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トリニダード・トバゴを変えるのは「今がその時」と立ち上がるアーティストたち

カテゴリー: カリブ, トリニダード・トバゴ, デジタル・アクティビズム, 市民メディア, 芸術・文化, 音楽

音楽活動を通してトリニダード・トバゴを変えようと集まったアーティストたち#NoGreaterTime(#ノー・グレーター・タイム)写真:グループの好意により掲載(許諾済)

一年ほど前、ケース・ディフェンターラー [1](ソカミュージシャン)、ムハンマド・ムワキル [2]スポークン・ワード [3]・アーティスト)、アニャ・アヤング・チー [4](デザイナー)、ケロン・シェリフ・トンプソン [5]、(音楽プロデューサー)ら他、トリニダード・トバゴをベースに活動しているアーティストたちが一堂に結集し、No Greater Time(ノー・グレーター・タイム) [6]というプロジェクトを立ち上げた。

このプロジェクトには35人以上のアーティストが集まった。その中には、デイビット・ラダー [7]クリス・タンブー・ハーバード [8]エラ・アンダル [9]といったカリプソ [10]のレジェンドたちやデストラ [11]をはじめとするソカ音楽のスターたち、ヴォイス [12]やアーロン・ダンカンなどのソカやカリプソの新世代アーティストもいる。

彼らの曲は、アフリカの飢餓救済のためのチャリティーソングである ”We Are the World [13]” (ウィ・アー・ザ・ワールド)のあとを受け、その後1986年にトリニダード・トバゴでリリース された“Now Is De Time”(ナウ・イズ・ダ・タイム, 1986年のカリプソの名曲)に強く影響を受け ている。NoGreaterTimeのミュージックビデオはFacebook上での視聴回数が 19,000回を超え [14]Youtubeでも15,000回近く再生されている。曲の根底にあるのは「国中の人の心を ひとつにまとめ、より平和で豊かな、団結した社会を共につくろう」というメッセージだ。

参加しているアーティストたちは今、プロジェクト(今のところは歌やビデオ、ウェブサイトなどの活動)を通して、この心が震えるような人間賛歌の底にあるメッセージを、より分かりやすい形で表現しようと試みている。コンサートは2017年11月26日、トリニダード・トバゴの首都であるポートオブスペインのハイアットリージェンシー [15]ホテルにて開催される予定だ。

この素晴らしいプロジェクトをより詳しく知る為に、グローバルボイスは音楽プロデューサーであるケロン・トンプソン(通称シェリフ)にインタービューし、近日行われるコンサートをきっかけに更に勢いを増した #NoGreaterTimeの活動の始まりとそのミッションについて聞いた。

作曲者のニール・ドワラとプロデューサーのケロン・シェリフ・トンプソン#NoGreaterTimeのレコーディングの様子。写真提供:キブウェ・ブラスウェイト。掲載許可済み。

グローバルボイス(以下GV):何が #NoGreaterTimeを始めるきっかけだったのか教えていただけますか?キース氏によると、アーティスト全員が「何かが変わり、何かを伝えなければいけないと感じていた」そうですね。何が発端だったのでしょうか。そして、どのようにして言葉で伝えること(大成功だった歌とビデオ)から実際の行動へと向かっていくのですか。

Sheriff (S): I think I remember the defining moment being the murder of a female Republic Bank Employee [16]. She was missing for a few days and when she was found, the entire country just felt heavy. Muhammed and Anya had started the conversation and Kes had joined in. My inclusion was rather serendipitous. The conversations echoed between them and other creatives, people of that ilk, so it was only natural that we all used our gifts as the best medium to do something. We all felt like we [had] had enough and it was time.

シェリフ(以下S):俺が覚えてる決定的な出来事は、女性銀行員の殺害事件 [16]だったと思う。彼女は数日間行方不明になっていて、発見されたときは国全体が悲しみに沈んだよ。ムハンマドとアニャはその時にこの活動について話し始めて、それにケス [1](ケース・ディフェンターラー率いるバンド)が加わった。俺はたまたま参加したようなもんなんだ。そしてその話は他のアーティスト仲間にも広がっていった。だから、自分たちの才能を使って何かしようと思ったのは自然な流れだったんだ。俺ら全員、もううんざりだと感じていたし、行動を起こすなら「今がその時だ」と思ったんだ。

GV:制作にあたり、どのようにしてあの素晴らしいアーティストたちを集めたのかを話していただけますか?

