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シリア、アル・ウァエル ここを出るも残るも安住の地はない

カテゴリー: 中東・北アフリカ, シリア, 市民メディア, 戦争・紛争, 移住と移民, 難民

政権と反政府武装勢力の直近の同意に基づき、アル・ウァエルの住民らがジャラーブルス行きのバスに乗り込んでいる。シリア北部にあるこのジャラーブルスは、住民たちが「選ぶ」新たな居住地の一つである。ホムス市にあるアル・ウァエルのマディナ・アル・マード広場にて。2017年3月27日撮影。掲載元:Syria Untoldよりメヒア・アル・カレード。

アル・ウァエルは「革命の本拠地 [1]」と名付けられてきた。シリア反政府勢力とその家族たちは今、ロシア仲介の同意 [2]に基づき、ここの最後の砦を明け渡しているところである。退去を望む住民はいくつかのグループに分かれ、この地を後にする。希望者全員が去った後、この土地はシリア政府軍に接収される手はずになっている。

ただし、これら住民は居残ることもできる。

市民は強制的に追い出され根絶やしにされるのか。明日をも知らない中に留まるのか。それよりも、選ぶということ自体が非常に難しいのだ。ほとんど見通しが立てられない状況だ。

本記事は2部構成になっている。ジョッド・マバーニ [3]Syria Untold [4]に寄稿し、ヤセル・アゼイヤート [5]によって翻訳されたものである。ジョッドはホムスを拠点にするジャーナリストで、市民活動家でもある。この記事はもともと、2017年5月8日に公開され、パートナーシップ協定に基づき、再度当サイトで公開した。前編はこちら。「シリア、アル・ウァエルの人びとの行きつく先は [6]

同意に基づき、反政府側と共に出ていきたい人は、週ごとに分かれて退去することができる。その数は各週あたり1,500から2,000人にのぼる。立ち退きは5月半ばまで続くとみられ、その後にシリア、ロシアの警察官が配備される予定だ。

ロシアの管理下で、彼らがこの地域の探索を行い、残った住民の安全を守る。こうしてあらゆる報復的行動を防ぎ、その後シリア政府軍がその全域を押さえる。ここで特筆すべき点は、何が住民を恐怖に陥れ、噂が回る余地を与えているのか、ということである。この地域が接収され、残った住民がどのような運命をたどるのかを、彼らは憂いているのだ。

このような疑念への答えはない。ただし、シリア政府もホムス県知事のタラール・アル・バラージ [7]を通じ、繰り返し声明を出してはいる。当地域に残っても危害を加えられることはなく、政府としては住民の残留を望んでいる、という内容だ。

政府は住民への誠意を示そうと、地域の代表的な委員会に依頼し、ジャラーブルスやイドリブに退去した、あるいはその予定がある住民のうち、いずれ帰郷することを望む者の名前を記録している。立ち退いた後、彼らが悔やんでアル・ウァエルに戻ってこようという時に備えているわけだ。

このように請け合ったところで、残っている住民が今後、この地域から離れていくことは防げまい。毎週、立ち退いていく光景が繰り返される。緑色のバスがこの地域にやってきて、それぞれの家族を決められた土地へと運ぶ。マディナ・アル・マード広場にいると、そのバスに人々が群がり、ここで互いに別れを交わすのを見る。表情に希望は見られず、その多くはメディアに語ろうとはしない。

バスの前に乗車をためらっている若い女性がいる。親戚全員に別れの言葉を告げた後のことだ。周りにあるものすべてを見やり、足もとに目を落とし、たたずんでいる。おそらくこの先何年も戻れないであろうこの地への最後の一歩。そのことに気づき、思いがあふれてしまったようだ。それもつかの間、待ちかねた他の女性らに押され、バスの中へとすぐに姿を消した。

反対側のバス停にはこのような老人がいる。荷物を持っていない。ここに残るのだろう。孫の男の子の手を固く握りしめている。その後、この子は両親に連れられ、バスに乗り込むことになる。老人は片方の手で息子を抱きしめ、もう片方の手はこの孫の小さな手を強く握っている。

「パパ、おねがい。おじいちゃんとここに残りたい」孫が涙をぼろぼろ流しながら話す。辛そうに、父親は老人から息子の手を引き離す。それから老いた父のひたいに2度キスをして、最後の言葉を口にした。「父さん。許してくれ。こうするしかなかったんだ」彼は妻と子を連れ、乗客たちに隠れるように素早くバスに乗り込む。立ちすくむ老いた父を、一人広場に残して。

2017年4月24日のことだ。ジャラーブルスに向け、6番目の立ち退きがあった。一日中かかったため、住民らはうんざりし、疲れ果てていた。その地域は、翌週の初めまでに再度住民全員の強制立ち退きが予定されている。

反政府側が支配するアル・ウァエルは、激しい軍事行動にさらされてきている、ということも理解しておきたい。政府軍はじわじわと5年以上かけ、最終的に完全包囲 [8]に至った。その結果人口流出が繰り返され、地域人口は減少していく一方だ。

最近、軍の攻撃は激しさを増している。今年2月初めには、アル・ウァエルに2011年以来のパラシュート爆弾 [9]が落とされた。現地の活動家らや医師たちがそう証言している [10]。反政府武装勢力は、退去を望めば反政府側の占領地に移ることもできるという条件を提示された。それを受け、最終的には降伏し、この地域を明け渡した。

校正:Moegi Tanaka [11]