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「僕らはまだ石器時代にいる?」カンボジアの人々が「キングスマン」続編の公開禁止に落胆

カテゴリー: 東アジア, カンボジア, 市民メディア, 政治, 映画, 検閲, 言論の自由
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カンボジアの映画館に掲示されている「キングスマン」ポスターとお知らせ。「劇中の場面に対し、多方面から非難の声が寄せられたため、『キングスマン:ゴールデン・サークル』の国内上映を中止致します。このお知らせに対しまして、心よりお詫び申し上げます」フェイスブックより引用

カンボジア政府はハリウッド映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」の公開を禁止した [2]。クメール寺院のひとつを「犯罪麻薬王の拠点」として描いたのが理由である。

本作品は、2014年に公開されたイギリスの秘密諜報機関を描いたアクションコメディ映画の続編である。

カンボジア文化省映画局のボク・ボラク副代表は、禁止の理由を以下のように説明した [3]

After we reviewed the film we found some problems. They used the Cambodian land ? the temple ? as the place where the terrorists stay and make trouble for the world.

映画を視聴後、いくつかの問題点が見つかりました。劇中ではわが国の寺院を、テロリストたちが潜伏し世界を脅かす拠点として描いています。

映画内の寺院は特定されていないが、2001年にアンジェリーナ・ジョリー主演のハリウッド映画「トゥームレイダー」の舞台としても使われたタ・プローム寺院に似ているとされる。

同映画配給会社ウェステック・メディアのサイモン・チューは、同国の検閲にかからないようむしろカンボジアの名を出さないようにしたことを指摘する [3]

We even blocked the name Cambodia and the name does not appear anywhere. Every movie cannot be depicting Cambodia as heaven . . . You need to face the reality that all countries have criminals.

私たちはむしろカンボジアの名前を出さないようにしましたし、その名前はどこにも出てきていません。全ての映画でカンボジアが楽園のように描かれるわけではありません……。全ての国に犯罪者がいるという現実に向き合わなければ。

予想通り、カンボジアの映画ファンたちは映画公開中止の決定に失望した。フェイスブックユーザーのシンタラリス・チーは、「僕らはまだ石器時代にいるのか?」と自分のページに綴った [4]

サムチャンリス・チャップもまたフェイスブックで、「この映画は架空の話」なのだと検閲官たちに呼びかけた [5]

I've seen New York City destroyed a thousand times by bad guys and aliens but nobody cares because it is FICTIONAL.

僕は悪い奴らやエイリアンがニューヨークを破壊するシーンを何千回と観てきているが、だれも気にしていない。だってフィクションだから。

「トゥームレイダー」のタ・プローム寺院は「ロマンチック」に描かれている、という当局の表現も彼は不自然さを感じるという。

In case you didn't notice, nothing about stealing is romantic nor using Cambodians as slaves to break down an ancient temple entrance. But nobody cares. Why? Because it's fictional. Get over it.

あなたたちは気がついていないかもしれないけど、トレジャーハントも、カンボジア人を古代寺院の門を壊す奴らとして使うことも、ロマンチックじゃない。でもだれも気にしない。なぜってフィクションだから。そんなこと気にしなくてもいいでしょ。

同じくフェイスブックユーザーのリークスメイ・ヤンも同意見だ [6]

This is ludicrous, I can't believe these so-called experts could not distinguish between fiction and reality.

To my dear experts! I just wanted to inform you that creativity is boundaryless, and this film is one form of its multiple-realities, multiforms, and multilayers. You should start learning how to recognize it, although, you do not like it by recognizing it you respect the freedom of expression of the others — in this case, the creator of the film.

馬鹿馬鹿しいね、このいわゆる専門家たちがフィクションと現実の区別もできないなんて。

親愛なる専門家の人たちへ!想像力に境界はないってことをただあなたたちに伝えたかった。この映画はいくつもある現実の、いくつもある形態の、いくつもある積み重ねのうちの一つの形なんだ。それを認めることから始めるべきだ。気に食わないだろうけど、認めることでいかなる人の表現の自由も尊重できるんだ。今回の場合は、映画クリエイターの表現の自由を。

ツイッターユーザーのピーター・フォードは、30年以上権力の座にあるフン・セン首相に関連したハッシュタグ「#hunsanity」をつけツイートした。

カンボジア政府は「上映禁止」という重要な任務に注力していることがわかって嬉しいよ。

カンボジアでは以前にも「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のような過度な暴力や性的表現が描かれているハリウッド映画を検閲している。しかし、国を「不適切な描写」で描いているとして政府が上映を禁止するのは近年にない事態だ。

今回の上映禁止はまた、表現の自由に対する政府の弾圧をも強調した。2017年9月以降、30局以上のラジオ局が、放送免許と税金の問題で政府によって閉鎖に追い込まれた。また、英字紙カンボジア・デイリーも政府に求められた [12]高額な税金が支払えず、廃刊を余儀なくされた。

校正:Mami Nagaoka [13], Rie Tamaki [14]