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ジブラルタルを巡る西英戦争? ソーシャルメディア上では「まさか」の声

カテゴリー: 西ヨーロッパ, イギリス, スペイン, ユーモア, 国際関係, 市民メディア, 戦争・紛争, 政治, 移住と移民

この記事の原文は2017年4月6日に掲載されました。

El peñón de Gibraltar visto desde la localidad española de la Línea de la Concepción. Foto de Mihael Grmek para Wikimedia Commons, con licencia CC BY-SA 3.0 [1]

スペイン側の都市、ラ・リネアから見たジブラルタルの岩 写真:マイケル・グルメクがウィキメディア・コモンズに掲載 ライセンス区分:CC BY-SA 3.0

「35年前のこの週に、当時の女性首相(訳注サッチャー英国首相)が、地球の反対側にいる英国人小集団の自由をスペイン語を話す国(訳注アルゼンチン)から守るため現地に特殊部隊を派遣した。現首相も、ジブラルタルにいる英国人を助けるために同じ決意を示すものと、筆者は固く信じている。

元保守党党首マイケル・ハワード氏は、上記の発言をして、近年ジブラルタル [2]を巡りスペインとイギリスの間で激化している論争をさらに刺激した。

ジブラルタルとは何か。それは、地中海の入り口にある戦略上重要な意味を持つ小区画である。スペイン継承戦争 [3](1701年 – 1714年)の間にイギリスに占領され、最終的には1713年のユトレヒト条約 [4]でイギリスに帰属することとなった。

ジブラルタルには様々な生まれの人が居住しているが人口は3万3000にすぎない。そのうち大半を占めるのはスペイン人とイギリス人である。当地の支配権を部分的あるいは全面的にスペインに返還すべきとするスペイン側の交渉要求 [5]に対して、現地の空気は、従来から全く否定的であった。

ジブラルタルはこれまで、欧州連合(EU)の中で英国の海外領土として、税や責務の免除および法律の適用除外といった特権を享受してきた。しかし、ジブラルタル住民は、EU離脱か残留かを決める2016年の英国の国民投票では、大多数がEU残留に投票したものの、彼らに残された選択肢はほとんどないといえる。彼らには、スペインへの統合や両国による共同統治さえも拒否する権利が明確に確保されているが、最終的には英国と共にEUを離脱する道しか残されていない。

4月初旬、欧州理事会は加盟国に指針を配布し、英国との離脱交渉ではこの指針に従うよう指示した。指針には、交渉の結果EUと英国の間に合意が成立した場合も、ジブラルタルに関してはスペインの同意なしには合意は適用されないし、スペインに拒否権 [6]を与えるということが明記されている。

このスペイン側に有利な特権に、怒りを爆発させた保守派政治家たちもいる。その中には前述のハワード氏のほか、ボリス・ジョンソン氏(外務大臣。スペインは、ジブラルタルが英国のEU離脱交渉に関与することに対して受け入れがたい圧力をかけていると訴えている [7])およびマイケル・ファロン氏(国防大臣。 万難を排してジブラルタルを守るとの意向を表明している [8])がいる。また、ジブラルタル自治政府首相ファビアン・ピカルド氏は、英国のEU離脱の代償としてジブラルタルを手放すということは、スペインがジブラルタルを強奪するのを許すということで […] 、明らかにスペイン側の暴挙だ、と述べている。前国防省作戦本部長クリス・パリー海軍少将は、下記のような言葉さえ発している [9]

Spain should learn from history that it is never worth taking us on and that we could still singe the King of Spain’s beard.

スペインは、イギリスを敵に回すのは決して得策ではないということを歴史から学ぶべきだ。イギリスは、カディス湾の襲撃(訳注)をもう一度やろうと思えばやることは可能なのだ。
訳注:1587年、イギリス艦隊がカディス湾でスペイン艦隊を襲撃しスペイン側に多大な損害を与えた事件をいう

タブロイド各紙 [10]はもっと過激になっている。ザ・サン紙の一面にはインターネット利用者の嘲笑を誘うような刺激的な記事が掲載されていた。

くたばれ、スペインの野郎ども。サン紙の英領ジブラルタル・キャンペーンにバンザイ。
追伸:今日のサン紙を読めば15ポンドでスペインの休日を楽しむことが出来るよ。

サン紙のケルビン・マッケンジー記者は、自身の記事 [13]の中でスペイン人を「飲んだくれ」、「恥知らず」と決めつけた。その他、理不尽な脅し記事を多数書いた。例えば、スペインへの飛行を停止してスペイン旅行をボイコットしよう(これはイベリア航空とブリティッシュエアウェイズが同じ企業グループに属していることを無視している)、あるいはイギリスで働いている12万5000のスペイン人を本国へ送還しよう(これもスペインに居住している約24万のイギリス人 [14]のことを無視している)といった記事である。マッケンジー記者は故ロナルド・レーガン米国大統領の言葉を引き合いに出して記事を結んでいる。

Reagan used to have a sign on his desk saying: “If you’ve got them by the balls, their hearts and minds will follow.”
For balls, read cojones.

レーガン元大統領は、次の言葉を座右の銘としていた。
「相手の玉を握れば、相手の心はこちらの意のままだ」
玉を睾丸と読み替える。

スペイン当局は、重要な問題を国民の目から隠すためにジブラルタル問題を煙幕として使うことがよくあるが、今回これほど大きな騒ぎになっても​​ジブラルタル問題に関しては態度を明らかにしてこなかった。英国のテリーザ・メイ首相もこの問題をさほど重視してこなかった [15]

両国のインターネットユーザーは、一層ユーモアのこもった目でこの事態を眺めている。つまり、両国のインターネットユーザーの言動は、挑発的な政治家と一般市民との間に溝があることを浮き彫りにしている。例えば、ハフィントンポスト・スペイン版 [16]が実施した調査で、「ジブラルタルで紛争が起こった場合、従軍を希望するか」という問いかけをしたところ、現状では74パーセントの人が否定的な回答をしている。(問いかけに対して3万1100人から回答を得ている)

幾つかの例外 [17]はあるものの、両国のツイッターユーザーもまた今回の事態をいくらかユーモアを込めてみている。

なぜジブラルタルが欲しいんだ。右回りの円形交差点からもう抜け出せないなら、反対回りしかないじゃないか。

ジブラルタル海戦を最良の方法で和平の方向へ持って行かなければならない。

一体全体、今どうやったらジブラルタルまで行けるんだ。
山羊に乗っていけば、行けるっていっただろう。
いずれにしろ、行けそうにないね。

スペインと英国は、全て17世紀の帆船で戦闘をしなければならないというなら、ジブラルタルで戦争を始められる。

もしジブラルタルに住んでいて、スペインに帰属するか英領のままに留まるかどちらかを選べと言われたら、スペインを選ぶね。だって、スペインの方が気候がいいもの。

スペインに24時間いるけれどまだ誰もジブラルタルを盗もうとしないよ。勝つのはどっちだ。

しかし、この問題全体を真にまともな視点で捉えているのは多分、フランソワ・スミットのツイートである。

シリア:イギリスは化学兵器攻撃後の軍事行動を禁止している。それなのに、ジブラルタルを巡ってスペインを爆撃しようとしている。

校正:Asako Yamada [30]