、頭の中でそのフレーズを編集してしまうんだ」

彼らはモトローラの後援で南米を巡りフレーズを集めた。二冊の本を出版した。彼らに触発された他の複数の都市や国々では同様のサイトがそれぞれつくられたのだ。

まだ終わらない。マンデルボーム氏は、ゴールドマン氏と共に描く今後の展望は、物書く人々がそのいくつものフレーズからインスピレーションを受けて言葉を紡ぐことだと述べるのだ。

このように飛び交ういくつものフレーズと共に、彼らの目標が達成できないわけがない。

"See that you can? You can do anything in this life." — Mom of about 30, wiping her 9-year-old's boogers. Tuesday. Credit: La Gente Anda Diciendo/Facebook

ほら、出来たでしょう。人生で達成できないことなんてないのよ。
30才くらいの母親が彼女の9才の子の鼻クソを拭いながら 火曜日
制作 : 「人々が言っている」フェイスブックページより

校正:Masato Kaneko [5]