聞いて触って! 日食観測アプリ

(原文掲載日は2017年8月19日です。また、記事中のリンク先には英語のページも含まれます)

アプリの「ランブル・マップ」機能のベータ版。画像:キャロライン・ビーラー(PRI)

キャロライン・ビーラーによるこの記事は、2017年8月11日にPRI.orgで公開されたものです。コンテンツ共有の合意のもとにグローバル・ボイスに転載しています。

まるでなぞなぞのようだ。8月21日に米国を横断する日食を、目の見えない人が「観測」するにはどうしたらいいか?

これは、太陽宇宙物理学者のヘンリー・ウィンター(通称トレイ)氏が、目の見えない同僚に日食はどんなものかと聞かれて以来数か月考えている問題だ。

「まったく予想外の質問でした。生まれたときから盲目の人に、日食とはどういう現象なのか説明する方法が、さっぱり思いつかなかったのです」とウィンター氏は語る。

ウィンター氏は、ある友人から聞いたことを思い出した。日食で太陽が月に隠れたとき、真っ昼間なのにコオロギが鳴き始める理由についての話だ。そこで、質問をしてきた同僚にそのコオロギの話をした。

「その同僚の女性はとても驚いた様子でした。私は全国を回って、多くの人々にこの感動と畏敬の念を伝えたいと思いました」

ウィンター氏は、マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード・スミソニアン天体物理学センターに勤務している。この一件から彼は、「今夏の日食を視覚障害者が体験するためのサポート」に特化したアプリを開発することに決めた。

マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード・スミソニアン天体物理学センターにて、太陽の映像を映したビデオウォールを示す、太陽宇宙物理学者のヘンリー・ウィンター(通称トレイ)氏。画像:キャロライン・ビーラー(PRI)

「視覚障害者のコミュニティは、昔から天文学や宇宙物理学の蚊帳(かや)の外に置かれてきました。これはひどい欠落であり、今こそこの問題を解決するときだと思います」とウィンター氏は言う。

8月10日に公開された「エクリプス・サウンドスケープ(日食の音の風景)」はiPadとiPhone対応のアプリで、ユーザーの位置情報に合わせた日食の様子をリアルタイムの音声ガイドで聞くことができる。

また、「ランブル・マップ(ガタゴト地図)」機能では、過去の日食の写真にタッチして、日食の現象を音で聞いたり触ったりすることが可能だ。

真っ黒に見える月の表面など写真の暗い部分は、触っても音がしない。月の後ろから太陽の光の輪がうっすらと広がっているところは、低い音がする。月のくぼみからもれる光の断片など、もっと明るいところを触ると高い音がする。

音が出ると同時に振動もして、暗い部分では弱く、明るい部分では強いふるえを感じる。

このアプリの音響エンジニア、マイルス・ゴードン氏は「端末が共振するように製作しました。スピーカーが鳴ると端末全体が振動するようになっています」と解説する。

未来に向けたベータ版

ウィンター氏は次のように語った。「このアプリのゴールは、目の見えない人に見える人とまったく同じ経験をしてもらう、ということではありません。これはあくまでプロトタイプで、更なるツールの開発につながる一歩になればと思っています」

目の見えない人が日食を体験できる他のツールといえば、触地図や本があるが、現状では視覚的な現象としてとらえているものがほとんどだ。

皆既日食に伴う温度や天候の変化、野生動物がどんな行動をとるか、ということはあまり知られていない。

数か月前の会議でウィンター氏に日食の説明を求めた前出の同僚、チャンシー・フリート氏は、アプリのアイデアを聞いたとき、にわかには信じられなかった。

「初め、視覚障害者も日食に注目するようにと言われたときは、内心ちょっと笑っちゃって、本音のバカにした顔が出ないようにしていました」ニューヨークの図書館で支援技術指導員をしているフリート氏はこう語る。「だって冗談にしか聞こえなかったから」

ワンダ・ディアス・メルセド氏は、ガンマ線爆発の研究のため、光のデータを音に変換している。アプリ「エクリプス・サウンドスケープ」では、ナビゲーションとアクセス性についてサポートをした。画像:キャロライン・ビーラー(PRI)

しかし、日食を音で表現するという説明を受けて、ウィンター氏のアプリを使ってみたいと思うようになった。

「人から聞いたり、本で読んだりするだけではなく、自分自身で日食を体験できることを楽しみにしています。実際、視覚的な現象だけのものなんてありえません。このアプリは、その点を改めて証明してくれることでしょう」とフリート氏は言う。

アプリ開発チームは、盲目の天体物理学者であるワンダ・ディアス・メルセド氏の助力を得て操作性の向上を確実にした。

このアプリによって、日食は薄気味悪い昼間の闇だけではないと伝えることができる、と彼女は確信している。

「みんな驚くわよ、『わあ、日食って聞くこともできるんだ!』って。それから『触ることもできるよ!』って」

またディアス・メルセド氏は、このアプリを使うことで、目の見えない子どもたちが科学に興味を持ってくれるだろうと考えている。

「そこが、とても、とても、とても重要なポイントなんです」と彼女は言う。

長く受け継がれるものとして

「エクリプス・サウンドスケープ」チームは、NASAから助成金を受けている。また、国立公園局やブリガム・ヤング大学、市民科学者らの協力を取り付けており、日食の間に人間や野生生物がどんな反応をするかを録音することになっている。

プロジェクトの第2段階は、この録音データについて利用しやすいデータベースを構築し、視覚障害者の人々が簡単に使えるようにすることである。

この部分はプロジェクトの中で、科学的観点からディアス・メルセド氏がもっとも心の高ぶったところだ。

20代後半に視力を失って以来、彼女は研究を続けていくために、望遠鏡のデータを音声ファイルに変換するコンピュータープログラムを自分で組まなくてはならなかった(ディアス・メルセド氏のTEDトークはこちらから)。

このプロジェクトがきっかけとなって、自分のような研究者たちがアクセスしやすいデータ作成方法について関心を持ってもらえるようになれば、とディアス・メルセド氏は考えている。

「私の望んでいることは、このデータベースモデルが科学分野のデーターベースに利用されることです。それによって私たちは、情報への有意義なアクセスが可能になります。そして、このデータベースが普及すれば、私たちが情報から隔離されることがなくなるでしょう」

そんなふうに、日食の影響が1日で終わらず、ずっと続くことを彼女は願っている。

校正:Moe Aritsugi

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