- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

サッカーに恋して:インドの少女たちがサッカーから教わった女性の生き方

カテゴリー: 南アジア, インド, スポーツ, 人権, 写真, 女性/ジェンダー, 市民メディア, 教育, 開発
[1]

イメージ写真: Pixabay

この記事はもともと「ビデオ・ボランティア」に投稿された [2] ものである。「ビデオ・ボランティア」はインドを拠点に活動する、受賞歴のある国際的コミュニティメディア団体である。コンテンツ共有の合意のもとに編集し、ここに掲載する。

10代の少女プーナムは、北インドのウッタル・プラデーシュ州の都市 ヴァーラーナシー [3]に住んでいる。以前のプーナムは、女の子はおとなしく家にいて、やがて結婚するものと信じて疑わなかった。しかし、「女の子たちは自由に生きるべきだって、今は思うわ」とプーナムは言う。何がプーナムを変えたのだろうか?それは、スポーツである。プーナムは、同じ地域の多くの少女たちと共にサッカーを習っているのだ。

マヒラ・スワロジュガー・ソミティ [4] (MSS)という組織では、ヴァーラーナシーの10代の少女たちに向けて、サッカーを通じて彼女たちのアイデンティティーを形成し、また、女性であるということにもっと自信を持つよう手助けをしている。MSSのプロジェクトディレクターのレッカ・チャウハーンは、こう言っている。

When these girls play, they play very freely: they don’t care if anyone is staring at them, their breasts. It’s an expression of complete freedom as if they are flying in the playground!

彼女たちがサッカーをするとき、心から自由にプレーしているわ。誰かに見られている、自分たちの胸がじろじろ見られている、なんて全く気にしていないの。彼女たちは本当に自由を満喫しているわ。まるでグラウンドの中を飛んでいるようでしょ。

インド社会にはびこる性差別によって、思春期の少女たちは様々な局面で困難にさらされている。中等学校の中退率は、男子生徒に比べて女子生徒が 圧倒的に多い [5]。 さらに、思春期の少年たちに比べ、より多くの  思春期の少女たちが、栄養失調 [6]や標準体重以下となっているのである。また、インドでは15歳から19歳の少女たちの半分以上が  貧血にかかっている [7]のだ。

こういった障害は、女性の行動や自由を完全に奪ってしまう国の社会的制約から来ているのである。

スポーツをすることは男性的であると考えられているため、 この風習に抗いながら [8]スポーツをする女性が非難を受けることもよくある。 たとえ家族が協力的であっても、女性が軽視される社会制度では、貧しい家庭で育った少女たちがスター選手になる夢は諦めなければならないこともよくある。しかしながら、キックボクシングの世界大会で金メダルを獲得したカシミール出身の8歳の少女、 タジャムル・イスラム [9]のように、彗星(すい星)のごとく現れた彼女の成功は少女たちに多大な影響を与えるのである。

MSSのプログラムでは、少女たちがもっとスポーツに触れる機会を増やそうとしている。そのため、少女たちが互いに誘い合いスポーツのできる場所を建設している​​。

MSSでは、ヴァーラーナシーの貧困家庭出身の少女たちを集め、1グループ20人の少女たちから成る25個のグループを作り、性差別、家父長制、女性としての心と体、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)について話し合い、もちろん、サッカーもする機会を定期的に設けているのである。

MSSのスタッフとしてこのプログラムを指導しているネハは、サッカーを通じて少女たちが、より自信をつけていく様子を自身の目で確かめてきたと語っている。

It energises their whole body and boosts health and also plays a crucial role in shaping their sexuality.

サッカーをすることで、少女たちは体全体にエネルギーを得て、健康状態も良くなります。また、サッカーは女性としてのアイデンティティーを形成する重要な役目も果たしてくれるのです。

最初のうちは、両親とともに少女たち自身もMSSのサッカーを教えるという決定に疑問をいだいていた。10代のレッカ・バラティもそんな少女のうちの一人である。

I had never even seen a football before in my life! I want to change my parent’s perspective so that they stop differentiating between sons and daughters.

私は今までの人生で、サッカーなんて見たことがありませんでした。ただ、息子と娘を性別で区別をする両親の考え方を変えたかったのです。

MSSのグループに所属している少女たちの4分の3は学校に通っており、そのうち5人もの少女は既に結婚をしている。少女たちは、ダリット(かつて不可触民と呼ばれた階層)として差別をされている家庭や、イスラム教徒のコミュニティの出身である。MSSのグループに参加して以来、家族の考え方を変えるための確かな一歩を踏み出すことができた、と言っている少女たちもいる。インドでは低年齢での結婚は表向き違法とされているにも関わらず、貧しいコミュニティでは10代での結婚は手柄とされている。そのような環境でも、少女たちの何人かはMSSに参加したおかげで、この結婚から切り抜けることさえできたのである。

サッカーのように一見影響の無いもののようでも、このように大きな社会的変化をもたらすことが可能だということが分かった、とレッカは語る。「サッカーは今でも疑いなく男性のスポーツです。少女たちがそんな男性社会で成功したら、どんどん自信をつけていくでしょう。そして、彼女たちにとってタブーとされてきたこともできると信じ、彼女たちを取り巻く他の制約も取り払いたくなるのです」

実際に、チームスポーツは、思春期の少女たち、特に貧困家庭で育った少女たちにとって、自尊心を高める効果的な方法であると世界中の研究で確認されている。MSSをはじめ、このような活動を行っているグループは、国中のコミュニティに一歩先の道筋を示したいと望んでいる。

上記の映像は、ヴィカルプ・サンガム氏の協力のもとビデオ・ボランティアにより制作されたものである。ビデオ・ボランティアのメンバーであるウッタル・プラデーシュ州ヴァーラーナシー市チョーラプール村出身のシャバナム・ベガム氏に対して特に謝意を申し上げる。シャバナム氏は、シャップシャガイ・シクシャン・キンドロの組織に参加し、様々なトレーニングの実施に協力していただいた。この記事はマドゥラ・チャクラバティにより書かれたものである。
校正: Motoko Saito [10], Masato Kaneko [11]