S: The artists were meticulously chosen. It was difficult because with the wealth of talent we have here, it was hard to be able to include all the artists and musicians we wanted and not miss certain key people. We tried to cover all genres and all generations and get the people we believe who would echo the sentiment of the words we wrote. We still didn't get everyone we set out to get, but the energy of everyone involved seemed to align in the right way.

S: アーティストたちは厳選された人たちだ。人選は難しかったよ。才能豊かな人たちはたくさんいるからね。重要なカギとなる人物を忘れないように、そして参加してほしいアーティストと音楽家を全員メンバーに入れるってのは大変な作業だった。なるべくすべてのジャンルと年代を入れるように、そして俺たちの書いた歌詞に共鳴してくれそうな人たちを選んだんだ。

ソカミュージックの歌手、ケース・ディフェンターラー(右)のレコーディング中の様子。写真提供:キブウェ・ブラスウェイト。掲載許可済み。

GV: 歌とビデオのレコーディングの様子は実際どうでしたか?完成までどのくらいかかりましたか?

S: We were recording the demo for about three months, but the bulk of the song and video were recorded simultaneously over a two-day period at NAPA sometime in April 2017. The remainder of [the] artists recorded at studio express and at my studio for an additional couple of days. Ollie (the video's director, Oliver Milne) and his team were present for all of it.

S: デモを撮るのに大体3か月くらいかかったが、歌とビデオの大部分はNAPA(National Association of Performing Artists=全国公演芸術協会)で2017年の4月ぐらいに、2日くらいで撮り終わったよ。残りのアーティストは Studio Xpress(スタジオ・エキスプレス)と俺のスタジオで数日間かけてレコーディングした。オリー(ビデオのディレクター、オリバー・ミルン)と彼のチームはすべての収録に居合わせていたよ。

GV: #NoGreaterTimの活動によってどんな成果を期待しますか?

S: Personally, I never really thought of it. Just getting to the finish line was success in and of itself. I think I just hope it has a snowball effect and many more good things come out of this as a result.

S: 個人的には、全く考えたことがないな。このプロジェクトを最終地点までもっていくことが成功だと思ってる。これが雪だるま式にどんどん大きくなって、結果としていい事がたくさん増えればと思ってるよ。

スポークン・ワードのアーティストであり、Freetown Collective [17] のメンバーでもあるムハンマド・ムワキル [2]。熱心に楽譜を読んでいる様子。写真提供:キブウェ・ブラスウェイト。掲載許可済み。

GV: ムハンマド・ムワキル氏は、アーティストにとって、その時代の問題に対して答えを出すことが重要だとおっしゃっていました。-この曲やビデオが示す答えとは何なのでしょうか?そして、それをどのようにして行動へと移すのでしょうか?

S: There are too many problems in our time to actually list, but as he said we each have our duty to do what we can in whatever capacity we are able to. I think the fact that the question, ‘There's no greater time for…?’ made each of us think about that honestly and our responses echoed our varied views and beliefs.

S: 今の時代には、数え切れないほどの問題がある。だが彼が言った通り、俺たち一人ひとりが自分のできることを精いっぱいしなくちゃいけないんだ。「今何をするべきなのか?」という質問を素直に考えたとき、俺たちはみんな一生懸命に考えたよ。でも答えが出ると、俺たち一人ひとりの考え方や信念がみな違うことがわかったんだ。

GV: 皆さんはこのプロジェクトに無償でご自身の時間と才能を費やされていると思いますが、これには慈善活動的な面もあったのでしょうか?そこには何か、価値あることへの資金集めの仕組みのようなものがあったのでしょうか?もしそうであれば詳しく教えていただけますか?

S: We collectively decided to [let] @TOGETHERWI_ [18] be the arm that helps deal with that. We know that there's only so much we can do and that organization has their ears to the ground in more ways than we collectively could.

S: その分野は @TOGETHERWI_ [18]に任せようとみんなで決めたんだ。俺たちができることは限られてるし、彼らの組織は俺らより社会の動向に通じてるからさ。

GV: この活動は、トリニダード・トバゴの政治・社会情勢にどのような影響を与えると思いますか?

S: At this point I don't know that it will, but I know we all hope that it does in a positive way. I hope [it] brings more initiatives like this to the forefront. A lot of good people in society have great ideas and are willing to give themselves and their time to help make even the smallest change.

