- Global Voices 日本語 - https://jp.globalvoices.org -

なぜフランス人イスラム教徒である芸人のサミア・オローズマンは自分をUFOのような存在と言うのか

カテゴリー: 西ヨーロッパ, フランス, ユーモア, 宗教, 市民メディア, 移住と移民

パリで行ったソロ公演で、自身の北アフリカ系コミュニティーに対するステレオタイプ的な考えに物申す、サミア・オローズマン。写真:アドゥリーヌ・シア

この記事は元々、2017年8月16日にPRI.org [1]アドゥリーヌ・シア [2]により公開されたものである。PRIとグローバル・ボイスのコンテンツ共有合意のもとに本サイトに転載する。

パリの貧困地区出身の、フランス人イスラム教徒の女性が舞台に立つことができるなんて、ましてやスタンドアップ・コメディアンになるなんてことはかなりの偉業である。

サミア・オローズマンの公式サイトはこちら [3]

パリでのスタンドアップコメディー「Femme de Couleurs(ウーマン・オブ・カラーズ)」の幕開き、37歳のチュニジア系コメディアンは映画「ジョーズ」のテーマと「スター・ウォーズ」のテーマをミックスしたBGMに乗ってステージに歩み出る。
頭からつま先まで黒いベールに覆われた彼女は、不気味にゆっくりと暗いステージ上を歩く。そして、「I’m your mother(おまえの母はワタシだ)」とささやく。観客は大きな笑い声をあげる。

「あら、あなたたち、これが怖いの?」と、黒いベールを指しながら彼女は言う。「大丈夫よ、これ、たためるから」

そして彼女はベールを脱ぎ、ターバンが巻かれている頭を露出する。

ヒジャブ [4]のタブーにも切り込む、これぞオローズマン。フランスでは、公立学校や一部の公務員に対して、イスラム教徒のヘッドスカーフなどあらゆる宗教的標章の着用を禁止している。オローズマンは、ヒジャブの代わりにカラフルなターバンを巻いているが、それを問題視されることがあるという。もっとつつましく、肌の露出を控えなさい、と注意される。

「その人たちに『余計なお世話よ』と言ってやりたいわ。ある人は、私のターバンは本物に比べて、耳たぶが隠れてないからよくないって言うの。あと、セクシーすぎるんだって。そういう人たちには、私があるコメディアンから言われた言葉を伝えたいわ。『ステージでは裸であるべきだ。頭にスカーフを巻いてて、裸になれるのか?』って。でもこれは私という人間の一部であって、私があなたの髪型好きじゃないって言っているようなものよ。私は、人を笑わせるために立っていて、宗教論を説かれに来ているわけじゃないの。私の仕事はコメディアンであることで、今のところうまくやっていると思うわ」

私が彼女に会った日、オローズマンはサーモンピンクのターバンと、それと同じ色のジャケット、赤い口紅にピンクのアイシャドーという出で立ちだった。着たいものを着ることが彼女なりのフェミニストの姿勢なのだと言う。

ショーの中でオローズマンは、北アフリカ人からパリジェンヌまで、さまざまななまりやステレオタイプな見方を笑いに変える。彼女の演じるパリジェンヌは、アメリカのバリーガール(訳注:80年代に流行したお金持ちギャル)のようだ。オローズマンは自分の作るネタにタブーはないと考えており、観客もそれを理解している。

「私が何者か分類するのは難しいわよ」と彼女は言う。「実際、同じバックグラウンドの人間だって私のこと理解できないんだもの。私はみんなをターゲットにするから、私が一体誰なのか分からないの。まるでUFOみたいな存在よ。私は、フランス生まれの女性で、両親はチュニジア人、自由に生きる黒人女性のような服装をして、ターバンを巻いている。私のことは私が決める。どんな型にもはまるつもりはないし、人に気に入られようとも思ってない」

また、オローズマンは自身のチュニジア文化についてもツッコミを入れる。ショーのメインとなるのが、彼女のボーイフレンドに関する、母親との長年にわたる戦いについてである。彼はマルチニーク島出身のフランス人で、イスラム教に改宗した黒人だ。オローズマンは、彼と結婚したいと打ち明けた時の母親のリアクションを演じる。絶望の嘆きだ。

北アフリカの文化にとって、北アフリカ人以外との結婚は、たとえ相手がイスラム教徒であってもご法度である。

オローズマンは、「うちの母親はよく、『お祈りをする黒人より、酒飲みのアラブ人の方がマシ』と言っていたわ」と言う。「これは北アフリカ社会にはびこる理屈なしの人種差別だけど、こんな話はどこにでもある。みんな自分以外の人種を怖がっているの。私はこの話題をステージで取り上げることによって、みんなにこの問題について考えてほしいの」

オローズマンの母親は最終的に結婚を祝福したという。ステージでオローズマンは、自分は夫に対し型破りな妻だと自慢気に言う。

「家ではね、夫が掃除、買い物、料理をして、私が散らかすの。」と彼女は言う。「家に帰ると私は、スカーフをそこに、コートはここ、そしてバッグはあっちに投げ捨てて、そこに彼が『サミア、僕の仕事に敬意を払ってくれよ!』とくるのよ」

彼女はステージ上を素早く動き回り、そして笑顔で優しくこう付け足す。「アラブ人に引っかからなくてよかった!」

そしてさらに、「私が外に出るのを待ち構えている、ここにいるすべてのアラブ人の母親たちへ、あなたが自分の息子に掃除をすることを教えるのであれば私も言うのをやめるわ」

彼女は笑いと拍手の渦に包まれる。

ショーの中でオローズマンは、人々を笑わせると同時に観客の心を開くことを目標としている。

「私はできるだけ人の役に立てるように心掛けているの。もし壁のある場所に橋を架けることができたら私はすごく幸せ。とにかくやってみるわ。もしできたら素晴らしいし、できなかったら他の人に試してみるわ」

校正:Rie Tamaki [5]