(原文掲載日は2017年3月28日です。また、記事中のリンク先は英語またはタイ語です)
タイのメディア監視機関である国家放送通信委員会(NBTC)は、軍統括の国家平和秩序維持評議会(NCPO)の規則に違反したとして、ボイスTVに7日間の放送中止を命じた。
軍は、2014年に実権を掌握してから、NCPOで任命した役人を通じて官僚をコントロールしている。
ボイスTVは、元首相のタクシン・チナワット氏の一族が所有している。今回の放送中止は、失脚した元首相への脅しだという声もある。
軍は、ボイスTVが3月15日から20日にかけて間違った報道をしたとして、放送中止の申し立てをした。報道内容は、ラフ族活動家殺害事件における国の責任、一部の軍人による権力乱用、タイ・カンボジアの国境紛争地帯に建設され問題となっているカジノへの警察の関与などについて問うものだった。
しかし同局の報道・情報番組ディレクターであるプラティープ・コンシブ氏は、この決定に納得がいかない。
The reason we were suspended was due to the NBTC’s claim that we have repeatedly committed violations that affect national security and have presented one-sided reports, of which we beg to differ. This is because we believe opinion is not a threat to national security as long as it is factual.
国家の安全を脅かすような違反を繰り返し、一方的な報道をしたとして、NBTCはボイスTVの放送を中止しましたが、私たちはこれに異を唱えます。言論は、それが事実である限り、国家の安全に対する脅威とはならないはずだからです。
ボイスTVは、報道は放送倫理に基づいており、番組への苦情に対しては当局と協力してきたという声明を発表した。
Voice TV insisted that we have been strictly reporting with media ethics. Even though Voice TV may provide different views, we insist that the contents do not harm national security.
Voice TV has clarified our stance and has continually cooperated with NBTC's programming subcommittee. We have also constantly discussed with media monitor committee and all involved parties to revise the programmes according to their requests.
ボイスTVは、厳格に放送倫理を守って報道をしてきたことを主張する。仮に政府と異なる観点から報道したとしても、国家の安全を傷つけるようなものではない。
ボイスTVは、立場を明らかにして、NBTCの番組委員会と継続的に協力した。また、メディア監視委員会や関係組織の求めに応じて番組内容を調整するために定期的に議論をもった。
「国家の安全を脅かす」という理由でNBTCがメディアの放送を中止したのは、今回が初めてではない。2014年に権力を掌握して以来、NCPOはNBTCに対して、社会秩序とタイ国民の「幸せ」を脅かす報道機関を厳しく監視し取り締まるよう、指示してきた。
この放送中止命令に対して、多くの報道機関から批判の声が上がった。タイ・ジャーナリスト協会とタイ放送ジャーナリスト協会は、この決定は報道の自由を侵害するものであるという共同声明を出した。
東南アジア報道連合は、すべてのTV放送を中止する今回の決定はいきすぎだと指摘した。
The NBTC’s suspension of VOICE TV is an extremely disproportionate response — an overkill shutting down the entire station and all its programming — to broadcast content that is well within the station’s prerogative.
NBTCによるボイスTVの放送中止命令は、あまりにも不当な処分だ。放送局全体とすべての番組を停止するなど、度を越している。放送内容は、テレビ局が持つ権限の範囲内に収まっている。
Twitterユーザーの中には、なぜNBTCが元首相のテレビ局に目を光らせているのか不思議に思う人もいる。
The TV channel owned by Thaksin’s son is targeted (and punished) by authorities and regulators repeatedly for their political commentary. https://t.co/lDneo5Afcc
— Saksith Saiyasombut (@SaksithCNA) March 27, 2017
タクシンの息子がやっているテレビ局は、政治論評について何度もお上や監視機関に目をつけられて処分されている。
Funny how one outlet of all #ThaiMedia keeps getting punished for “one-sided” broadcast, or something or other. https://t.co/t8iI2pQ2yv
— Kaewmala (@Thai_Talk) March 27, 2017
タイの報道機関の中で、1つだけが偏向報道とかで処分され続けるなんておかしいよ。
NCPOは、政治的な和解と文民統制による国の正常化を望むとしているが、メディア分野の業務に規制が続く限り、その目的達成への道のりは不透明である。