ボビナム:政治史が色濃く絡むベトナム生まれの武道

Vovinam Club from Belegny, Belgium visits Saigon to practice with young practitioners. Photo from Loa.

ベルギーはブレニーのボビナムクラブが若い道場生たちと稽古するためにサイゴンを訪れた。写真はLoa提供

チーリン・ディンによるこの記事はLoaが提供している。Loaはベトナムの話題を配信する独立したウェブサイト兼ポッドキャストである。コンテンツ共有の合意の元、この記事をグローバルボイスに転載する。

肌寒い日曜の午後、トロントのコミュニティーセンター内。床がきしむ。室内は活気に満ちあふれている。武道の稽古中だ。空色の道着に黄色い帯を締めたタイ(師範)の1人が、ドン(突き)と叫ぶ。

師範が技の名称を叫ぶと、整列した道場生たちは師範の号令に合わせて躍動する。彼らは皆ボビナムの道場生だ。

タイ・ルゥ・ドゥック・ティエン氏は説明する。

Vovinam was founded by master Nguyễn Lộc. The founding master named it Vovinam, short for Võ Vietnam, or Vietnam martial arts. But the pronunciation is Vovinam so foreigners can easily read and remember it.

ボビナムは創始者グェン・ロックにより設立されました。創始者は、これをVovinamと名付けた訳ですが、これはVo Vietnam(ボゥ ベトナム)の略、すなわちベトナムの武道なのです。ただ、ベトナム以外の国の人々でも簡単に読んで覚えられるようボビナムと発音します。

タイ・ティエン氏は、初心者から上級者の各稽古を視察しながら道場を静かに見守っている。彼はもう教えるわけではない、引退している。しかし彼が道場を訪れると道場生たちは稽古を中断し、敬意をもっておじぎをする。

タイ・ティエン氏によると、創始者グェン・ロックがボビナムを教え始めたのは1930年代であった。「初の稽古はハノイのシウ・ファム道場で始まり、そこで1954年まで発展したのである」

タイ・ティエン氏によると「創始者ロックは1912年ハノイのすぐ西側にあるハオ・バン村で生まれたが、1954年の政治情勢の変化、つまりベトナムを南北に分断したジュネーブ合意を受けて南ベトナムへの移住を強いられた」。創始者ロックが「1960年に亡くなるまでボビナムを広め」続けたのは南ベトナムだった。

タイ・ティエン氏はさらに続ける。

After 1966, Vovinam expanded widely and was introduced to the public education system in South Vietnam. After 1975, Vovinam was outlawed by the Communist government. All the students and the masters continued under the radar, underground, until December of 1978, when Vovinam was again legalized.

1966年から後、ボビナムは広く知られるようになり、南ベトナムの学校教育に紹介されました。1975年以降、共産主義政府により禁止されましたが、すべての道場生と師範たちは目立たないよう密かに稽古を続けたのです。1978年12月にボビナムは再び合法化されました。

ボビナムはフランス占領下のベトナムで誕生した。それはベトナム国内各地で見ることのできた既存の格闘技・武術の技法を効果的に取り入れた武道である。創始者ロックは同胞の間に希望と愛国心を教え込むための求心力を作り出したかったのだ。彼はボビナムを個人の発展のためだけでなく、国への貢献を手助けするための手段であると考えていた。

Practitioners and instructors practicing Vovinam. Photo from Loa

道場生と師範たち。ボビナムの稽古中。写真はLoa提供

ボビナムの道着は今日に至るまでその希望を映し出している。

Unlike many other martial arts, the Vovinam uniform is sky blue,” says Thầy Tiến, and “the blue color symbolizes hope for change in our country and change within each Vietnamese person according to the philosophy of reforming your mental state.

他の武道とは異なりボビナムの道着は空色です。タイ・ティエン氏は語る。「この青い色は、私たちの国が変化することへの希望、そして精神を改革するという哲学の元にベトナム人ひとり一人の内面が変わるということへの希望を象徴しています」

各段階の帯の色は段級を表すことに加え、それぞれが象徴的な意味を持っている。初心者は道着と同じ空色の帯を締める。昇段、昇級した時、帯の色は空色から濃い青色、黄色、赤色と変化する。帯の色の変化は、道場生がボビナムを習得するという目標へ一歩一歩近づいていることを意味している。空色は空を意味し、濃い青色は海を意味する。道場生の進歩につれ、黄色は奥深く熟達した彼らの皮膚を象徴し、赤色は血を意味する。

創始者ロックは最高師範として白帯を許された。彼の熟達度は骨にまで達したのだ。他の師範の中では唯一、グェン・ロックの後継者である最高師範レー・サンが白帯を取得している。

Masters are awarded the red belt, signifying a mastery of Vovinam at the blood level. Photo from Loa

熟達者は赤帯を授与される。血の色のレベルはボビナムの熟達を意味する。写真はLoa提供

ボビナムが、なぜ他の武道に比べて激しい攻撃の型を持っているのか? それはボビナムが植民地化政策への反動として創始されたという事実からわかるだろう。打撃の多くが激しく早い。それらは技巧や優雅さよりもむしろパワーとスピードに依存している。

ボビナムを世に知らしめた特徴的なテイクダウンの1つを説明しながら、タイ・ティエン氏は語る。「数ある武道の技の中でも、ボビナムは他の武道とは異なるユニークな型の技を持っています。それはカニ挟みによるテイクダウンです。空中に飛び上がり両足で相手の首を挟み地面に倒す技ですが、ボビナム独特の技法です。」

ボビナムはベトナム独特の武道だ。それはアクロバティックな型だけではない。道場生は身体能力だけでなくボビナムの理念に対する理解度も試される。そして、どこでボビナムを教えようと、指導する言葉は常にベトナム語であり、どの道場も、常に、誰に対しても開かれている。

トロントのコミュニティーセンターでの稽古もそろそろ終わりだ。今日は新しく2人の道場性が入門した。緊張しているようだ。タイ・ティエン氏は根気強く、初めての帯の締めかたを教える。他の道場生は右手を胸にあてて師範にお辞儀をする。そして彼らは一斉に最後の掛け声をかける。ボビナムの稽古の伝統的な終わり方だ。

ポッドキャストを聞いてボビナムをもっと知ろう。

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