特撮映画の悪役『キルギス星人』に中央アジアのキルギス人がびっくり

Kyrgyz space alien

キルギス星人は時には、等身大のシャコ類のように飛び出た眼をぎらつかせた姿で登場する。 画像はYouTube上のブレイブストーム公式予告編より

2017年10月下旬の週明け、中央アジアの国キルギスタンの人々は、自分たちの故郷が宇宙空間だということを知った。実は宇宙人というばかりか、宇宙人の悪者だったのだ。少なくとも「ブレイブストーム」の製作陣によれば。「ブレイブストーム」は11月公開の日本のB級SF映画で、監督はベテランの特撮名人、岡部淳也氏である。氏は影響力ある日本の映像製作会社、円谷プロの元副社長として有名で、カルトな名作「Cat Shit One」のプロデューサーとしても知られる。

ブレイブストームでは、人間たちが超能力と巨大ロボットスーツを使って、地球上すべての生命の敵であるキルギス星人と戦う。しかし、彼らは中央アジアからの侵略者ではない。映画のキルギス星人はグロテスクなゴム状の鼻先に乱杭歯、時には等身大のシャコ類のように飛び出た眼をぎらつかせた姿の宇宙人である。(訳注:原文著者がチグリス星人とキルギス星人を混同している可能性がありますが、そのまま翻訳しました)

ブレイブストームに出てくる架空の悪役宇宙人とキルギスタンの人々の間には、明らかにほとんど類似点がない。だから、自分たちが日本の新作映画に悪役で登場することを知って、中央アジアの共和国民があっけにとられたのも無理はない。

ふむふむ、この日本映画がどうしたって? キルギス星人の巨大ロボット? 何それ?

どうだ、カッコいいだろオレら!!

「キルギス」っていう名のエイリアンが出てくる日本映画があるんだよ、て話を息子にした。
僕「面白いだろ」
息子「面白くない、バカげてるよ」それから「日本人をエイリアンにして、キルギス映画を撮ったらどう?」
7歳児のユーモアのセンスってデリケートなんだな。

もちろん、これは日本ではよくある形の人種差別だ。今日にでも日本大使を呼びつけて説明を求めるべき案件だ。

ある意味、万博を開催するより国の宣伝になるね…。

あるキルギス国内メディアの記事のコメント欄では、大統領選に二度出馬したある候補が繰り返していた予言「キルギスの人々には、この惑星の未来を形作る上で重要な役割があります」を連想したネット民が大勢いた。

また外交上火種となる発言をすることで有名な、任期満了のアルマズベク・アタンバエフ大統領を引き合いに出す人もいた。

отлично! Давайте наш президент теперь гадостей японцам наговорит! С ними у нас конфликта еще не было

すばらしい! ここはぜひ日本人たちへ、われらが大統領から暴言を吐いてもらおう! 日本とはまだやり合ってないからね!

一方、キルギスタンとこれまで少なからずやり合っている隣国カザフスタンの住人は、隣人をネタに大笑いしている。

日本人ったら! 『星人』だか何だか知らないけど、俺らとっくにキルギス人と戦闘中だよ。たぶんあれは奴らが地球征服する前の予行演習だったんだな。そのうち奴ら、この映画のスポンサーはカザフ人だろうって、俺らを責めるだろうよ。

そもそもなぜ、ブレイブストームで「キルギス」が悪役に選ばれたのか?

判明したのは、ブレイムストームが1970年代初頭の終了した特撮シリーズ2作、「シルバー仮面」と「スーパーロボット・レッドバロン」とを合体リメイクしたものだということだ。キルギス星人はシルバー仮面の作中世界において、1971年にシリーズが始まって以来、ずっと悪役であった。

シルバー仮面もスーパーロボット・レッドバロンも視聴者に不人気で間もなく打ち切りになったため、50年近く前に悪役宇宙人として「キルギス」が選ばれた理由は、正確には断定し難い。

このネーミングには「風の旅行社」ガイドの川崎洋一氏も首をかしげる。「風の旅行社」は中央アジアやその他の行先へのツアーを催行する日本の会社で、キルギスタンへの旅も扱っている

川崎氏のブログの記述によると、シルバー仮面の原作者が悪役の名前に「キルギス」を思いついたとき、この国はまだ旧ソ連の一部だった。氏はこうも言っている。

しかも、第一話出てくるのはチグリス星人。作者はシルクロード通だったのかも知れません。ちなみにNHK特集のシルクロードは1980年からです。

ブレイムストームに出てくるキルギス星人の容姿について、ベラサグン遺跡ブラナの塔近くの石人群のような感じを期待したが違っていたと、川崎氏はブログに書いている。結局、この悪役の名前が何に由来しているのか、同氏にもまったく見当がつかないとのことだ。

日本の怪獣映画に詳しいある人から、この記事へ匿名情報源としての見解をもらったが、名前の由来は簡単に説明がつくのではという。

「日本人の発音で『キルギス』の『キル』は『kill(殺す)』という言葉と同じように聞こえるから、」と彼は言う。「この名前を発案した人は、何かおどろおどろしい響きにしたかったのかも」

それに、彼いわく、日本では映画のキャラクターやミュージシャン、商品などの名前を付けるのに、特に深い意味はなく響きや感覚で、漠然と英語っぽい音にすることが多い。

日本で「コロン(訳注:英語で“colon”は“結腸”の意)」という名の小さい糞状のチョコ菓子や、「カルピス(訳注:“cow piss”は“牛のおしっこ”)」という怪しげな名の飲料、「クリープ(訳注:“creep”は“薄気味悪いやつ”)」というクリーミングパウダーを購入できるのも、そういうわけだ。

かくして「キルギス人」はさしたる理由もなくブレイブストームに抜擢されたのかもしれない。しかし、この映画が大方の予想に反して大ヒットでもしない限り、現実のキルギス人はこの侮辱をほどなく忘れることだろう。結局のところ、昔々地球という惑星がインターネットに侵略されて、真っ先に滅亡したのが人類の集中力の持続時間だったのだから。

校正:Takako Nose

1 コメント

  • 名無しのサブカルオタク

    ブレイブストームが国内で話題にならなかった事が改めて残念だと思った

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