S: 今の段階ではわからない。でも全員がいい方向に向かう事を願っているってことは確かだ。俺たちの活動が先駆けとなって、もっとこういった動きが増えていくことを願うよ。世の中には素晴らしいアイディアを持った人がたくさんいて、社会の助けになろうと自分の時間や労力を惜しみなく注ぎ込んでくれようとしてくれる。それがたとえ小さな一歩だとしても。

GV: わかりやすく、またこのようにオープンであることは大切ですね。このキャンペーンの成果をどのように測りますか? (例えば、カリプソ版アフリカ飢饉救済チャリティソング “Now Is The Time” ⦅ナウ・イズ・ザ・タイム⦆ の成功と比べてみるなど)

S: I, for one, didn't measure it in any way and I can't recall anything being measured apart from taking note of the traction we were getting and how far we were from where we wanted to be. I don't think we made any direct comparisons to anything else or measured the success to that extent. We were all so focused on the task at hand which was getting the project done successfully and efficiently and making sure it made it to as many eyes and ears possible.

S:俺自身はどんな方法でも測ったことはないな。どれだけ自分たちが目標に進んでいるのか、またはどれだけ離れていたのか感じ取る以外しなかったよ。自分たちの成果を他の何かと直接比べたり、成功の大きさを測ろうとしたことはなかったと思う。俺ら全員、ただプロジェクトを成功させること、そして効果的にできるだけ多くの人たちに知ってもらうことだけに集中していたんだ。

ラプソ [19]音楽グループのメンバー、3 Canal(スリー・キャナル) [20]の#NoGreaterTime 収録の様子。写真提供:キブウェ・ブラスウェイト。掲載許可済み。

GV: 今のところメディアの影響や反応はいかがですか?また、この曲に込められたメッセージが、このバーチャルな世界から現実世界にいる聞き手にどのように受け取られることを期待しますか?

S: The response has been great. So many [people] have been a part of the cause and shown so much support. I can't count the amount of people who told me they loved the song and video and gave endless compliments. I, for one, am a bit selfish and think we can can get greater impact or do more, but with a project like this it's important to have longevity rather than great impact for a short period of time.

S:反響はすばらしいよ。たくさんの人がこの活動に関わってくれて、たくさんのサポートを示してくれた。数えきれないくらいたくさんの人が賛辞をくれて、この曲とビデオを好きだと言ってくれたよ。俺は自分勝手だから、もっとすごい事ができるって思ってるんだが、こういったプロジェクトは一瞬のインパクトより長く続くほうが大切なんだよな。

GV: この曲が、どのように人々の心を1つにつないでいるか、具体的に教えていただけますか?それが今回のプロジェクトのひとつのゴールかと思いますが。

S: I don't have many examples, but there's just something that resonates in the video that highlights the things that we may not see otherwise. The love. The togetherness. The unity. So many people have said how proud they feel after seeing it and how much it strikes [a] chord with them. The video is the thing that makes people feel. It's the the first thing that makes people want to help, change and do/be better.

S:あまり多くの具体例はないが、でもビデオの中にきっと、共鳴させる見えない何かがあるんだろうな。それが、愛だったり、一体感だったり、結束であったり。たくさんの人が、ビデオをみた後にとても誇りに感じた、共感したと言ってくれたよ。このビデオは見た人に何かを感じさせるんだ。ビデオを見た人に、人助けをしたいとか、世の中を変えたいとか、もっと良いことをしたいと思ってもらうことが一番なんだよ。

GV: 「我ら共に熱望し、我ら共に成し遂げる//そして何かまだ信じるものがあるのだろうかと戸惑い…」-この歌詞から、トリニダード・トバゴの人々は進むべき道を見失ったと感じますか?どうしたらこの犯罪という手に負えない社会問題を正すことができると思われますか?そして、このプロジェクトと、このプロジェクトに関わった人々はどのようにロビー活動 [21]をしていけばいいのでしょうか?それとも、この活動は感動を与えるだけでとどまってしまうのでしょうか?

S: It isn't so much that we lost our way as much as we need to have more people taking action. Not just talking about change, but being change or being a part of that change. We have a way here of chiming in with opinions and not much action to support it. ‘Together we aspire together we achieve’ is our motto but, given the way things are here sometimes with all the crime and negative stories, it feels like we don't practice what we preach and we all fall short in some way or another. We can do better. All of us.

S:進むべき道を失ったというより、もっとたくさんの人に行動を起こしてほしいんだ。変化だけの事じゃなく、その変化となり、活動の一部になるという事なんだ。意見を言える場所がここにあるのにそれを支える行動があまりないんだよな。「我ら共に熱望し、我ら共に成し遂げる」はトリニダート・トバゴのモットーだが、犯罪や嫌なニュースを聞くたびにまだまだ実行ができてないと感じるんだ。俺らはもっとできる。俺たちみんな。

校正:Yasuhisa Miyata [22]