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​謎の油様物質 マケドニアとアルバニア国境にあるオフリド湖を汚染

カテゴリー: 東・中央ヨーロッパ, アルバニア, マケドニア共和国, デジタル・アクティビズム, ニュース速報, 健康, 国際関係, 市民メディア, 災害, 環境, 経済・ビジネス, 行政

オフリド市:オフリド湖の船着き場 異常低水位と油の流入 写真提供:オフリドSOS 使用許可済み

​ ​マケドニア共和国南西にある観光都市、オフリド市の住民は今週、オフリド湖岸の眺めにショックを受けている。​同湖は​​ ヨーロッパ最古​の湖 [1]で​かつては深く澄んだ水を誇っ​ていた。その湖岸​の土壌が油様液​​体に覆われ​た​ヘドロ​と化してしまったのだ。

​オフリド湖 [2]及び湖岸一帯は、ユネスコの世界遺産に登録されている。また、地球上の他の場所には見られない212以上の固有種が存在​​するといった生物の多様性に富んだ自然環境 [3]を備えている。ヨーロッパ最古という理由から、研究者たちはオフリド湖を進化の生きた証といっている。­­­­­​​

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平常水位時のオフリド湖 写真提供: MatriX at English Wikipedia(パブリックドメイン)、 Wikimedia Commons経由

​湖岸一帯の都市化による悪影響を阻止しようと奮闘してる民間主導団体のオフリドSOS [5]は、2017年2月13日、底地をあらわにし油様物質に覆われた湖岸の写真を掲示して注意を促した。このことが、マケドニアのソーシャルメディアに大論争を巻き起こした。多くの人が地方及び国当局の責任を追及しているのだ。オフリド市民でもあるオフリドSOSのアンアウドフ氏は汚染の原因を理論的に説明している。

This is definitely caused by a human factor. Whether it is done consciously or by accident we cannot know. Our doubt is that somebody has been using the sewage system to discharge burned oil, to avoid paying to dispose of them adequately. A lot of people from a neighborhood located several meters from the lake have been complaining that they are feeling a strong smell of oil for the last couple of weeks.

​これは、間違いなく人為的原因によるものだ。故意か事故かは分からない。適正な処分料金を払わずに処分しようとして何者かが、廃油の放出先として下水道を利用した疑いがある。湖から数メートルのところに住む住民の多くは、この2週間油の強烈な匂いがしていると不平を漏らしている。

写真提供:オフリドSOS 使用許可済み

​政府当局は、今回の環境災害に関しては沈黙を保っており、これまでのところ公式発表は出されていない。

​低水位

​付近住民の記憶では、こういった状況が生じたのはオフリド湖の水位が法定最低水位の下8センチにまで下がった後一か月してからである。こうなった責任は、 国営電力会社ELEM [6]、すなわちマケドニアの発電所にあるのではないかと、オフリドSOS及び付近住民は疑っている。エレム(訳注:ELEM マケドニアの国営電力会社)は、オフリド湖からドリン川へ流出する水量を管理している。この川の水は、アルバニアまで流下する間に設けられた水力発電所の発電源となっている。そして、1月に水量が増えたようにみえる。この時期は、まだ雪は溶けておらず、水源は凍っているときである。
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エレムのお偉方、地方当局及び各部署のその他の専門家の方々。大自然は、写真のアシの茂みの線の通り、湖の水位はどれだけの水位を保つべきかを示しています。

​1月最後の週に、 オフリド市公益科学法人水生生物研究所 [9]は、エレムに対してオフリド湖からの流出水量を減らすよう正式な要望書 [10]を提出した。オフリド湖の憂慮すべき水位低下は、浅瀬に生息する生物の存続に直接悪影響を及ぼすというのだ。これに答えて、 エレムは以下の声明 [11]を公表した。「オフリド湖からは決められた水量以外は流出させていない」また、現況を考慮して発電量を調整してきたと、言っている。

​写真提供:オフリドSOS 使用許可済み

​しかし、オフリドSOSは、「今回の異常低水位の主因はエレムにある。手遅れになる前にオフリド湖を救うために、ドリン川に設置された水力発電所への水門を閉鎖するようエレムに要求する」と、強く訴えた [12]

​オフリド湖は、マケドニアとアルバニアの国境線上にある。エレムが声明を発表したわずか数日後に、オフリド湖のアルバニア側湖岸にあるポルガデツ市の住民及びメディアは、オフリド湖の水位低下によって生じた惨状を示す動画 [13]と写真を公表し、エレムの責任を追求した。

​世界遺産が危機的状況に

​オフリド湖の状況は、ユネスコ世界遺産登録抹消の危機に陥りかねない。昨年、ユネスコのオフリド地域調査団は同地域を視察した後、多くの懸念事項を指摘し、対策を講ずるよう要請 [14]した。

A number of large-scale infrastructure projects have been proposed within the property and that the conclusions of the impact assessments of the proposed Galičica Ski Centre, the A3 road, the Railway corridor VIII and Highway A2 demonstrate that these projects would be likely to cause significant potential impacts on the Outstanding Universal Value (OUV) of the property, and considers that these projects appear to represent a potential danger to the property.

オフリド地域の自然遺産及び文化遺産の区域内で大規模な社会基盤整備事業がいくつか計画されている。計画中のガリシア・スキーセンター、A3道路、鉄道回廊VIIIおよび幹線道路A2の環境影響評価の結果、これらの事業は同区域の「顕著な普遍的価値(OUV)」に明白な潜在的影響を及ぼす可能性があるとされ、オフリド地域に対して潜在的危険性を突きつけると思われる、と評価された。

​世界遺産センター・国際記念物遺跡会議(イコモス)・国際自然保護連合の3者によるリアクティブモニタリング調査が今年3月に実施されるとの宣言が出された [15]。その時点で、オフリド地域を世界遺産の危機遺産リストに登録するか世界遺産リストから削除するかの決断が下される。

​1979年に世界遺産リストに登録されて以来、オフリド地域はユネスコの指定を高らかに掲げ観光客を集めてきた。世界遺産に指定されたおかげで、実に 多くの外国人観光客がこの地に引き寄せられてきた [16]。オフリド地域にとって、観光が最大の収入源となっているので、ユネスコの指定を失えば地域住民の生活は大打撃を受けることになるであろう。

校正:Atsuko Komatsu [17]